第18話 『反復する絶望』
「フェイ……今そっちに──!」
右腕に刺さっているシャフトを、もはや自分の物のように扱って進む。
さっき生物感知で見た時の魔物までの距離からして、今は残り数十mぐらいだろうか。
こんなことを考察していても仕方がないので、すぐさま生物感知を使う。
──こうして、やっと理解した。
状況は一変していたのだ。
生物感知で感知した生物は"3"体。
その中の2体は、知っている生物の形だった。
先ほどの魔物と、フェイ。
もう1体は──
そうこうしている間に、その3体のいる広間へ辿り着いた。
生物感知越しの視界でもわかっていたが、それが事実でないことを祈っていた。
しかし、そう現実は甘くない。
「──フェイ!」
生物感知で感知した生物は"3"体。
その中の2体は、残りの巨大な1体によって鷲掴みにされている。
白い長髪と長髭に、深紅の眼、原始人のような装いをした巨大な人間の姿。
フェイと魔物を掴んでいる手や、硬い地面を踏みしめている脚は、その巨体に良く似合い、太く、隆々とした筋肉が目立った。
僕の腕に刺さっていたのは、やはりスピアガンだった。
しかし、そのスピアガンは魔物が持っているのではなく、地面に落とし物のように転がっていた。
どうして巻き上げが加速したのかは、まだわからないが、きっとこの巨大な生物の登場によるハプニングということで間違いないだろう。
よく見れば、広間の後方の壁に大穴が空いている。
巨大な生物は恐らくそこから来たのだろう。
その巨大な生物は、2体を鷲掴みにし、静かに僕を見ている。
「お前は……」
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【名持ち】イモータル・バイオ
レベル56
種族:ジャイアント
体力:9635
魔力:210
攻撃力:3520
防御力:2699
魔攻力:318
魔防力:1002
素早さ:210
知力:163
アビリティ:自然治癒【体】,物理耐性・上,魔法耐性・中,自力・極,抑圧の魔眼
称号:古魔
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「……はは、まともに魔物のステータスを知れたの、これが初めてなんじゃないか?」
ステータスを見る限り、あの時のコボルトほどの強さは持ち合わせていないと思うが、わからない。
素早さを見る限り、かなり遅い。
フェイがこんなのに捕まってしまったということは、よほどの不意打ちだったのだろう。
「古魔……ちゃんと強敵じゃないか……」
巻き上げが終了したスピアガンを右腕にぶら下げながら、相手を警戒する。
「ステータス的に物理はほぼ効かない……魔法重視の僕からすればありがたいね」
何を言おうとその巨体は一切動かず、フェイと魔物を両手に収め、こちらの様子を伺っている。
「フェイは……気絶しているのか」
何もしてこないならば好都合だ。
どのような立ち回りをするか、作戦を深く練られる。
それならまずは……
「言葉がもしわかるなら聞いてほしい。敵意がないというのなら、その左手の少女を解放してくれないか」
要求を聞いてくれるかどうかを試してみたが、一切変えないその表情からは、言語が伝わっているかどうかすらわからない。
無闇に攻撃をしてこない辺り、やはり敵意はないんじゃないかとは思うが……
敵意がないというなら、なぜフェイと魔物はこの巨体に捕まっているのかがわからない。
そうして、お互いに沈黙を保ち、静寂の時が流れる。
すると、ようやくその巨体は口を開いた。
「イニシエ……ノ……ケイヤク……ヲ……」
「古の……契約……?」
そう言うと巨体は、右腕で掴んでいた魔物を投げ捨て、背後の穴へと走り去っていく。
無惨にもその魔物は、投げられた勢いが激しく、身体の原型を僅かにしか留めていない。
「──! 待て!」
咄嗟にその巨体を追いかけようと、足が勝手に走り出した。
その瞬間──
左右の壁と天井が大きな音を立てて崩壊し、それぞれのできた穴から3体の禿頭の巨体が現れた。
僕は天井から落ちてきた巨体の下敷きになってしまい、上半身こそ大丈夫だったものの、下半身は恐らく惨いことになったであろう。
「──お゛あ゛ッ!」
あまりの衝撃と苦痛に悶え、自分でも知らない声が出る。
自分の腹部らしきところから例の液体が流れ出ていることが、嫌でも伝わってくる。
「──ッ! ウ゛ィ゛ズア゛エ゛ラス!」
渾身の風魔法で、上の巨体を吹き飛ばす。
吹き飛ばしたところで、体は自由には動かず、ほふく前進を強制された。
「……ま……て…………」
僕が地道に移動しているのを嘲るかのように、他の左右の2体の巨体が徐々に近づいてくる。
「──ウィズアエラス!」
動きの遅いそれを同時に吹き飛ばすことは容易かった。
しかし、こんな状態と状況では、僕が助かることはほぼない。
白い長髪の巨体は、フェイを肩にかけて穴の奥へとどんどん遠ざかっていく。
「ウィズアエラス!」
風魔法は便利だ。
僕の体を吹き飛ばせば、前に進むこともできる。
その際に、自分の無惨な下半身が見えてしまい、より苦痛をより実感せざるを得ないが。
「──フェイを……放せ!」
なんとかそれが巨大な生物だとわかるぐらいまで近づくことができた。
「エスフィオ──」
火魔法を放とうと力を込めたその瞬間に、その巨体はこちらを向いた。
そして、その深紅の眼をより赫赫と煌めかせた。
それは美しくもグロテスクな色で、僕の動きを抑制させた。
「──な……にが……」
自分でもなぜ止まってしまっているのかわからない。
しかし、その答えはすぐに出た。
「抑圧の……魔眼……」
こいつのアビリティを見た時に確かそんなのがあった。
これだけ強力なものだったとは思っていなかった。
脳がどれだけ命令を下そうと、体は絶対に動かず、いわゆる金縛りというのに近い。
敵はすぐ目の前にいるのに、動くことができない自分がもどかしい。
「……フェ……イ……!」
フェイは気絶したまま起きる気配がない。
深紅の眼が、僕からずっと離れない。
気づかなかったが、僕の後ろにはいつの間にか、先ほどの3体の巨体が到着していた。
どうして、毎回こんなことになるんだ……
僕は、後何回苦しめばいいんだ……
こうも何度も絶望していれば、考えることもなくなってくる。
僕の意志など伝わるはずもなく、禿頭の巨体に鷲掴みにされ、それを確認した白い長髪の巨体はそのまま立ち去っていく。
「ごめん……よ…………フェイ……」
(──いつか……必ず……!)
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フェイ・ラナタイト
レベル52
役職:アークフェンサー
体力:506
魔力:299
攻撃力:329
防御力:205
魔攻力:193
魔防力:236
素早さ:400
知力:382
アビリティ:王家,物理耐性・中,魔法耐性・中,自然治癒【体】,疾風・上,慈悲・上,達人・中,殺人・下
称号:殺人者
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