第24話 『訪れる人は……』
僕は……どうなったんだ?
よく覚えてない。
牛と戦って……それから……
──お兄様?
「──この声……フェイ?」
──ようやく目を覚まされたのですね。
僕は真っ白でベッド以外何も置いていない──いわゆる病室のような所で目を覚まし、その傍らには、よく見知った顔があった。
「なんでフェイがここに……いや、そもそもここは……?」
──まだ意識がはっきりとされないのですね。大丈夫ですよ。ゆっくり休んでください。
「確かにはっきりとはしないけど……でも……だってフェイは……」
──どうしたのですか? 私はお兄様の傍にいつでもいますよ。お兄様が危険な時は、必ずお守りします。
「違う……フェイは……あの時……あの時あの巨人に──」
──やはりまだ意識が朦朧としているみたいですね。人を呼んできますから、待っててください。
「──待ってくれ!」
そう言って、立ち去ろうとするフェイの腕を掴もうとした。
しかし、掴んだその瞬間、その腕は霞のように形を崩し歪んだ。
「──え?」
その歪みは伝播し、フェイの容姿全てが歪み始め、その幻影は空気に溶けるように消えていった。
「──フェイ?」
そこには僕しかいなかった。
発したはずの僕の声は、決して小さい声ではなかったが、僕の耳に戻っては来なかった。
そういえば、あの牛に耳を抉られまくったんだったっけ。
ということは、僕はあの牛にぼろ負けして、魔王城の病室に運ばれたってとこかな。
それらしい推測を終えると、病室の扉が開き、これまたよく見知った顔が来た。
その顔はあまり見たくないものではあったが。
「何しに来たんだ? 魔人」
どうやら魔人は僕の状態を知っているらしく、数枚の紙が束になった塊とペンを持っていた。
そして、素早くそこに何かを書いている。
書き終わると、それを僕に見せた。
[格好のつかない姿ですねぇ]
やや久しぶりに会って、しかも怪我人に対する発言として1番間違った回答をくれた。
「忙しいって言ってた割には、僕を嘲りに来るだけの時間はあるんだね」
一方的に煽られるのも嫌だったので、皮肉に言い返しておいた。
[そちらの解釈には語弊があります。私がやるべきことを終え、城に帰ってくると、あなたが勝手にこの病室に堂々と居座っていたのです]
僕をこの部屋に運び込んだのは魔人じゃないとすると、牛か馬……あの牛がわざわざ運ぶとは思えないし、馬の方か。
「まあ、それに関してはどうだっていいよ。お前は何しに来たんだ?」
[特に何も。門番の彼らから、勇者様の状態をお聞きしましたので、ただ様子を見に来ただけです]
「ただ様子を見に来ただけなら、なんでさっきフェイの幻覚を見せた?」
そう聞くと、魔人は少し考えてから、紙とペンを片方の腕にまとめて抱え、
「──────────」
何かを言った。
「おい。喋られると分からないだろ」
しかし、その言葉を無視して魔人は立ち去っていく。
すぐさまベッドから下りて、魔人の後を追う。
そうして、魔人が病室の扉を閉めた直後に扉を開けた。
しかし、その時には既に、左右のどちらを見渡しても魔人の姿は無く、まるで、マジシャンのマジックのようだった。
ただ、そのマジシャンは自分がいなくなるだけでなく、入れ替わりマジックを使ったらしい。
僕の足元を見ると、そこにはリノが居た。
リノは自分の両腕の中に何かしらの本を抱えながら、やや驚いた様子で口を開いていた。
「どうしてここに……?」
「──────!」
何を言ってるのか全然分からない。
何とかして、読唇術のように読み取れないか試みてみるが、分かるわけないことは数秒で気づいた。
「ええと……何から話したら良いのか分からないけど……僕は今耳が聞こえなくて──」
丁寧に説明しようとすると、リノはその言葉を聞いてか聞かずか、僕と扉の隙間をその細身でかつ低い身体で潜り抜けていった。
「ああ、だめだよ入っちゃ」
リノを追いかけるように僕も部屋の中に戻ると、リノは病室の角に置いてあったリノとほぼ同じ高さの椅子を取り、それをベッドの近くに持ってきた。
「リノ?」
そうして、ベッドの上に持っていた本を投げ、ベッドの手すりを梯子代わりに登って、ベッドの上に1度乗ってから、また本を抱え、持ってきた椅子に座った。
なかなかに賢い座り方をした。
リノは椅子に座ると、ベッドのシーツをぽんぽんと掌で軽く叩いた。
どうやらお前も座れと言うことらしい。
「一体何を……」
リノの表情はややムスッとしており、真面目な表情だった。ただ、怒っているわけではないらしい。
しかし、僕が従わなければ本当に怒りそうなので、とりあえず従っておくことにした。
「ええと……リノ?」
リノは僕がベッドに座ったのを確認すると、持っていた本を開き、読み始めた。
「『まほうのつかいかた』……」
本のタイトルからして、リノがやろうとしていることは、大体検討がつく。
リノが魔法で僕に止めを刺そうとしているか、回復魔法を使って怪我を治そうとしているかのどちらかだ。
正直考える必要もない2択問題だが、リノは知らないのだろう。
回復魔法は体力を回復させるだけで、外傷を治すことは出来ないということを。
「──!」
リノが本を見ながら喜んでいる。
使い方が分かったのだろうか?
直後にリノは本をベッドの上に置き、僕の方に両手の掌を向けて、魔法を放とうとした。
「──!」
しかし、やはり上手くはいかなかった。
回復魔法らしい魔力は出ていたが、まだ魔法のイメージが上手く定着していないのだろう。
レクチャーしてあげたいところだが、僕は生まれつき全ての魔法が使えたので、感覚の教え方しか出来ない。
「────!」
何度も健気に頑張っているが、治ることはない。
「────!!」
最後にもう1度放ったが、その努力は儚くも消えた。
「あはは、ありがとうリノ。でも、回復魔法じゃ怪我は治せないんだよ」
「そうなの!? じゃあどうやったら治せるの?」
「傷が治るまで安静に…………え? ……リノの声が……聞こえる……」
何が起こったのか分からなかった。
確かに回復魔法じゃ外傷は治せない。
もし仮に治せたとしても、使い方もまともに知らない少女が、僕の傷を完治できるわけが無い。
「聞こえたの!? 治ったの!? やったあ!!」
リノは一体、僕に何を施したのだろうか。
回復魔法と間違って別の魔法を放った?
いや、外傷を治せる魔法なんて存在しない。
あり得るとすれば……
「リノ……君の──」
喜んでいるリノに質問をしようとすると、病室の扉が勢いよく開いた。
そしてそこには──
「──リノに近づくな!」
マチェットを両手で握った少年が立っていた。
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ルーシュ・ラナタイト(回想中)
レベル77
役職:魔法騎士
体力:902
魔力:673
攻撃力:392
防御力:299
魔攻力:406
魔防力:351
素早さ:417
知力:381
アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極
称号:勇者,美食家
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固有魔法:不明




