第21話 『わけありかぞく』
──魔王城にて
「なあ……その人間達っていうのは、一体どんな人達なんだ?」
城内の廊下を魔人と歩きながら、人間達について尋ねる。
「ふむ……良くない質問ですねぇ……魔王様より許可をいただいておりませんゆえ、答えて良いのか分かりませんが……まあ、どうせ人間達の方から勝手に言うでしょう。私が説明するまでもありません」
「それなら、なんで魔界に人間がいるんだ?」
間髪入れずに魔人に質問攻めをする。
「勇者様……すぐに会うことになるというのに、数分も待てないのですか? せっかちですねぇ」
「話題に困らないように質問してやってるんだよ」
「別に……勇者様と仲良くなりたいわけではないですがねぇ……彼らは、ピスティ族と呼ばれる、召喚や転移技術を得意とした魔物の一族に、自然界から召喚され、魔界に連れてこられた人間達なのです」
ピスティ族?聞いたことがないな。
魔界の魔物だから、自然界には情報が入っていないということなのだろうか……
「なあ……今更だが、魔界の魔物は自然界の魔物とは違うのか?」
「良い質問です。ええ、違いますとも。それもかなり。ただ、その話につきましてはかなり長くなりますので、説明はまた別の機会に……というより、今から向かうその部屋に、それに関する書物がございますので、ご自由にお読みください」
その話が終わった頃には、既に廊下の突き当たりまで来ていて、目の前にそこそこ大きい両扉が閉じていた。
「さ、こちらの部屋です。確か4人……いえ、最近新しくまた1人来たので5人でしたね。まあ、それほど長い間交流することにはならないでしょうが、適切に接してあげてください。何ゆえ、ピスティ族が狙った人間ですから、相当厄介だと思いますからねぇ」
「というより聞き忘れてたけど、そのピスティ族に召喚された人間達が、なんで魔王城にいるんだ?」
「ふむ……まあ、どうせ私が答えずとも、中の人間が答えてしまうでしょうからねぇ…………魔王様が助けたのですよ。私達も、なぜそのようなことをするのか、理由は聞かされてはいません。魔王様の趣味のようなものですよ」
「魔王が!?」
どういうことなのかより分からなくなってきた。
魔王が人間を助ける……何か目的があるのだろうか。
もし仮に、ただの善意で助けているのだとしたら……
「それでは、私はこれで失礼します」
「──あっ、おい待ってくれ!」
魔人が立ち去ろうとするのを引き留めようと手を伸ばす。
するとその瞬間、魔人が瞬時に振り返り、僕の手を掴み、合気道のような見事な手さばきで僕に背を向けさせ、同時に扉を開き、僕をそこに押し込んだ。
「私も忙しいのです。それでは……」
執事のようにお辞儀をし、扉を閉めた。
その魔人のスーツ姿も相まって、まさにその姿は執事そのものだった。
「──今……何が……」
あまりの素早さに、自分が転んでいることにもすぐには気づけなかった。
うつ伏せになった体を起こそうと、地面に膝を着いた瞬間、頭上から視線を感じた。
「──お兄ちゃん、大丈夫?」
その声は純粋で可憐な声で、姿は見ていないが、絶対に少女が自分を見下ろしているのだと分かった。
「ああ、うん……大丈夫だよ……」
立ち上がりながら、声に応答する。
立ち上がってその声の正体を見たが、やはり少女がそこに立っていた。
見た目はそこまで突出して特徴があるわけではなく、至って普通の村人と大差ない。
強いていえば、少し服装が汚れていて、やや貧乏感が出てしまっているが……
「……」
応答したから、少女がきっとそれにまた応答するだろうと無意識的に思っていたが、数秒無言が続いてしまった。
「お兄ちゃん……前にも会ったことある?」
「え?」
かなり予想外の返しが来た。
「ええと……人違いじゃないかな?……僕、魔界に今日初めて来たから……」
「そっか……じゃあお兄ちゃん誰?」
「ええと、僕は──」
質問に答えようと、ルーシュ・ラナタイトを名乗ろうとしたその時、少女の後ろから、その少女と似た格好をした少年がやって来て、少女の手を取った。
「そんな奴と話すな、リノ」
これまた予想外の言葉を聞いて、数秒唖然としてしまった。
その冷たい言葉と同時に、冷たい視線も僕に向けられたのを感じた。
「でも、この人も人間だよ? お兄ちゃん」
リノというらしいその少女は、その少年の方を見て言った。
先ほどから僕もお兄ちゃんと呼ばれていたので分かりにくいが、恐らく、この少年は本当の兄なのだろう。
見た目からは年齢差をそこまで感じないが、確かにそんな感じがする。
「そんなのは関係ない。大人と話すな」
どんな経緯があったのかは知らないが、初対面の人に対してその態度は、子供といえどあまり好感は持てない。
それに、大人とは言うが、僕はまだ15なのだが……
「……うん……わかった……」
