第27話 ノアの過去『呪われた少年1』
ある日、ごく普通の夫婦の間に、1人の男の子が生まれた。
夫婦はその子の名前に深く悩みながらも、最後には夫の案が採用され、『ノア』という名前を付けた。
しかし、その子が生まれて間もなく、医者から驚愕の事実を告げられた。
「非常に申し上げにくいことなのですが……ノア君はどうやら、『食人種』として生まれてきたみたいなんです」
夫婦は勿論、それをすぐに信じることができなかった。
噂にしか聞いていなかったそれが、何万年に1人生まれるとしか聞いていなかったそれが、今、自分たちの子供として生まれてきてしまったのである。
医者も、その病院で食人種の子供が生まれてきた事例は初めてであり、どのように扱って良いか分からず、渋々夫婦にその事実を伝えた。
「そんな……嘘ですよね……先生……『食人種』なんて……噂の話じゃ……」
「……私とて心苦しいですが、紛れもない事実です」
出産の影響で体調を崩した母親の病室で、3人は沈黙を作った。
「──先生がそんなことを言うなら!私が直接見に行きます!」
その沈黙を、ベッドの上で寝込んでいる母親が破った。
「ダメだ。お前はまだ休んでいてくれ。俺が見に行く」
母親が無理に起き上がろうとするのを、父親が止めた。
「先生、ノアの所へ案内してください」
医者は険しい顔を崩すことなく、父親を案内した。
病室に母親が取り残されてから、また3人の沈黙が作られたのはすぐのことであった。
「あなた、どうだったの! 先生は、やっぱり嘘を──」
「…………」
父親は先程よりも深刻な顔をした。
母親は、それを見ただけで全てを理解した。
「そんな……そんなことって……」
母親はとうとう耐えきれず、涙を流した。
「我々も、『食人種』のお子さんが生まれたケースはなく、どのようにしたら良いか……」
医者自身も、親身に考えてはくれていた。
しかし、やはり心の奥で覚えていた方法を、夫婦に提案せざるを得なかった。
「……お2人にその意思があれば……ですが…………安楽死を……その子に……」
そう言った瞬間、母親はそれを黙って聞くことができず、思わず激昴した。
「そんなこと!……でも……」
医者でもどうすれば良いのか分からないことは、母親に分かるはずもなく、言葉に詰まり、流れ続ける涙を拭う作業に戻った。
すると、病室に戻ってきてから1度も言葉を発していなかった父親が、ようやく口を開いた。
「……もです」
「……え……?」
医者は聞き取ることができず、すぐさま聞き返した。
「俺たちの子供です。安楽死なんて、そんな酷いこと……冗談よしてくださいよ……なあ?」
そう言って、父親は母親の方を見つめる。
彼の目は、虚ろだった。
しかし、そんな虚ろな目には、彼の様々な感情が混じりあって1つになり、ぐちゃぐちゃに詰め込まれていた。
「え、ええ……そうよね……」
母親は、その目を否定することができず、無意識的に肯定を許していた。
もしかすると、この時から母親は気づいていたのかもしれない。
彼が既に、父親という責任を重く感じ、壊れ始めていることに。
* * * * * * * * * * * *
夫婦は、母親の体調が戻ってからは、ノアと3人で暮らし始めた。
他者から見れば、ただの家族にしか見えない。
実際、夫婦もそれを望んでいたし、何より、幼いノア自身も、そのように考えていた。
しかし、夫婦はやはり、その幼いノアを、どこか無意識的に遠ざけていた。
授乳は、母親の母乳を与えることはなかった。
食事をする時、夫婦はノアから極力距離を置いていた。
近隣の家庭との交流はあったが、一緒に遊ばせるようなことはさせなかった。
幼稚園、保育園のような施設に、ノアは1度も行くことはなかった。
それゆえに、ノアは形だけしか知ることができなかった。
『人の温かさ』というものの。
そんな生活を繰り返して、ノアは3歳になった。
夫婦も、食人種の息子を抱えての生活に、すっかり慣れてしまっていた。
──はずだった。
「ねえ、あなた。ノア、今日で3歳よ? 誕生日プレゼントとか、何かそういう……」
「ああ……そうか……適当に選んどいてくれ……」
