第35話 『身の上話』
「なんて言うか……そんなに幼いのに随分と苦労したね……」
僕は2人からその冷酷な話を聞いても、それくらいしか感想を言えなかった。
上手く言葉にできなかったのだ。
「そんなことがあったなら、確かに大人を信じられなくなっても仕方がない。その後も、色々な大人から酷い目にあったんだろ?」
そう言うと、2人は悲しそうに頷いた。
(『食人種』というだけで、そこまで忌み嫌われるものなのか……確かに、僕の元いた世界でも、差別ってのは何年経っても絶えなかったし、そういうものなのかな)
「とりあえず、2人の事情は分かった。話してくれてありがとう、ノア、リノ」
お礼を言われて、純粋に嬉しく感じたリノはまた笑った。
「でも、今日はもう遅い…………のか?」
自分が寄りかかっている方の壁に掛かった時計を指さしたが、今いち見方が分からず疑問口調になってしまった。
「82時……俺たちがいた世界だと、だいたい午後8時半ぐらいかな」
ノアがそう言った隣には、眠たそうにあくびをしているリノがいた。
「それなりに遅いみたいだし、部屋に戻って寝た方がいい。君たちの事情もよく分かった。僕の方からも……フレディさん……だっけ?彼に話をしてみるよ」
「ありがとう……ございます。リノ、行くよ」
ノアは軽くお辞儀をして、眠たそうなリノを連れて部屋を出ようとする。
そして、2人が僕に背を向けたと同時に、ちょうど噂していた人物もやってきた。
「ルーシュ様!先刻はサーラが取り乱してしまい、申し訳ございません……!」
フレディが病室に入ってくるなり頭を深々と下げたので、目の前にいたノアとリノも困惑する。
「……って、どうして君たちがここに?」
頭を上げてようやく2人の存在に気づき、フレディ自身も困惑する。
「ええと……それに関しては色々と……」
* * * * * * * * * * * * *
長い事情説明を経て、ようやく4人の困惑が収まった。
「そういう事でしたか……突然訪問して驚かせてしまいましたね。申し訳ない……」
「ははは……それで、フレディさんはどうして僕を訪ねて?」
「はい、ルーシュ様があの牛の番人と戦う前に、サーラの件で部屋から追い出してしまったことを謝罪しに……それから、そのサーラの事情についても話そうかと……」
フレディが話し始める後ろで、部屋から2人が出ていこうとしていた。
「──待つんだ2人とも」
そう言うと、2人は足を止めてこっちを見た。
「どうやら、今からフレディさんは、サーラさんについて話すらしい。2人は、サーラさんについて知ってるかい?」
2人は互いに目を見合わせ、それから僕に向かって首を振った。
「ほら、フレディさんも2人も、サーラさんも、互いのことを知らなすぎる。フレディさん、サーラさんの今の容態は?」
「安静にして、今は寝ていますが……」
「そうですか……まあ、それならしょうがない。フレディさんがサーラさんの事情を話したら、今度はみんなお互いの事情を話しましょう」
僕の提案に、3人ともやや驚く。
「フレディさんも、2人の話を聞けば、『食人種』を恐れることなんてないと思いますよ?」
図星を突かれたように、フレディの額から1滴汗が零れた。
「寝た方がいいって言ったけど、やっぱりもう少し話そうか。寝るより大事な談話を今から始めるからね」
僕は若干のにやけを浮かべながら、3人を椅子に座るよう誘導した。
「さて、それじゃあ改めて、サーラさんの話をお願いします」
「それなのですが……その……」
フレディは僕に向けて耳打ちの合図を送り、僕も顔を寄せる。
「実はサーラは……風俗店で働いていた者でして……」
その小声の一言を聞いて大体を察し、2人にサーラの話を聞かせないようにする方法をすぐに考える。
「…………まあ、それならしょうがないですね。確かに僕も、自分の知らないところで自分の過去を話されるのは好きじゃないですから。サーラさんが話してくれる気になれば、また皆で話しましょうか」
2人を誤魔化すために、あたかも今聞いたことに対しての返事のように話す。
「そ、そうなんですよ……」
若干の苦笑いをしながらフレディも賛同した。
「そういうわけだから、やっぱりまずは僕らのことを先にフレディさんに話そうか。それでいいかい?」
「はい」「うん!」
* * * * * * * * * * * * *
「……そんなことが……」
僕が最初に自分の身の上話をして、その後に2人が話した。
2人の話を聞いたフレディは、少し考えた後に、勢いよく席を立ち、2人の方を向いて頭を下げた。
「本当に申し訳なかった……こんな所に来るような人だから、君たちにも何か事情はあるのだろうとは思っていた……しかし、そこまで苛まれていたとは知らず…………君たちをどこか避けていたことは認める、だからどうか……許してほしい……」
