第26話 『食人種』
「あのね、リノとノアお兄ちゃんはね?」
「うん」
「『しょくじんしゅ』らしいの」
その言葉を聞いて、僕はしばらく思考を停止してしまった。
どんな事実でも受け入れるはずだったが、まさかそんな言葉がこんな小さい少女から出てくるとは思ってもいなかったからだ。
「しょく……じんしゅ……」
そうして僕は、真っ先に目の前の少女のステータスを確認した。
事実を確かめるために。
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リノ・フィリップス
レベル1
役職:司祭
体力:51
魔力:43
攻撃力:15
防御力:18
魔攻力:25
魔防力:40
素早さ:36
知力:21
アビリティ:食人,自然治癒【体】
称号:食人種
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どうやら、リノの言うことは本当だったらしい。
噂には聞いていたが、本当にいるとは思っていなかった。
しかも、あのノアという少年も同じく食人種……
ということは、この2人の親族が食人種だったのか?
「……わかった。『食人種』だろうとなんだろうと、僕はさっきまでの君たちを見て決めた。見捨てたりなんかしないよ」
そう言うと、リノの顔は今までで1番の眩しさを放つ笑顔を浮かべ、
「──ありがとう!ルーシュお兄ちゃん! そうだ!ノアお兄ちゃんにも言わないと! やっぱりルーシュお兄ちゃんなら大丈夫だったよ!って!」
そうして、体育座りをしていたリノは立ち上がり、病室を出ようとするが、
「大丈夫だよリノ。今は休ませてあげた方がいい。ノアも色々あって、心の整理が追いついてないだろうし」
「そっか……うん、わかった!」
リノがドアから離れ、またさっきの場所へ戻った。
すると──
「──その必要はない」
ドアの向こうから、とても落ち着いた声が聞こえた。
その瞬間にドアは開き、入ってきたのはあのノアだった。
「──ノアお兄ちゃん!?」
「オレ達の大事な秘密を、これから暴露するっていう妹から目を離すわけないだろ。こいつが何しでかすか分かったもんじゃないし」
ノアはそう言いながらマチェットの刃の方を上に向けながら、僕にそれを向けた。
「もしかして、ノアお兄ちゃん。まだルーシュお兄ちゃんのこと信じてくれてないの?」
リノの表情が、少しずつ不安に染まっていった。
それを見たノアは、「ふっ」と笑い、
「馬鹿言え、オレが何のためにあんな暗くて寒い廊下で、冷たいドアに耳を傾けながら待ってたって言うんだよ」
そう言うと、リノはぽかんとした表情を浮かべたが、ノアは僕に向けたマチェットと壁に刺さっていたマチェットを腰元に戻し、気にせず続けた。
「ルーシュ……さん。あんたは……その……本当にオレ達を見捨てないでいてくれるのか? 怖がらないでいてくれるのか?」
ノアは、リノの不安顔が移ったかのように同じ顔を浮かべて見せた。
こうなるのも無理はない。
本来、『食人種』とは怯えられて当然の存在だというのは、その名前からして分かる。
しかし、僕にとってはどうでもいい。
──だって、
「君たち……人食べたいって思ったことないでしょ?」
そう言うと、少年の顔からは不安がなくなった。
「いや……まあそうだけど……でも、『食人種』だぞ? 近くにいたら、いつ自分が食べられるかなんて分からないのに……なんでそんなに冷静で……」
「正直、この魔界に来るだいぶ前の僕だったら、君たちのことは怖がっていたかもしれない。でも、僕は"とある凄い人"を知ってるんだよ。」
そう、僕は知ってる。
「とある……凄い人?」
ぽかんとしていたリノは、さらにぽかんとした顔を僕に向ける。
「うん、とても凄い人だよ。その人は……とても優しくてね……しかも、人が危ない目に遭っていたら、すぐに助けようとするんだ。自分が……人殺しになってしまっても……ね」
2人は驚くことなく、僕の話を黙って聞いていた。
「その人が人を殺してしまったのは、僕のせいだったんだ。でも、その人はその持ち前の優しさで、僕を罪悪感と苦しみから解放してくれた。多分、その人自身も、人を殺してしまったことを後悔してる。だけど、その人は優しいと同時に、とても強かったんだ」
「その人は……その後どうしたの?」
リノが真剣そうな顔で聞いてきた。
ノアは黙ったままだが、表情から察するに、リノと同じ疑問が湧いているに違いない。
「その人は……その後もずっと僕の傍にいてくれた。街の人達には噂が広がっていてね? その人のことをよく思う人も、悪く思う人もいた。でも、その人は気にせず、僕に付いて来てくれたんだ」
リノとノアの顔は少しほっとしたような表情だが、まだ話の続きを聞きたがっているような顔だった。
「それでも、僕はまたミスを犯した。ある日ダンジョンに2人で向かったんだ。その時に、僕は油断して魔物に襲われた。それをその人は助けようとしてくれたんだ。だけど、その人も別の魔物に襲われてしまった。僕は何とか助けようとしたんだけど……助けられなかったままこんな所にいるのさ……」
2人は僕の話が終了したのを感じ取ると、どこか心が重たく沈んだような様子になった。
どうやら、感情の起伏が激しい兄妹らしい。
「その人の凄さを伝えるつもりが、うっかり僕の過去の話まで話しちゃったな…………まあ要は、僕はその人を知っているからこそ、その人と似た境遇の君たちの事情を知っても、特に避けたりするつもりは無いってことだよ」
今思えば、僕はフェイに助けられてばかりだった。
ステータスを見る限りじゃ、僕が強いはずなのに、その人間性には圧倒されるほどの差がある。
フェイは……今…………
「──ねぇねぇノアお兄ちゃん!」
突然リノの声が聞こえ、ふとそちらを見る。
「ルーシュお兄ちゃんはいい人だったって分かったし!今度はリノたちのお話しようよ!」
思わぬ提案にやや驚く。
別にそんなつもりで話したわけではなかったのだが……
「うーん……でも……」
流石に過去まで話すのは抵抗があるらしく、ノアは悩んだ。
「大丈夫だって! っていうより、リノはノアお兄ちゃんに会う前までのこと、あんまり覚えてないから、ノアお兄ちゃんが話してくれないといけないの!」
「会う前まで?兄妹なんじゃないのか?」
頭に浮かんだ疑問が、すぐに言葉に出てしまっていた。
「ああ……ええと、まあそうなんだけど……」
この兄妹は本当に複雑な事情を沢山持ち合わせているらしい。
「……分かった。話すよ、俺たちのこと」
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ノア・フィリップス(回想中)
レベル4
役職:銃剣士
体力:60
魔力:31
攻撃力:35
防御力:32
魔攻力:19
魔防力:20
素早さ:47
知力:25
アビリティ:食人,自然治癒【体】,生物感知・下
称号:食人種
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固有魔法:不明