どこか寂しげに、その少女は少年に手を引かれ付いていく。
目の前から人がいなくなって、ようやく周りを見渡していなかったことに気づいた。
部屋の内装は特に変なところはなく、むしろ少し豪華なようにも見えた。
まず、部屋がとても広く、間取りとしてはだいたい24帖ぐらいある。大きな本棚には、本がずらりと並んでおり、壁には窓が1つだけ着いている。
部屋の左奥には、ベッドが5つ並び、それぞれカーテンで大きい仕切りが作られている。
さっきの2人はそのベッドの傍で静かに背中を丸めて体育座りしている。
少女の方はたまにこちらに視線を向け、様子を伺うが、少年は一切こちらを見ない。
ある程度は部屋を見回したが、残り3人の姿が見当たらない。
どこにいるのか知ってそうなのは……
「あの……この部屋には、君たちの他にあと3人いるんだよね? 今どこにいるか知ってる?」
近づき過ぎずに、距離を少し起きながら話しかけてみた。
「ええとね……フレディさんは昨日──」
真っ先に口を開いてくれたのはリノだった。
「──リノ……」
しかし、少年はやはりそれを止めた。
視線を少女に向け、名前を呼んだだけなのに、全ての意図が伝わった。
分かりきってはいたが、どうして少年はこんなにも大人を嫌っているのだろう。
何か訳があるにしろ、それを話してもらえなければ、力になることすら叶わない。
「あ……ごめんなさい……お兄ちゃん」
一方で妹の方は特に大人を嫌っている様子はない。
この少年がリノの傍にいる限り、情報を得ることは難しいだろう。
魔人はもうどこかへ行ってしまったし、することを探さないと……
そうしてまた、部屋を見回していると、本棚を見て、魔人の発言を思い出した。
── 今から向かうその部屋に、それに関する書物がございますので、ご自由にお読みください。
そういえば、魔界についての本があるんだっけ。
特にすることもないので、すぐにその本棚に近づき、本を探す。
本棚の中の本は、図書館のように、作者の名前の五十音順に並んでいた。
まあ、自然界にしろ魔界にしろ、この世界にある本は全く知らないので、並べられても僕には全くわからない。
とりあえず、それらしいタイトルを探すことにした。
「『世界の魔物図鑑』……魔物ってそんなファンシーな感じで扱っていいのか……?」
魔人が指す本がどれのことなのかわからないので、まずは目に留まったこの本から読んでみることにした。
そうして、最初のページを開き、目次を見た瞬間、後ろの扉が開く音がした。
「──ところで……って、おや?……どちら様ですか?」
そこには男性と女性が2人いて、どうやら会話中だったようだ。
「もしかして……あなたも魔界に召喚されちゃった人ですか? すみません。出迎えることができなくて……」
「いえいえ……僕も、勝手に部屋にお邪魔してしまいすみません」
どちらも、少年のように僕を拒むことはなくて、少し安心した。
この2人は夫婦とかなのだろうか?
ともかく、情報を得られそうだし、色々聞いてみることにしよう。
「では、立ち話もなんですから、そちらでお話しましょうか」
男の言う通り、ベッドとは反対側にあるテーブルを間に挟み、椅子に腰かけて鼎談を始める。
「それで、あなたは?」
「ルーシュ・ラナタイトと言います」
「ラナタイト……もしかして、あのラナタイト王国の?」
やっぱりこの苗字を聞くと皆こういう反応になるのか。
「ええ、ですけど、気遣ったりはしてもらわなくて大丈夫ですよ。なんせ、『勇者』の称号を持っておきながら、特にそんな凄いことはやってない半人前ですから」
そのことを言った瞬間瞬間、目の前の2人の顔から笑顔が消えた。
何か問題のある発言をしてしまったかと思い、咄嗟に言葉を繋げる。
「あ、ええと……僕、何か、おかしな──」
「──勇者……なのですか……?」
男の方が僕の言葉を遮って、答えが出ているはずの質問を投げかけてくる。
「ええ、そうですが……」
それを言うと、男は僕から視線を外し、女の方へ向けた。
そうしてようやく気づいた。
女は既に僕から視線を外しており、下を向き、小刻みに揺れている自分の体を抱きしめていた。
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ルーシュ・ラナタイト(回想中)
レベル77
役職:魔法騎士
体力:902
魔力:673
攻撃力:392
防御力:299
魔攻力:406
魔防力:351
素早さ:417
知力:381
アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極
称号:勇者,美食家
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固有魔法:不明




