プロローグ 『サブキャラ』
《アビリティ『転生者』を獲得しました》
──ここは……どこだ……?
聞こえるのは大勢の人々の歓声、拍手。
見えるのは周りに大勢の人間と、王様らしき格好をした誰か、そして豪勢かつ無限とも言える程に広い空間。
数え切れないほどの未知の情報が目の前にあった。
──僕は……一体……
──ふと気づけば胸を抑えていた。
そうだ……僕は確か……
* * * * * * * * * * * * *
「ナイスゥー!」
携帯から聞こえる2人の明るい声、
目の前にあるパソコンにはクエスト成功の文字が表示されている。
「あのタイミングの回復はマジで助かったわ~。そんだけの反射神経あるなら、役職変えた方がいいだろ絶対!」
「あはは、僕は好きでこの役職なんだよ。サポート型ジョブの方が周りもよく見れて、かつダメージも安定して当てられる。パーティメンバーが危険になったら、バフと回復をかけるだけ。地味な役職のように見えるけど、意外とやり甲斐を感じられて、僕は好きなんだ。それに、僕がアタック型ジョブを使うと回復する人がいなくなるだろ?」
「あーそれもそっか。そうだな! お前にはそれが1番あってる気がしてきたわ!」
僕はあの日、高校の友達と先月に発売したアクションRPGゲームをやっていた。
それはいつもと何も変わらない日常だった。
学校から帰ってきて勉強もせずにゲームをする。
そんなだらしない日常がずっと続くと思っていた。
「あ、ごめん俺ちょっとトイレ行ってくる!」
「ごめん、俺も親に呼ばれたからちょっと行ってくるわ」
「あーうん。行ってらっしゃい」
2人がいない間に次のクエストの準備をしようとしたその時、事は起きた。
「──ッ!」
突然胸が苦しくなった。
それはとても耐えられるような痛みではなく、周りに人がいれば、すぐにでも救急車を呼べと言っていたと思う。
「なお……や…………きょう……す……け」
なんとか力を振り絞って出した声も、運悪く彼らには届かなかった。
一人暮らしの僕では助けを呼ぶことができず、携帯の通話を切り、すぐさま119を入力する。
「1──番、消防です。火──すか、救急──か?」
「救急……です……」
「住所は──ですか?」
「住所は……──ッ!」
「大──で──!? 聞こえ──か!? 今──逆探──そちらに向──ます。あ──はその──安静にし──てく──い」
意識が朦朧とし、もはや何を言っているのか聞こえない。
僕はもって5分ぐらいだろうか?
5分で救急車がこちらに来られるとは思えない。
この絶望的な状況下で、自分の携帯から通知音が聞こえた。
たまたま視線の先にあった携帯の画面を見ると、直哉からのメッセージがあった。
[おーい]
[通話抜けてんぞー]
そのメッセージに反応できるだけの気力はもう残っていない。
今はただ、この体の内から臓器を引き裂かれるような痛みに耐え続けることしかできなかった。
どうせ死ぬなら、最後まで自分の好きなことを考えていたい。
そうして思いついたのは、先程までやっていたゲームのことだった。
そういえば、どうして僕は昔からこういうサポートばかりしてきたのだろうか。
普通……かはわからないが、このアクションRPG系のゲームなら、大体の人は1番活躍できそうなアタッカーになると思う。
だからといって、特別僕がおかしい訳ではなく、恐らくサポーターはその次ぐらいには使われているはずだ。
まあ、これに関しては僕の性格の問題だろう。
基本的に物事の判断はリーダーシップの取れる人に任せ、大きな事を進める時、自分は毎回裏方のような作業を担当していた。
いわゆる『サブキャラ』というやつだろうか。
そこについて否定はしない。
実際、何かのリーダーになったり、人より目立つといった行動は苦手……というより嫌いだった。
痛みを少しでも和らげるために、耳を澄ませて、音に気を向けることにした。
すると、少し外が騒がしくなっていることに気づいた。
さらに耳を澄ませてみると、救急車のあの音が聞こえた。
(最近の消防って凄いんだなぁ……まさかこんな短時間で来られるなんて……)
だがそれでも
「もう……サポートでき……ないけど……──ッ! お前らは……こんな死に方すんなよ!」
──ドン、ドン、ドン
「消防です!大丈夫ですか!」
──20XX年 9月24日(火)午後4時47分
柊朱雨 16歳 死亡