誠意の込められたその姿勢に、僕ら3人は圧倒された。
その空気に耐えられなかったのか、すぐさまリノが返答する。
「だ、大丈夫だよ? リノもノアお兄ちゃんも、ちゃんとフレディさんにお話しなかったから……ね?お兄ちゃん?」
「あ、ああ……そうだな……だから、もう気にしなくて大丈夫……」
ノアがそう言うと、フレディは恐縮気味に頭を上げ、もう一度席に着いた。
「彼らのことは、フレディさんの方からサーラさんに話していただけませんか? フレディさんからであれば、話を聞いてくれると思うので……」
「承知致しました……では、次は私の番……ですかね?」
「はい」
僕に合わせて、2人も頷いた。
「ですが、話しづらいことであれば、無理されなくても大丈夫ですから」
それを聞くなり、フレディは首を横に振った。
「いえいえ。確かに私はこの話を、自分の墓場まで持ち帰る気でいました。しかし、君たちの話を聞いた以上、信頼の証としても、私だけが話さないというのは許されません」
「そう……ですか……」
何かと律儀な人だけど、一体何が……?
そう考えていると、既にフレディは話し始めていた。
「そうですね……どれくらい前のことでしょうか……この世界に来てからの時間を自然界の時間に換算しますと……凡そ5年ほど前になりますかね」
「そういえば、僕が魔界に来たのは今日ですけど……皆さんはどれくらい前に……?」
「ええと……私はちょうど4年前、サーラもそのあとにすぐ来たのでそれくらい……お2人は確か2年前ぐらいでした」
「かなり長い期間ここに……でも、自然界じゃ1年や半年しか経っていない……」
「そういうことになりますね。まあ、慣れてしまえばあまり気にもなりませんよ……私のような中年では、時間が流れるのが早いですから……」
フレディは苦笑いしながらそう言った。
でも確か……あの魔神は5人いるって言ってたような……
「フレディさんとサーラさん、それからノアとリノ……もう1人いるとあの魔人から聞いたんですが……その人は?」
「ああ、その方であれば、確か2週間前ほどでしょうか?」
2週間前ということは……僕が自然界で魔人に誘拐される3日前ぐらいにここに来たってことか……
「どういった人なんですか?」
そう聞くと、フレディと兄妹はお互いに顔を見合せた。
そして、フレディが話し始めた。
「それが……何もわからないんです。強いてわかっていることは、その方は女性であったこと。名前を尋ねると『呪』と答えたこと……それだけなのです……」
「名前を尋ねて……『呪』と? それは一体……」
僕が考えていると、リノも話し始めた
「リノも、そのお姉ちゃんに話しかけてみたんだけど……その……」
リノが口ごもると、ノアが代わりに話した。
「『近寄らないで……』って言ったんだ……」
ノアの言葉には少し怒気がこもっていた。
3人の話を聞く限り、その人は明らかに人を避けている。
でも、なぜ……?
頭の中で考察するが、出るはずのない答えに時間を費やしてもしょうがないことに気づき、話を戻す。
「すみません、その人のことについてはまた折を見て伺います。話を戻しましょうか」
「承知しました。実は、私はメセイア大陸にあるクロドール王国の騎士団、そこの中隊長を勤めておりました」
メセイア大陸……確か、3大陸のうちの1つで『中心』を意味する大陸だったっけ。
ラナタイトやアレスタルがあるのが、『左』を意味するアリスティア大陸。
その対極に存在するのが『右』を意味するソスティア大陸だったよな。
「自分で言うのも差し出がましいのですが、私自身、中隊長という立場なだけあって、それなりに危険な任務を任されることが多かったのです。それで、その日もいつも通り王国からの任務を受けました。しかし、任務の内容は、魔物の討伐ではなく、とある場所の調査でした。その時の私はなぜ、その任務がいつもより易しいものなのだと錯覚していたんでしょうね──」
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ルーシュ・ラナタイト(回想中)
レベル77
役職:魔法騎士
体力:902
魔力:673
攻撃力:392
防御力:299
魔攻力:406
魔防力:351
素早さ:417
知力:381
アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極
称号:勇者,美食家
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固有魔法:不明