我が子に対して無愛想な父親の態度が、母親の気に障った。
「適当に……って、どうしちゃったのよ。1歳2歳の時も、ノアのプレゼントはちゃんと考えてくれてたじゃない」
母親が、ほんの少し怒気混じりの声で父親に言う。
「あいつに欲しいものを聞いて、それをやればいいだろ……俺に手間を取らせないでくれ……」
父親のその小さな反抗が、母親の心を沸点まで熱した。
「手間を取らせるな? ふざけないで! ノアには……私たちしかいないのよ! なのに……あなたがあの子を見捨てたら、私しか残らないじゃない!」
その怒りは父親にも伝播し、父親もより強い反抗の意思を見せた。
「あいつの自業自得だろ! あいつが……『食人種』として生まれなければ……!……俺たちだって、普通の家族としてやっていけたはずだ!」
母親は、その発言に完全な怒りを覚えつつも、同時に共感を覚えている自分がいることにも気づいた。
「……でも……だからってどうしちゃったのよ! 今までそれでも頑張ってきたじゃない! 今年で3年目なのよ? 私たちは、3年も頑張ったの……」
母親は、自分の反論もいつの間にかノアを咎めてしまっていることに気づき、それ以上の論を言うのをやめた。
「……職場の同僚に話したんだ」
その言葉を聞いた母親は、最初はすぐに理解することができなかった。
「……話し……た……?」
理解できなかったのではない。
理解したくなかったのだ。
「そしたらよ、そいつ、
──口からでまかせ言ってんじゃねえぞ~?
ってさぁ……冗談だと思い込んでんだよ。まあ、しょうがないことだよな。普通は、『食人種』なんて生まれるわけないから。だから、そん時はそれで良かったんだ……」
「──ねえ!ちょっと待っ──」
「でも、次の日また職場に行ったら、
──お前の子供、食人種なんだって~?
って別のヤツが言ってきたんだ。俺はあいつにしか話してないから、なんでこいつが知ってんのか分からなかったんだ。でも、その後すぐ分かったんだよ。そいつ、言いふらしやがったんだ!」
「──ねえ!お願いだから話を──」
「そいつ、冗談だって思ったんだぜ? 冗談だって思って、面白いから周りに言いふらしたんだ! 俺は最初から冗談なんて言ってねえし、からかいの話題にされる気で話してたわけじゃねえのに!……だからよお……そいつら全員に言ってやったんだ……!
──お前ら全員!あいつに食われて死んじまえよ!
ってなァ……!」
全部話し終えた様子の彼は、とてもすっきりした顔つきだった。
母親は、先ほどまで何かを言おうとしていたが、それを言う気力を、彼にきれいさっぱり奪われていた。
「それからずっと、そこには行ってねえよ。行ったって、クソみてぇなことばっかまた言われるだけだ!」
そうして、彼の脳内ではとある感情が充満した。
「──あいつさえいなければ……!」
彼は、そう言い放つと、台所に向かいながら言った。
「──ノア!今日お前の誕生日だろ! プレゼントがあるんだ……」
彼はそう言って、台所の包丁を手に取った。
流石の行動に、母親は見てるだけではいられず、
「ちょっと!何するつもりなの!」
彼の前に出て、彼のするであろう行動を止めようとしたが、
「──うるさい!お前だってこれがいいだろ? こうすれば、俺たちは救われんだ──」
「──お父さん?」
母親の背中側に、か弱そうに立っているノアがいた。
ノアからはちょうど、母親の背中で彼の持っているナイフが見えなかった。
「おお、ノア。もっとこっちに来ていいぞ?」
それを聞き、ノアはのろのろと近づいていく。
母親はそれを見ていたが、悩んでいた。
──親を取るべきか、夫婦を取るべきか。
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ノア・フィリップス(3歳時)
レベル1
役職:銃剣士
体力:43
魔力:24
攻撃力:21
防御力:21
魔攻力:10
魔防力:14
素早さ:31
知力:9
アビリティ:食人,自然治癒【体】
称号:食人種
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固有魔法:不明




