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第34話 ノアとリノの過去『巡り会うふたり』

 少年が1人、路頭に迷い、空は晴れているはずなのに薄暗くなった道を歩いている。

 人目につかず、野良の犬猫や鳥が生ゴミを漁りに来るような路地裏だった。


 少女と女が、街道を抜け、次第に人気のない場所へと向かっている。

 少女はただ出かけるとだけ伝えられ、その胸を踊らせ、この日の太陽のように目を輝かせていた。


* * * * * * * * * * * *


「どこにお出かけしに行くの?」


 少し歩き疲れた少女が、横を歩く母親に尋ねる。


「……もうすぐ着くわ」


 無愛想な態度でそれだけ答えると、女の歩みは更に早くなり、少女もそれには少し嫌気がさした。

 その道を歩き進めるにつれて、店数こそそのままだったが、雰囲気はどこか怪しくなっていった。

 マチェットが沢山並ぶ肉屋、店員不在でいつでも盗みを働けそうな八百屋。

 そんな店が立ち並ぶ中に、少女が向かおうとしている場所があった。


「ママ……ここ……怖いよぉ」


「…………」


 女は黙っていた。

 少女の手を引き、少女の気持ちとは裏腹に目的の路地裏へと入る。


「ママ……帰りたいよぉ」


「…………」


 言葉にこそ出てはいなかったが、女は少女の無垢な態度が気に食わなかった。

 あの男に出会ってから狂わされた人生を、少しも知らないその表情が。

 今まで溜め込んだ苦しみが、あと数分で解放される。

 女には、腐っても娘である少女を犠牲にしてでも、自己保身をすることしか頭になかった。

 とうとう少女が路地裏へと足を踏み入れてしまったその瞬間に、1人の少年とすれ違った。

 少女が咄嗟にその少年の方を見ると、少年が少年自身の足元を見ていることに気づいた。

 その動作自体には何の違和感もないが、少女は確かに感じとっていた。

 足元を見ているその目が、何もかもを失った虚色だったことを。

 知らない既視感を覚えた少女は、思わず足を止めてしまったが、それはすぐに容赦のない大人に手を引かれ、歩くことを強制された。

 やがて、路地裏の最奥へと到着した時には、少年の姿は見えなくなっていた。


「……居ますか?」


 女の声が、路地裏の中に響く。

 そうして、あの文面通り、取引は成立した。


* * * * * * * * * * * *


 もうどれだけ歩いたことだろうか。

 失って、失って、失った。

 父親を、母親を、自分の居場所を。

 今ではもはや、自分自身のことさえまともに分からず、失おうとしている。

 何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。

 違う、遮断しなければならなかったのだ。

 見てはいけない、聞いてはいけない、感じてはいけないから。

 では、自分は何をすれば良いのだろうか。

 それが分からず、今もただ歩いている。

 自分が害を与える存在ならば、喜んで死ぬ。

 しかし、そう思う度にもうひとつ考えてしまう。

 自分は害など与えたことはない。

 むしろ、与えられてきた方なのだと。

 それなのにどうして、自分は死ななければならないのか。

 この思考の繰り返しで、結局結論を出せない。

 だから、分からない。


 少年は、たった今自分と同じ存在が通り過ぎたことにも気づかないほど憔悴していた。

 無意識のうちに路地裏を抜けると、路地裏の入り口の傍に座り込んでしまった。

 とうとう歩く体力さえ失ったのである。

 座り込み、虚空の中に放り出されていた少年だったが、無意識に抜けていた路地裏での会話が、いつの間にか少年の聴覚を目覚めさせていた。


「──『食人種』です」


 目覚めた時に聞こえた言葉は、奇しくも自分と最も関係の深い言葉だった。


 「ほう……『食人種』ですか…………確かにそのようですね」


 たまたま目覚めた時にそれが聞こえたのではなく、それが聞こえたからこそ、聴覚が目覚めたのだと気づいた時には、少年の聴覚は完全に復活していた。


「いやはや、驚きです。まさかこんなに珍しい子供がいるとは、それに年齢も若い。では値段は……これぐらいでいかがでしょう?」


「はい、お願いします」


「ママ……この人……だれ? 怖いよぉ……」


「……もう……静かにしてよ……!」


 覚醒した少年の聴覚はその一連の会話全てを聞き逃しなく聞いた。

 そうして、やっと自分がやるべきことに気づいた。


「それでは、この子はお預かりさせていただきます。お金は後日お届けいたしますので」


 ──久しぶりに、地面の硬さを思い出した。

 少し前まで雨が降っていたせいで、まだ少し湿っていた。


「分かりました……これで……やっと」


 ──晴れた空はこんなに明るかっただろうか。

 しかし、眩しいとは思わなかった。


「──やだ!やめて! ママ!やめて!」


 泣き叫ぶ少女の声が、よく聞こえた。

 自分は世界にとって害かもしれない。

 存在していてはいけないのかもしれない。

 ──でも、


「──オレも、その子も人間なんだ!」


 少年は既に立ち上がっており、無意識に近くの肉屋のマチェットを超能力のように触れずに動かし、路地裏にいる取引人の手首を切断した。


「──ぐあああ!」


 男の血が勢いよく飛び散り、少女にも女にもかかってしまった。

