番外 ルーシュの記憶1『兄様には負けない!』
──ラナタイト城にて
「お兄様! お兄様!」
「う~ん……」
早起きのフェイが、寝ているルーシュを起こそうとしている。
「全く……お兄様が朝に弱いところは、勇者になってからも変わらなかったのですね……」
起こすのを諦めたフェイは、朝食の準備に取り掛かりに行く。
今、ルーシュは夢を見ている。
かつての自分の夢──かつてのルーシュ・ラナタイトの夢を。
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城内の廊下を走り回る子供がいる。
9歳のルーシュである。
ルーシュは走りながら、ザックスを探していた。
「昨日の勝負では負けちゃったけど、今日こそは絶対に勝つ!」という思いを抱いて、ザックスにもう一度決闘を挑もうとしているのだ。
走り回っているその姿はいかにも純粋で元気に満ち溢れており、その姿を見た城の兵士達に、無意識ながらその元気を分け与えているほどだった。
そうして、走り回ること20秒ほど、そこに、12歳のザックスが通りかかった。
「あっ、兄様!」
「おおルーシュ! 危ないだろ? そんなに走り回ったら」
ルーシュはザックスを発見した瞬間に急ブレーキをかけたつもりだったが、それでもザックスと衝突しかけるほどの距離だった。
「あはは、ごめん。それより、兄様! 今日も戦ってよ! 昨日みたいにはいかないからさ!」
「わかったわかった。それよりお前、まだ朝飯食ってないだろ?」
ザックスがそう言った瞬間、ルーシュの腹の虫が起床した。
「あはは……そうだったそうだった……」
「先に飯を食べてからな? 『腹が減っては戦ができぬ』だからな!」
ルーシュはその言葉の意味は理解していなかったが、ザックスの話した意味は理解できた。
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そして、朝食の時間がやってきた。
「ほっほっほっ。ルーシュはいつもよく食べるのう。いつも元気で、わしも安心するわい」
ルーシュの食べっぷりは、王のロイすらも感嘆するほどだった。
「だっふぇ……今日こふぉは……ぜっふぁいに……にいふぁまに……勝つんふぁ……から」
「お兄様! 物を食べながら話してはいけません!」
口いっぱいにパンを詰め込んだルーシュを、6歳のフェイが叱る。
「ははっ! 今日だっふぇ……俺が……勝っふぇやるふぁ!」
「ザックス兄様も!」
「まあまあフェイ、お食事は楽しければ良いのよ。あなたもそう思うでしょ?」
「ほっほっ。その通りだ。礼儀正しいのも良いが、たまには気を抜いても良いのだぞ? フェイ」
「はっはい! わかりました!」
本来怒られるはずのザックスとルーシュが怒られず、礼儀正しいフェイが注意を受けるという謎の事態が起きた。
しかし、謎ではあっても異例ではない。
国王のロイも、その妻のローズも、礼儀正しいフェイでさえも、実は家族で仲良く団欒する──いわゆる、村の者たちと変わらない食事を好んでいる。
だから、この状況を無理して止めようとするのは、一部の融通の聞かない衛兵やメイドぐらいなのだ。
この和やかな雰囲気こそが、ラナタイトを形成する一部とも言えるほどに……
* * * * * * * * * * * *
食事を終えたザックスとルーシュは、すぐさま戦いの用意をし、城の訓練場に向かった。
2人は向かい合って、今にも動き出しそうな様子である。
その間に訓練場の管理人が立ち、2人を抑制している。
「昨日戦ったばかりだと言うのに……昨日のお怪我がより痛み始めたらどうするのですか? お2人が大怪我を負った場合、最低限手当てはしますが……それでも、痛みは当分消えませんよ?」
管理人の言う通り、2人は昨日も戦っていて多少の怪我を負っている。
ザックスは左足に、ルーシュは右頬に。
しかし、それでも戦いたいと思うほど、彼らは闘争心が強かった。
構えている剣は訓練用の木でできた剣だが、心持ちはどちらも真剣なのである。
