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番外 ルーシュの記憶1『兄様には負けない!』

──ラナタイト城にて


「お兄様! お兄様!」


「う~ん……」


 早起きのフェイが、寝ているルーシュを起こそうとしている。


「全く……お兄様が朝に弱いところは、勇者になってからも変わらなかったのですね……」


 起こすのを諦めたフェイは、朝食の準備に取り掛かりに行く。

 今、ルーシュは夢を見ている。

 かつての自分の夢──かつてのルーシュ・ラナタイトの夢を。


* * * * * * * * * * * *


 城内の廊下を走り回る子供がいる。

 9歳のルーシュである。

 ルーシュは走りながら、ザックスを探していた。

 「昨日の勝負では負けちゃったけど、今日こそは絶対に勝つ!」という思いを抱いて、ザックスにもう一度決闘を挑もうとしているのだ。

 走り回っているその姿はいかにも純粋で元気に満ち溢れており、その姿を見た城の兵士達に、無意識ながらその元気を分け与えているほどだった。


 そうして、走り回ること20秒ほど、そこに、12歳のザックスが通りかかった。


「あっ、兄様!」


「おおルーシュ! 危ないだろ? そんなに走り回ったら」


 ルーシュはザックスを発見した瞬間に急ブレーキをかけたつもりだったが、それでもザックスと衝突しかけるほどの距離だった。


「あはは、ごめん。それより、兄様! 今日も戦ってよ! 昨日みたいにはいかないからさ!」


「わかったわかった。それよりお前、まだ朝飯食ってないだろ?」


 ザックスがそう言った瞬間、ルーシュの腹の虫が起床した。


「あはは……そうだったそうだった……」


「先に飯を食べてからな? 『腹が減っては戦ができぬ』だからな!」


 ルーシュはその言葉の意味は理解していなかったが、ザックスの話した意味は理解できた。


* * * * * * * * * * * *


 そして、朝食の時間がやってきた。


「ほっほっほっ。ルーシュはいつもよく食べるのう。いつも元気で、わしも安心するわい」


 ルーシュの食べっぷりは、王のロイすらも感嘆するほどだった。


「だっふぇ……今日こふぉは……ぜっふぁいに……にいふぁまに……勝つんふぁ……から」


「お兄様! 物を食べながら話してはいけません!」


 口いっぱいにパンを詰め込んだルーシュを、6歳のフェイが叱る。


「ははっ! 今日だっふぇ……俺が……勝っふぇやるふぁ!」


「ザックス兄様も!」


「まあまあフェイ、お食事は楽しければ良いのよ。あなたもそう思うでしょ?」


「ほっほっ。その通りだ。礼儀正しいのも良いが、たまには気を抜いても良いのだぞ? フェイ」


「はっはい! わかりました!」


 本来怒られるはずのザックスとルーシュが怒られず、礼儀正しいフェイが注意を受けるという謎の事態が起きた。

 しかし、謎ではあっても異例ではない。

 国王のロイも、その妻のローズも、礼儀正しいフェイでさえも、実は家族で仲良く団欒する──いわゆる、村の者たちと変わらない食事を好んでいる。

 だから、この状況を無理して止めようとするのは、一部の融通の聞かない衛兵やメイドぐらいなのだ。

 この和やかな雰囲気こそが、ラナタイトを形成する一部とも言えるほどに……


* * * * * * * * * * * *


 食事を終えたザックスとルーシュは、すぐさま戦いの用意をし、城の訓練場に向かった。

 2人は向かい合って、今にも動き出しそうな様子である。

 その間に訓練場の管理人が立ち、2人を抑制している。


「昨日戦ったばかりだと言うのに……昨日のお怪我がより痛み始めたらどうするのですか? お2人が大怪我を負った場合、最低限手当てはしますが……それでも、痛みは当分消えませんよ?」