 突然のことに驚いた2人は声を出すこともできなかったが、目の前の事実を全て理解した頃には、2人の間に少年が立っていた。


「……君だね……『食人種』なのは」


 少年はそう言うと、少女の手を引き、女とは逆の方向に素早く走り出した。


「……えっ?……」


 女は追いかけることはなく、その場に腰を砕けたように座り込んだ。


「──今こっちに、俺のマチェットが……って、なんだよ……これ」


 肉屋の店員が駆けつけ、そのままギルドへと通報された。

 少年と少女は、しばらく走った末に、遠くの森の中へと辿り着いていた。


「はあ……はあ……はあ……大丈夫……かい?」


「うん…………えっと……お兄ちゃん……だれ?」


 運の良い事にその森にはモンスターは出ず、疲れ果てた2人を匿うには最適の場所だった。


「……ノア…………君と同じ、『食人種』の人間だよ」


「……『しょくじんしゅ』って……なに?」


 少女は当然、自分が『食人種』だということは知らない。

 母親からも、病院からも教えられていなかったのだから。


「……君も知らなかったんだね……まあ、後でゆっくり話すよ。君の名前は?」


「…………」


 少女はしばらく黙っていた。

 しかし、決して少年を警戒しているわけではない。


「名前……つけられてない……」


「……つけられてない?……そんなこと……」


 そんなことありえないだろうと考えたが、あの時の親と思われる女の対応からして、確かにそうなのだと理解した。


「ええと……どうすれば……」


 少女を連れ出したは良いものの、これからすべきことなどを考えていなかった。

 それに、男に傷害を与えてしまい、逃げた先も森の中、色々と先が不安になるばかりだった。


 ぐぅ~


 そんな時に、誰かの腹が鳴る音がした。


「……お腹……減った……」


 出かける前に食べたにも関わらず、少女は腹を抑えた。


「……ああ……えっと……」


 少年は周りを見渡したが、食べられる植物を見分ける技術を持ち合わせていない。

 そんな中で少年はとあることを思いついた。


「…………嫌かも……しれないけど……」


 そう言うと、少年は手に持ったマチェットで自分の腕に切り傷を付けた。


「『食人種』なら……これで腹は満たせるはずだ」


 少女は少年の腕から滴る血を見て、少し心配そうな顔を浮かべた。


「……うん、わかった」


 お互いに不安な顔をしながら、少女は少年の腕の下に両手で器を作り、溜まった血液を飲んだ。


「えほっ!えほっ! へんな味……」


 少女が咳き込みながらそう言うと、少年は何も言わずに俯いた。


「でも、ありがとう!お兄ちゃん!」


 少女は、売人の返り血と今飲んだ血で少し汚れた顔で笑顔を作り、少年に言って見せた。

 血で汚れたその笑顔には、猟奇的なそれも感じたが、何より暖かかった。


「……はは……どういたしまして」


 少年はそう言って、少女の顔と両手の血を自分の衣服で拭き取り始めた。


「……名前が……無いんだっけ」


「うん。ママはいっつも、あんた、とか、お前、とかで呼んでた」


 少女の私生活の片鱗を知り、血を拭き取る手に少し力が入る。


「そうか……」


「でも、ママの言うことは聞かないといけないし、嫌なことがあっても我慢しないといけないって言われたから……」


「……それでも、お母さんの所に帰りたいか?」


 少女はしばらく悩み、答えた。


「……やだ!」


「でも……オレも行く先がなくてさ。オレについてきても、こうやって苦しい生活をすることになるかもしれない」


 少年が暗い顔をしてそう言うと、少女は逆に明るい顔をして言った。


「大丈夫だよ! だってお兄ちゃん優しそうだし、さっきみたいに危ないことあっても助けてくれるもん!」


 少年はそれを聞くと、思わず涙を流してしまった。


「お兄ちゃん泣いてるの? やっぱり腕、痛いの?」


「……いや、違うんだ…………こんなオレでも、誰かの助けになれるんだなって……」


 少女はその言葉の意味をよく理解できなかったが、涙を流しながら笑う少年の顔をを見て、また笑顔になった。


「……リノ……はどうかな」


「……?なにが?」


「君の名前、リノ・フィリップス。フィリップスはオレの名字だよ」


 少女はまたしばらく悩んだが、言葉は発さず笑顔を作って答えた。


「それなら良かった」


 ようやく血を拭き取り終わり、これからのことをよく考える。


「ここでもう少し休んでから、近くの町に行こう。オレ達が元々いた所に戻るのは色々と危ないだろうし」


「うん!わかった!」


 こうして、少年と少女は笑顔で向き合い、『兄妹』となった。

 母親が違う本当の兄妹だということは知ることもなく。

==========

リノ・フィリップス(4歳時)

レベル1

役職(ジョブ)司祭(プリースト)

 体力:46

 魔力:33

攻撃力:14

防御力:16

魔攻力:23

魔防力:34

素早さ:19

 知力:15

アビリティ:食人,自然治癒【体】

 称号:食人種

==========


固有魔法:不明



 大幅な更新遅れをしてしまい本当に申し訳ございません。

 これから不定期更新となってしまうことをお許しください。

 更新ペースが変わる際にはまたその時にお伝えします。

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