第22話 『魔界に安らぎは訪れない』
「──勇者……なのですか……?」
男の方が僕の言葉を遮って、答えが出ているはずの質問を投げかけてくる。
「ええ、そうですが……」
それを言うと、男は僕から視線を外し、女の方へ向けた。
そうしてようやく気づいた。
女は既に僕から視線を外しており、下を向き、小刻みに揺れている自分の体を抱きしめていた。
「──えっ?」
女のその様子は、怯えている以外の何者でもない。
それも、軽度の怯えではない。
顔は青ざめ、時折細く弱い声で呻吟しながら、その身体を震わせている。
「えっと、これはどういう──」
「すみません……一旦この部屋から出ていってもらえますか……」
男は僕に視線を向けることなく、退出を要求した。
女がこうなった原因は、それまでの経緯を見ていたので何となく分かる。
……きっと、僕が原因だ。
詳しい理由は知らないけど、僕はとにかく退出すべきなのだろう。
「……分かりました……その…………いえ、なんでもないです……」
気遣う言葉をかけようかとも思ったが、声をかけることで、逆に状態が悪化しても困る。
僕が退出する寸前まで、彼らが僕を見ることは一切なかった。
唯一見ていてくれていた少女はいたが、その視線も、すぐに隣の少年に抑制されていた。
魔王城の廊下には誰もいない。
警備の1人や2人いてもおかしくはないが……どうしてなのだろうか。
とりあえず、あの4人に影響を与えない場所に行かなければ。
そうして、入ってきた入り口に戻ってくると、先ほどの牛と馬がいた。
「あァ!?だったらテメェを──ん?ユウシャ? 何しに来やがったんだァ? 散歩だったらとっとと帰りやがれ、オレは今テメェを相手にしてられるほど暇じゃねえんだよォ!」
「十分すぎるくらい暇であろうが。ついさっきまで、暇だから何か勝負をしようと言って、結果負けて憤怒していた貴様が何を言っている」
「その戦いの続きをするから暇じゃねえって話だァ! それにオレはまだ負けてねェ! テメェがそんなに勝ち誇りてェなら、次は本当に戦おうや! これでよォ?」
そう言うと、牛はいきなりその背中の大斧を手に取り、馬に向けた。
「阿呆か……ここで我らが戦って、勇者に漁夫の利を得られたらどうする。というより貴様、いつまでこの勇者をそこに野放しにしておくつもりだ」
「だからァ!オレはユウシャを相手にしてる暇は──」
「別に、君らは勝手に争っててくれていいよ。漁夫も別に狙ってない。それよりも、彼らからなるべく遠ざかっていたいんだ」
2人の会話に取り留めがなさそうだったので、割り込んで話し、さっきまで自分が居た部屋の方を指さした。
「遠ざかっていたい? なぜそのようなことを。どういう理由があるのかは知らんが、魔王様がお戻りになられるまで、貴様はこの魔王城から出てはならないぞ」
「ハッ!オレは分かったぜ? オマエ、ニンゲン共と喧嘩したんだろ! オマエみたいなやつが馴染めるわけねェからなァ!」
間違ってはいるがだいたいそんな感じの理由だ。
この牛は勘が鋭いんだか鈍いんだか。
「……まあ、そういうことでいいよ。 魔王城から出られないなら、彼らから1番遠い部屋……いや、部屋じゃなくていい、とにかく遠い場所に行っていいか?」
「ならば、この場で良いだろう。貴様の言っていることは虚言かもしれないからな。我らの目の届くところに置いておけるならば、こちらにとっても好都合だ。遠い場所と言うが、ようするに、人間共から見られない場所ならば良いのだろう? 奴らはつい先ほど外出から帰ってきたばかりだ。恐らくだが、今日はもうあの部屋から出ることはない」
確かに、距離を置くとはいえ、物理的に距離を置きたいわけでは無い。
どちらかと言えば、今後どれだけ魔界にいる必要があるかわからないし、交流は深めておきたい。
「わかった。そうさせてもらうよ」
「言っておくが、あくまで貴様をここに居させておくだけだ。要求を聞いたり、貴様に自由を保証したりする気などはない」
釘を刺されてはいるが、本当に何もする気はないので、特に返事もせずにそのまま了承した。
「おい、何テメェだけで勝手に全部進めてんだァ? オレはオマエがここに居ていいなんて言ってねェだろうが」
先ほどからの様子から何となく察していたが、やっぱり認めてくれないらしい。
ただ、この牛の性格的に多分……
「戦って勝てたら……とかそんなんだろ?」
「ア?何で分かったんだテメェ……」
やっぱり戦闘思考に走っていたらしい。
「阿呆か貴様……もし仮に戦って勇者を殺しでもしたらどうするつもりだ」
「ハッ!オレ程度に簡単に殺されちまうやつはユウシャじゃねェ。もしそんなやつだったなら、魔王様も呆れちまうだろ」
オレ程度とは言うが、魔王城の門番と戦う時なんて、普通はゲームでも大分後半の方だ。
それなのに、レベルがかなり中途半端な勇者に、そんなことをさせてどうなるかなんて、目に見えている。
でも……
「分かったよ、勝てば良いんだろ?」
「オォ?随分とやる気じゃねェか?」
こいつの知能の低さなら……
「待て! 勇者と勝手に戦うなど、魔王様は許可を──」
「オマエは1回黙ってろや! お互いに勝負を了解した時点で、そっからもう対戦は始まってんだァ!」
「……はぁ。ならば、すぐそこでやれ。俺の目に付く場所なら、もしものことは防げる」
そう言って、馬が空中に手をかざし、それなりに広い魔力のフィールドを入口付近の平野に形成した。
「ご丁寧にどうも」
「チッ!余計なお世話だってんだ!」
そう言いつつも、牛はしっかりとフィールドの片端に移動する。
「さっさとテメェも配置につきやがれ! じゃねェと、今すぐテメェのその首切り飛ばしてやる!」
牛の声は距離があるにも関わらず普通の声量として聞こえる。
応援団には必須級の声量だろう。
「僕はここからでいい。お前のタイミングで始めてくれ」
そう言って、魔王城の入口からさほど離れていない距離で準備完了を報告する。
「おもしれェじゃねェか。なら、5秒後に開始だァ!」
──5
その言葉を聞いて、左手に魔力を、右手をスーツの内ポケに入れるように、衣服の内側へ忍ばせる。
──4
牛は背中の大斧を両手で構え、開始を待っている。
──3
馬の方は特に変わった様子を見せることはなく、ただ僕らの戦いを見守ろうとしている。
──2
完全に魔力を溜めきった左手を下に向け、右手は"それ"を握ったまま衣服の内側で隠す。
──1
牛がややフライング気味に動き出し、僕の方へ向かってくる。しかし、その初速は遅く、僕でも見切ることができた。
──0
「ウィズアエラス!」
そう言い放ち、僕は空高く舞い上がってみせた。
見下ろすと、僕が元いたと思われる場所では既に、あの牛が大斧を振り下ろしていた。
初速こそ遅かったが、やはり牛だからか、加速力は半端ではなかったらしい。
そうして、牛が僕の飛び上がった方向を見上げる。
その時には既に、僕は"それ"の照準を牛に定めていた。
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ルーシュ・ラナタイト(回想中)
レベル77
役職:魔法騎士
体力:902
魔力:673
攻撃力:392
防御力:299
魔攻力:406
魔防力:351
素早さ:417
知力:381
アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極
称号:勇者,美食家
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固有魔法:不明




