表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/49

第28話 ノアの過去『呪われた少年2』

「──お父さん?」


 母親の奥で、か弱そうに立っているノアがそこにいた。

 ノアからはちょうど、母親の背中で彼の持っているナイフが見えなかった。


「おお、ノア。もっとこっちに来ていいぞ?」


 それを聞き、ノアはのろのろと近づいていく。

 母親はそれを見ていたが、悩んでいた。

 ──親を取るべきか、夫婦を取るべきか。


 しかし、母親の隣まで歩いたノアは、そこで足を止めた。


「今日のお父さん、怖いよ?」


 その言葉が、母親の見失いかけていた親としての心を再認識させた。


「──そうね、今日のお父さん、疲れてるみたい。あなた、今日はもう休んだら?」


 母親は、見た目だけではあったが、ノアの目の前に出て、その場にしゃがんで、笑顔を作ってみせた。

 その笑顔で、少なくともノアの心は穏やかになった。

 しかし、もう1人の人物だけは、決して心を穏やかにすることはなかった。


 それを聞いた彼は、包丁を握っていた手の力を緩めたと思いきや──


 ──ノアの前に立っていた母親の背中を切った。


「──お母さん!」


 母親は声も出さず、静かに倒れた。

 ノアの目の前には、先ほどの母親の笑顔とは相反した形相の彼が立っていた。

 そして彼は、ノアの目を、その持っている包丁よりも鋭い眼差しで見つめた。


「……いなければ……」


「──え?」


「──お前さえいなければ……! お前さえいなければァッ!!」


 ノアが生まれてから、常に虚ろだった彼の目は、その瞬間だけは、1つの感情に染まっていた。

 ノアは、恐怖を通り越した何かのせいで、泣くことも、逃げることもできずにいた。


「ああぁ……アアアアァァァ!」


 彼は、人間とは思えない叫びを上げ、頭を抑え始めた。

 彼にはもう、何をしてよいのか、何をすればよいのか、何も分からなかった。

 ただ彼には、目の前にいる存在が、自分たちの幸せを全て壊したノアが、何よりも恐ろしく、憎く、とにかく禍々しい何かとして映っていた。

 混沌とした彼の脳内が、ひたすらぐちゃぐちゃになり続ける中で、脳裏によぎった手段の塊が、その手に持った包丁だった。


「──うわあああァァァ!!」


 包丁を両手で握り、高く振り上げ、その数秒後には目の前のそれを刺すつもりだった。

 しかし、頂点まで振り上げたところで、その動きは止まった。


「……」


 彼の中の混沌、その中にあった1つが、彼の動きを止めた。

 それは、彼が数分前に忘れてしまっていた、父親としての心。

 その心を持って見れば、今のこの状況は、ただの虐待だった。

 自分たちの生活を壊した相手を殺そうとしているのではない。

 生活の制限を受けてきた可哀想な子供に、唯一理解をし続けてくれた2人のうちの1人である父親が、その子を裏切って虐待をしているだけだ。


「……はは……ああぁ……」


 彼はもう、言葉を出せる状態ではなかった。

 すっかり手の力が抜け、持っていた包丁を床に落とした。

 ……彼にはもう、何をしてよいか、何をすればよいのか、何も分からなかった。

 その結果、彼はその足を動かし、目の前のノアを無視して、玄関まで向かった。

 ノアは、それまでの流れをただ見ていただけだった。

 元気の無い動きで、ドアのノブを回し、彼はその家から姿を消した。

 その時、彼が考えていたことは、誰にも分からなかった。

 それもそのはず、彼自身も、なぜその結果に落ち着いたのか、分かっていなかったからだ。

 強いてあげるとすれば、母親を切り、子供にもあれだけ憎悪を見せた自分が、その子供を殺し、新しい生活を手に入れることなど到底叶わないと、無意識的に感じていたからだったかもしれない。


 家に取り残されたノアは、母親の傷ついた体を見て、その意識を朦朧とさせていた。

 それも無理もなく、子供ながらにして、先ほどまで父親だった人間から、あのような惨事を体験させられたのだ。

 3歳の子供が、あの父親の思考を読み取れるわけもなく、彼がその出来事で覚えたことは、『大人は酷いことをする人間』ということだった。


 しかし、そんな中でノアは、母親の心配をしていた。


「──お母さん!……お母さん……」


 母親の体を揺すり、何度も呼びかける。

 3歳の子供に傷の状態を判断し、それに対応することなどできない。

 ノアはただ、酷い大人たちの中で、唯一自分を守ってくれる存在の母親を助けたい。

 その一心で、何度も何度も、母親を呼び続けた。


「お母さん! ねえ!起きてよお母さん!」


 ノアの弱った声が、空虚な家の中に響く。

 しかし、誰にも届かない。

 その現実が、ノアを心を苦しみで徐々に蝕んでいった。


「……お母さんも……僕を1人にするの……?」


 弱り果てたその心が発した言葉もまた、家中に響く。

 その時──


「……ごめんね……ノア……」


 それは奇跡か、はたまた呪いか、その言葉が、母親を目覚めさせることに成功した。


「……お母さん……!」


 ノアは心の底から喜びたかったが、傷ついた母親を目の前にして、それを抑制した。


「お母さんは大丈夫……ちょっと背中は痛いけど、すぐ治るから……」


 実際、母親の背中の傷はそれほど深くなかった。

 それを聞いて、ノアは喜びの感情を更に感じていた。

 母親がいなくならない。

 母親は、ずっと自分の傍にいてくれる。

 それだけで、ノアは充分だった。


「お父さんは……きっと帰ってこないけど……でも、大丈夫よ」


 それは、ノアにも分かっていた。

 帰ってこないという喪失感よりも、ノアの中では、あんな父親はいなくなってほしいという欲望の方が強かった。

 これからは、母親だけいれば大丈夫。

 母親さえいれば、自分は1人じゃない。

 幼稚園にも、学校にも行かなくてもいい。

 自分を大切にしてくれる存在が1人いるだけで、それだけで良かった。


「大丈夫……大丈夫だからね……?」


 そう言って、ノアの母は笑顔を作り、その顔をノアに向けた。


「……おかあ……さん……」


 その顔を見て、ノアは唖然とした。

 その笑顔は、母親が切られる前に作ったものと、なんら大差なかった。

 しかし、ノアはすぐに気づいた。

 大差のないその表情の中で、唯一違うところに。


「私は……あなたを見捨てたりしないわ……」


 笑顔を作っている母親の表情……

 その母親の目は……

 彼女の目は、ノアも彼女自身もよく見ていたし、よく知っていた。

 父親であり、旦那であったその人と全く同じ、虚ろな目だった。

==========

ノア・フィリップス(3歳時)

レベル1

役職(ジョブ)銃剣士(バヨネイト)

 体力:43

 魔力:24

攻撃力:21

防御力:21

魔攻力:10

魔防力:14

素早さ:31

 知力:9

アビリティ:食人,自然治癒【体】

 称号:食人種

==========


固有魔法:不明

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