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第25話 『兄の苦悩』

「──リノに近づくな!」


 マチェットを両手で握った少年が立っていた。

 少年は、僕に対する怒りで満ちた形相でこちらを睨んでいた。


「お兄ちゃん! 違うの……だって……怪我してる人がいたら、治してあげなきゃ──」


「──リノに何をした!」


 少年は妹の話を聞こうとはせず、僕に詰問をするばかりだった。


「落ち着いてくれ……僕は何もしていない。もっと言えば、僕はリノにたった今借りが出来たんだ。リノに何もする気はないよ」


「そうなの! リノが勝手にこの部屋に入って、リノが勝手にこのお兄ちゃんと話してたの! だからこのお兄ちゃんは悪くないの!」


「──大人と話すなって言っただろ! 大人は皆同じだ。そいつと関わってたら、自然界にいた時と同じことになるぞ!」


 自然界にいた時と同じ……自然界では何があったんだろうか?


「──とにかくリノ! 戻ってこい! 今すぐ戻って来たら許してやる」


 困惑しているリノは少年と僕を交互に見る。

 リノはやや泣きそうな表情で、僕らを見つめていた。


「──名前は分からないけど、君、リノのお兄ちゃんなんだろ?」


「──喋るな!」


「兄なのに、妹の気持ちも話も理解しないで、無理やり連れ戻すのかい?」


「──うるさい!」


「怒鳴り散らして従わせて……それこそ、君が嫌ってる大人のすることなんじゃないのかい?」


「──ッ!……黙れ!!」


 少年は顔を下に向けたが、まだ抵抗の意志はそこに滞在していた。


「お前は知らないだろ! 今までオレ達がどんな思いをしてたか! オレ達がどんな人間か! 知らないくせに、言い諭そうとするなよ!」


 少年の反論はどこかぎこちなかった。

 ただ、その反論は、このリノという少女を守りたいという、倫理的かつ道徳的な思いで溢れかえっていた。


「ああ、僕は知らない。君たちのことなんて何も知っちゃいない。でもそれは、君自身が僕に話していないからだ。知り得るはずのない人間に、知らないことを咎めるのは良くない」


 その気持ちを知っていながら、論理的に反論するのもどこか心苦しい。


「だから……君が良ければ、話してくれないか?」


 知り合って数時間ほどしか経っていない人間に、秘密を話せと言われて、話すかと言われたら僕は多分話さない。

 でも、この状況で全員が納得できる解決をするなら、こうするしかない気がする。


「……同じことを、あの大人たちも言った」


「──え?」


 そう言うと、少年は下に向けていた顔を戻し、僕の目を睨んだ。


「あの大人たちも同じことを言った! でも結局、オレ達のことを知ったらあいつらは!助けになんてならなかった! オレ達を見捨てたんだ!」


 どうやら1番の怒りの引き金を引いてしまったらしい。

 あの大人たちというのは、あの時後から部屋に入ってきた2人だろうか?

 一見ただの夫婦に見えたが、少年たちを見捨てた?どういうことだろう。


「──待ってくれ。一旦落ち着──」


 どうにか怒りを沈めようと、落ち着かせようとすると、少年のマチェットが首の横を通り過ぎ、僕の背後の壁に突き刺さった。


「……もうお前とは話さない。リノ、それ以上そっちにいると、今度はちゃんとこいつの首元を刺す」


 そう言うと、少年は腰元からまた新たなマチェットを取り出し僕に向けた。


「やめて……やめてよ……お兄ちゃん……」


「──やめてほしいなら、早く戻ってこい」


 どうやら少年は、怒りのせいで妹に対しても優しくできる余裕はないようだ。


「……わかった」


 リノはその返事だけすると、少年の前まで俯きながら歩き始めた。

 そして──


「お兄ちゃんがこの人を傷つけるなら!リノがこの人の代わりに傷つく!」


 両手を少年の前で思い切り広げ、少年と僕の視線を分断した。


「……何で……だよ……」


 少年の持っていたマチェットが少年の手から離れ、そのまま金属音を立てて床に落ちた。

 それと同時に、少年は崩れ落ちるようにその場に膝を着いた。


「──お前は……あの時まだ4歳だったし、そんなに外にも出てなかった……苦しい思いをあんまりしてこなかったから言えるんだ……そんなこと……」


「違う! 確かにお兄ちゃんはリノよりも辛そうだったし、リノはなんにも分かんなかった。でも、お兄ちゃんが辛そうなのを見て、リノも辛かったの! お兄ちゃんが辛い時は、リノも辛いの!」


 両者の表情は、リノはこちらを向いていないので見えず、少年はリノの背中に覆われて見えない。

 しかし、その表情は容易に想像できた。

 先ほどから、どちらも泣きそうな声で話している。

 お互いがお互いの優しさに触れ、安堵しているのだろう。


「ねえ、お兄ちゃん。リノ、この人ならリノ達のこと分かってくれると思うの」


「──でも……それでオレ達は今まで……あの2人だって結局は……」


「フレディさん達も、もっと良く話せば分かってくれると思う! ほしょうはできないけど、きっと大丈夫!」


 リノの涙声は、いつの間にか、先ほどまでの元気に溢れた声に戻っていた。


「……分かった。オレはもう疲れたよ。リノ、好きにしてくれ」


 そう言って少年はマチェットを拾い上げながら立ち上がった。

 立ち上がったことにより見えた少年の瞼は、やや赤く腫れていた。

 そうして、マチェットを手に握り、病室から出ると、ゆっくりと扉を閉めた。


「ごめんね?お兄ちゃん。けんかしてるところ見せちゃって……」


「大丈夫だよ。話を聞く限り、相当な事情があるんだろ? それに、最後はリノのお兄ちゃんも納得してたじゃないか」


「うん! リノがお兄ちゃんにあんな風に言えたのも、お兄ちゃんのおかげだよ!」


 リノは笑顔でそう言った。

 言っている意味は分かるが、代名詞が重なっているせいでややこしい。


「リノ、お兄ちゃんが2人いるとややこしいから、名前で呼び分けてくれないか? 僕はルーシュ、ルーシュ・ラナタイトだよ」


「ああごめん、おに……ルーシュお兄ちゃん。もう1人のお兄ちゃんはノアお兄ちゃんで、ノアお兄ちゃんは本当のお兄ちゃんなの!」


 話を聞く限り、そのノアという少年が本当の兄なのは何となく分かっていた。


「うん、ありがとうリノ。それで……その……ノアとリノは、自然界で何があったんだい?」


 本題を切り出すと、リノは僕の近くに体育座りをして、話し始めた。


「ええとね……何から話したら良いのか分かんないし、リノもノアお兄ちゃんみたいにいっぱい知ってるわけじゃないんだけど……」


「大丈夫だよ、ゆっくり話してくれればいい」


 ノアがあんなにまで僕を恨めるほどにした要因を、少女の口から聞くことになる。

 どんな事実を言われても、この2人には裏切らないと決めたのだ。


「リノ、あんまりお話が上手じゃないから、大事なことだけ言うね?」


「うん、なんだい?」


「あのね、リノとノアお兄ちゃんはね?」


「うん」


「『しょくじんしゅ』らしいの」

==========

ルーシュ・ラナタイト(回想中)

レベル77

役職(ジョブ)魔法騎士(ルーンナイト)

 体力:902

 魔力:673

攻撃力:392

防御力:299

魔攻力:406

魔防力:351

素早さ:417

 知力:381

アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極

 称号:勇者,美食家

==========


固有魔法:不明

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