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第17話 『迅速で神速の刹那』

 若干の血飛沫を目の前に、魔法石が意図せずに手から落ちた。

 いや違う。

 手が魔法石から離れたのだ。

 魔法石の元にあった右手はどこへ行ったのか。

 それを考える暇も与えずに、僕の体は迷路の奥へと引きずりこまれ始めた。


 何が起こっているのか分からない。

 冷静に1つずつ理解しなければ。

 今僕は、何らかの力に迷路の奥へと引っ張られている。

 恐らく引っ張られている原因は魔法石を持っていた右腕。

 自分の右半身の神経を頼りに右手を探すと、右腕は今、僕の後方へ伸びている。

 右腕を確認する為に、引っ張られ続けている体を捩り、迷路の壁も駆使してなんとか方向転換する。

 こうして右腕を見たことで、やっと自分の状況がはっきりわかった。

 右腕の手首の部分──掌から手首にかけておよそ3cmほど、深く何かが食い込んでいる。

 恐らく、スピアガンのような物の先端だろう。

 しかし、迷路の曲がり道を克服できるほど曲がりくねることができるスピアガンなど知らない。

 魔物の特殊武器、またはこのダンジョンのトラップの特殊な仕掛けのどちらかなら……

 腰を引きずられながら生物感知で確認すると、極小なサイズで生物を感知できた。

 恐らく、とても遠くにいるだけで、体が小さい訳ではないのだろう。

 そう考えると、何百m、下手すれば何kmあるこの距離で僕の腕を狙えるのは、相当な魔物なのだろう。

 とにかく、このスピアガンのシャフトを抜かなければ──


 そうして、曲がり角に足をかけ、引力に抵抗する。

 その時、やっと自分の右腕の痛みを知ることができた。


「──ぐっ!」


 体が引っ張られてくれていたおかげで、そこまで痛みは伴っていなかった。

 しかし、いざ体が抵抗すると、その引力は全て右腕に来る。

 その結果、右腕のシャフトの刺さった部分から血が吹き出し始めた。


「千切……れる……」


 咄嗟に出た言葉も、抵抗への意気込みなどではなく、体に抵抗を止めさせる為に勝手に脳が命令した為のものだった。


「まずいな……」


 気づけば体は抵抗を止め、また腰を引きずられている。

 現段階で僕に与えられている選択肢は2つ。

 このまま引きずられ続け、待ち構えている魔物と交戦するか、右腕を切断するかだ。

 正直、もう少しでレベルは100になるし、 論理的に考えれば、切断するのがいい。

 でも、僕は腕が千切れることの苦痛を知っている。

 1度切断されていれば、嫌でも覚える。

 その時自体は腕に気を使っている余裕はなかったけど、実際とんでもない痛みだったのは覚えている。

 どちらにせよ危険な2択で悩んでいたところ、突然、視界に異変を覚えた。


「なんだ……?……暗く……」


 視界に異変を覚えた頃には、既に体は異変だらけだった。

 全身が気だるく、気持ちが悪い。

 それに加え、右腕の刺傷部分から、何か、少量の何かが、確かに流れ込んでくるのを感じる。


「……何……が…………」


 脳もうまく働かなくなってきており、予想ができない。

 こんな調子では、右腕を切断するなど不可能だ。

 まともに体に力を入れることができない。

 ──もう、どうすることもできない。

 そう思った時──


「──はあッ!」


 鋼鉄と鋼鉄がぶつかる音。

 ──鋼鉄のロープと鋼鉄の剣がぶつかる音。

 予想しなくてもわかった。

 そこにいるのは──


「……フェイ……」


「……ッ! 硬い!」


 フェイは体勢を整え、再度攻撃する。


「──はあ!」


 この速さで引きずられているのに追いつけるということは、フェイの固有魔法(ユニークマジック)なのだろう。


「……無駄だ……よ……このロープは……そんな簡単には切れない……」


「切れなくても! 切ります!」


 実に意味のわからない発言だが、意味はわかる。

 しかし、このロープは多分、本当に切れない。

 先ほどから、フェイが何度もロープと火花を散らしているが、傷1つ入っていないのがその証拠だ。


「……フェイ……このロープを辿るんだ……そうすれば、その先に……魔物が……」


 かなり体も不調になってきており、喋ることもままならない。

 そんな中、振り絞って出した言葉はフェイにはしっかり伝わってくれたようで、


「この先……──」


 僕の発言を聞いたフェイは、気づけば僕の目の前からいなくなっていた。

 もう特に速さに驚くことも無い。

 さて、フェイが魔物を倒しに行ってくれたが、それまで僕はずっと引きずられる必要があるのか。

 普通に迷路を曲がる時とかに角にぶつかる時があるからあまり好ましくはないが、フェイが魔物を倒してくれるまでは待つしかない。


 そう考えるや否や──


「──おわっ!」


 突然、引力が強くなり、あまりにも加速が著しかったので、つい変な声がでてしまった。

 そのスピードときたら、僕を引っ張っていることを忘れたかのような速さ──曲がり角にも何度も勢いよくぶつかり、まあまあ痛い。

 僕に物理耐性がなければ、身体中打ち身祭りになっていたことだろう。

 それよりも何故突然加速が……?

 とてつもない速さで向かったフェイが、魔物に何かしらのアクシデントを起こさせたということのなのだろうか。

 もしそうなのだとしても、加速するのは少しよろしくないな……

 体も不調で、まともに曲角打撃を回避する術がない。

 そもそも、何故体調不良なのかもわかっていないのだが。

 そんなことを考えていると、目の前から突然数十匹のコウモリが飛んできた。


「──エスフィオガッ!」


 反射的に魔法を放つことができ、集団の中の数匹は一撃で倒せたが、他は当たらなかったり掠っただけだったりと、そのまま向かってきた。


「──ッ!」


 しかし、コウモリは僕に危害を加えることなくそのまま通り過ぎていった。

 羽が多少体を掠ったけど、痛みはさほどない。

 悪いコウモリじゃなかったのだとしたら、いきなり魔法を放ってしまい、申し訳なく思う。

 遠ざかっていく焼け落ちたコウモリの死骸を見て、そんなことを考えていると──


《レベルが77に上がりました》

《アビリティ『毒耐性・下』を獲得しました》


 ──え?


《なお、アビリティ『転生者』の効果により、アビリティが最大強化され、『毒耐性・極』になりました》


 出たー、異世界系最強主人公がだいたい持ってるスキルランキング上位の『毒耐性』。

 ──その瞬間、体の不調が一瞬で取り除かれていくのを感じた。


「……案外単純な要因だったんだな。というかタイミング良すぎだろ……すごいな」


 不調がなければ、曲がり角には気をつけられるし、変な打ち身をすることも無い。

 このまま引っ張られ続ければ、フェイにも合流できるはず。


「毒か……この世界にも状態異常はあるってことはわかった。今回の場合はシャフトに毒が含まれていたとかそんな感じだったのかな」


 そういえば、確かにシャフトの先から何かを流されていたことを思い出し、予想が確信に変わる。


「フェイ……今そっちに──!」

==========

ルーシュ・ラナタイト

レベル77

役職(ジョブ)魔法騎士(ルーンナイト)

 体力:902

 魔力:673

攻撃力:392

防御力:299

魔攻力:406

魔防力:351

素早さ:417

 知力:381

アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,毒耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極

 称号:勇者,美食家

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