「大丈夫ですよ管理人さん。この程度じゃ、俺もルーシュも倒れたりしないって!」
その言葉に対し、ルーシュも大きく頷いて、活力のある様を見せつける。
「はあ……止めたってしょうがないのは知ってます。本当に危なくなった時には止めに行きますからね?」
その言葉を聞き、2人の視線はまたお互いを向く。
そして管理人が後ろに下がり、
「それでは……始め!」
決闘が始まった。
「フィオガ! フィオガ!」
ザックスはその場から動かず、ルーシュに魔法を当てようとする。
それをルーシュはしっかりと回避し、地道にザックスと距離を詰めていく。
「はは! 昨日よりかは避けられてるじゃないか!」
魔法を打っているだけのザックスは余裕を見せつけるが、ルーシュは無言で近寄っていく。
「それなら……これでどうだ!」
火の玉が突然水弾に変わり、ルーシュも透明な物体を避けるのには少し手間取った。
「──くっ!」
「はは! 避けにくいだろ?」
それでも、ザックスが魔法を変えた時には既に、ルーシュはザックスのかなり近くまで近寄ってきていた。
その距離はおよそ5、6歩ほど──剣を伸ばせばわずかに届かないぐらいの距離。
その距離をザックスは自分の放つ弾幕により保っている。
ザックスはこの作戦が上手くいっていると思っている。
しかし、これはルーシュの思い通りだった。
(ザックス兄様は、そろそろ僕が避け続けることしかできないと思ったかな……)
ルーシュは、ザックスが油断したタイミングで、風魔法を自分の真下に放ち、空中から攻めようとするつもりだった。
(──よし、今だ!)
そうしてルーシュは風魔法を放った。
「──はあ!?」
突然のことにはザックスも驚き、魔弾を放つ手を止めることはできなかった。
──しかし、
「──うおお! あれ? うわああ!」
風魔法のコントロールが利かず、風魔法で飛んだことに1番驚いてしまったのはルーシュ自身だった。
見事にザックスの横に頭から落下し、すぐに起き上がろうとするが、仰向けになった時には既に、首元に剣を構えられていた。
「勝負あり! 勝者、ザックス!」
管理人が張り切った声で言うと、ザックスは剣を腰に納めた。
「風魔法使ったまでは良かったんだけどな~」
「言われなくてもわかってるよ!」
そして、その日の勝負はザックスの勝ちで終わった。
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──その日の夜
夕飯の時間になったが、ルーシュだけ来なかった。
「ルーシュはまだ来とらんのか。珍しい」
「そうねぇ。あの子ならすぐに来るのに……ザックス、フェイ、何か知ってる?」
「いや、何も……」
「私も……存じておりません……」
そして静寂が訪れた時、4人は外から何かが聞こえていたことに気づいた。
「──ラス! アエラス!」
窓からその方向を覗くと、そこには庭で風魔法を打ち続けているルーシュの姿があった。
「あらあの子、夕飯の時間になってまで魔法の練習をしてるなんて……」
「……そういうことか……」
「私、呼びに行ってきます!」
フェイが走り去ろうとするのを、ザックスがすぐに止める。
「大丈夫だよ。夕飯はここに置きっぱなしにしておいてあげよう。多分、そのうち食べに来るさ」
「……そうね。練習の邪魔をしてはいけないもの。今日は4人で食べましょうか」
ルーシュはまさか見られているなどとは思わず、ひたすら魔法の練習を重ねる。
ザックスに負けないために。
魔法を上手く使えるようになって、いつか必ず勝てるようになるために。
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ルーシュ・ラナタイト
レベル3
役職:前衛騎士
体力:93
魔力:101
攻撃力:103
防御力:99
魔攻力:86
魔防力:82
素早さ:61
知力:42
アビリティ:王家
称号:なし
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固有魔法:不明