 管理人の言う通り、2人は昨日も戦っていて多少の怪我を負っている。

 ザックスは左足に、ルーシュは右頬に。

 しかし、それでも戦いたいと思うほど、彼らは闘争心が強かった。

 構えている剣は訓練用の木でできた剣だが、心持ちはどちらも真剣なのである。


「大丈夫ですよ管理人さん。この程度じゃ、俺もルーシュも倒れたりしないって!」


 その言葉に対し、ルーシュも大きく頷いて、活力のある様を見せつける。


「はあ……止めたってしょうがないのは知ってます。本当に危なくなった時には止めに行きますからね?」


 その言葉を聞き、2人の視線はまたお互いを向く。

 そして管理人が後ろに下がり、


「それでは……始め!」


 決闘が始まった。


「フィオガ! フィオガ!」


 ザックスはその場から動かず、ルーシュに魔法を当てようとする。

 それをルーシュはしっかりと回避し、地道にザックスと距離を詰めていく。


「はは! 昨日よりかは避けられてるじゃないか!」


 魔法を打っているだけのザックスは余裕を見せつけるが、ルーシュは無言で近寄っていく。


「それなら……これでどうだ!」


 火の玉が突然水弾に変わり、ルーシュも透明な物体を避けるのには少し手間取った。


「──くっ!」


「はは! 避けにくいだろ?」


 それでも、ザックスが魔法を変えた時には既に、ルーシュはザックスのかなり近くまで近寄ってきていた。

 その距離はおよそ5、6歩ほど──剣を伸ばせばわずかに届かないぐらいの距離。

 その距離をザックスは自分の放つ弾幕により保っている。

 ザックスはこの作戦が上手くいっていると思っている。

 しかし、これはルーシュの思い通りだった。


(ザックス兄様は、そろそろ僕が避け続けることしかできないと思ったかな……)


 ルーシュは、ザックスが油断したタイミングで、風魔法を自分の真下に放ち、空中から攻めようとするつもりだった。


(──よし、今だ!)


 そうしてルーシュは風魔法を放った。


「──はあ!?」


 突然のことにはザックスも驚き、魔弾を放つ手を止めることはできなかった。


 ──しかし、


「──うおお! あれ? うわああ!」


 風魔法のコントロールが利かず、風魔法で飛んだことに1番驚いてしまったのはルーシュ自身だった。

 見事にザックスの横に頭から落下し、すぐに起き上がろうとするが、仰向けになった時には既に、首元に剣を構えられていた。


「勝負あり! 勝者、ザックス!」


 管理人が張り切った声で言うと、ザックスは剣を腰に納めた。


「風魔法使ったまでは良かったんだけどな~」


「言われなくてもわかってるよ!」


 そして、その日の勝負はザックスの勝ちで終わった。


* * * * * * * * * * * *


──その日の夜


 夕飯の時間になったが、ルーシュだけ来なかった。


「ルーシュはまだ来とらんのか。珍しい」


「そうねぇ。あの子ならすぐに来るのに……ザックス、フェイ、何か知ってる?」


「いや、何も……」


「私も……存じておりません……」


 そして静寂が訪れた時、4人は外から何かが聞こえていたことに気づいた。


「──ラス! アエラス!」


 窓からその方向を覗くと、そこには庭で風魔法を打ち続けているルーシュの姿があった。


「あらあの子、夕飯の時間になってまで魔法の練習をしてるなんて……」


「……そういうことか……」


「私、呼びに行ってきます!」


 フェイが走り去ろうとするのを、ザックスがすぐに止める。


「大丈夫だよ。夕飯はここに置きっぱなしにしておいてあげよう。多分、そのうち食べに来るさ」


「……そうね。練習の邪魔をしてはいけないもの。今日は4人で食べましょうか」


 ルーシュはまさか見られているなどとは思わず、ひたすら魔法の練習を重ねる。

 ザックスに負けないために。

 魔法を上手く使えるようになって、いつか必ず勝てるようになるために。

==========

ルーシュ・ラナタイト

レベル3

役職(ジョブ)前衛騎士(ヴァンガード)

 体力:93

 魔力:101

攻撃力:103

防御力:99

魔攻力:86

魔防力:82

素早さ:61

 知力:42

アビリティ:王家

 称号:なし

==========


固有魔法:不明

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