第16話 『トラップハッカー』
「フェイ……何があっても気を緩めちゃダメだよ……」
「え?……それは、どう言う──」
フェイに最低限の警告をした瞬間、自分たちのいる階段部分が全て壁に収納され、見事に僕たちは落下し始めた。
(普通こんなにも落ちるもんかねぇ……)
現状に少し呆れながら、風魔法を打つか打たないか迷う。
今の僕の風魔法だと、普通に打っても強すぎる。
最悪、天井にぶつかるだけになる。
それならば、もしかしたらこのトラップに引っかかるというのが正規ルートかもしれないという可能性にかけて、一旦落ち続けてみるというのもありなのではないかと思う。
「エスアエラス! エスアエラス!」
僕の隣で落ちてる人は必死で魔法を放ってはいるけど、とりあえず周りを一旦照らさないと……
どうか強い魔物がいませんように……
「イリオス!」
そうして周囲を照らすと……
そこに魔物はいなかった。
しかし、
「こりゃまた……在り来りなトラップだねぇ……」
照らした床から、足つぼマットのように張り巡らされた無数の槍。
魔物こそいないが、落ちたら危険……というより、間違い無く死ぬ。
この状況で助かる方法か……
「フェイ、びしょ濡れになっても、文句言わないでくれよ」
「え?──」
「エスネロウ!」
調整などはせず、僕が出せる最大を床に放った。
「エスネロウ! エスネロウ!」
その後も何度も放ち、水をどんどん溜めていく。
「ネロウ!」
その意図に気づいてか気づかずか、フェイも合わせて魔法を放つ。
「エスネロウ!」
そろそろ水面が近くなってきた。
槍はもう水を被っており、先端が見えずほぼ安全な状態、このタイミングで……
「ウィズアエラス!」
放った風魔法は水面を巻き込まず、僕らの重力のみを緩和する。
あの時の反省から、魔法の精度や威力諸々のコントロールを練習した甲斐があった。
この落下速度なら、途中から重力よりも浮力の方が勝って、槍の所まで落ちることはないだろう。
万が一失敗したら……そん時はそん時だ、うん。
そうして、静かに入水する。
「えほっ、えほっ……頭も浸からないぐらいにしようかと思ったけど、流石に無理だったか……」
不覚にも鼻に水が入り、鼻の奥を刺激される。
「えほっ……お兄様、凄いですね! えほっえほっ……」
どうやらフェイも同じようだが、槍が当たった訳では無さそうで良かった。
「よし、それじゃあ……風魔法で慎重に上に登れば……」
そう思い、落ちてきた穴を見上げた。
しかし、頭上は光魔法が留まっているもの以外、何も無かった。
そういえば、ここは洞窟でありダンジョンなのだった。
1度発動した仕掛けが、それっきり戻らないはずがない。
つまり、僕たちは死んだ者と見なされて、収納された階段がまた出てきたのだ。
「そうか……それは予想外だったな……」
「どうしましょう……天井はかなり頑丈そうですから、壊すのは難しいですし」
2人でぷかぷかと水面に顔を出して浮きながら悩んでいる。
客観的に見れば面白い状況だが、実際は下に槍があるため、油断すると刺さる。
「そういえば、フェイ。このトラップには、今まで誰も引っかからなかったのかな」
「まさかそんなはずは……」
フェイは最初は否定したが、すぐに僕の言わんとしていることを理解したようだ。
「どうやら、"ここの"トラップでは誰も死んでないみたいだね」
「……そうみたいですね」
そうして、僕たちは天井から目線を外し、自分たちの壁に目を向けた。
よくよく見ると、所々に亀裂が入っていて、簡単に壊せそうな壁が四方にあった。
「フェイ、危険だからこっち側に来てくれ」
「気をつけてくださいね」
フェイに注意を促されながらも、フェイが僕の背後に回る。
破壊できるかはわからないが、僕の中で1番物理的に衝撃を与えられるのは……
「ウィズアエラス!」
魔法の当たった箇所から、音を立てて破壊されていく。
水が漏れ出さないように少し上の方を狙ったが、思ったよりも壁が脆かったので結局水が漏れてしまった。
「危な……とりあえず、穴は空けられたな」
穴を空けた奥には、案の定、別の部屋……というより、別のトラップが用意されていた。
常に床から火が出続けている。
そして、変色こそしてしまっているが、この部屋には動物の骨らしき物もあった。
「あの骨は……恐らく人でしょうか……」
フェイの発言に、小さく頷く。
そういうのは、あまり深く考えてはいけない。
このトラップ関しては、部屋に水を少し入れれば火は出なくなった。
「とりあえずこっちの部屋に移動しよう」
そして、天井までの高さを確認する。
「やっぱり、そういう仕組みか……」
「何かわかったのですか?」
「2つの部屋の天井までの高さを見比べてみてくれ。わかりづらいだろうけど、若干高さが違う。」
それを聞いて、フェイも確認する。
「確かに……微量ではありますが違いますね……」
「この違いに関しては簡単に説明できる。天井が階段の下だからだよ」
「階段の下……」
「多分、このまま同じ方向に進み続ければ、天井はどんどん低くなる。つまり、次々のトラップを無効化できれば、必然的に階段の進んだ先に辿り着けるんだ。」
「なるほど!」
しっかりとフェイが納得してくれたのを感じ、決意する。
確か元々、僕たちは帰ろうとしたがためにこのトラップに引っかかったはずなのだが、結局ダンジョンの最奥に行かなければならないことになってしまった。
「トラップにはどんなのがあるかわからない。常に警戒しておくんだ」
「はい、わかりました。お兄様」
その後も、僕たちは同じ要領で壁を破壊し、その部屋のトラップも全て無効化し続けた。
何故全部の壁が脆くなっているのかは知らないが、恐らく劣化だろうと勝手に予想した。
トラップは大半が同じもので、前例の2つ以外には、成長しきった食人植物がいたり、さらに底なしの穴が空いていたりなどで、そんなに数多く種類はなかった。
そうして、
「大分天井が近づいてきたな」
「そろそろ階段の先の道に繋がりますね」
「最後まで気は緩めないようにね。ウィズアエラス!」
階段そのものを壊しては意味が無いので、少し軌道を変えて左の壁を壊してから、回り込むようにして残りの壁を壊していく。そうして回り込んだ先の壁を破壊すると、その先には迷路らしき別れ道が複数続いていた。
「こりゃまた面倒だね。一旦引き返すかい?」
「そうですね……私たちはこのダンジョンについて調べ不足ですし、戻った方がいいかもしれませんね」
「それなら、1つ試したいことがあるんだ」
「試したいこと?」
フェイがオウム返しをしたのを横目に、ポケットから持ってきた魔法石を取り出す。
「それは……!お兄様!魔法石は持ち出してはならないと言われていたでしょう!」
「まあまあ……これでもし一瞬でホテルに飛べたら、気軽に遠出できるからさ」
「もう……それならお兄様1人で帰ってください。私は1人で帰ります」
呆れた様子のフェイはそのまま足早に階段の方へ向かっていく。
僕としては移動革命を起こすつもりだったのだが、どうやらフェイはそういう訳でもないらしい。
フェイを見送りながら魔法石に魔力を流そうとすると──
若干の血飛沫を目の前に、魔法石が意図せずに手から落ちた。
いや違う。
手が魔法石から離れたのだ。
魔法石の元にあった右手はどこへ行ったのか。
それを考える暇も与えずに、僕の体は迷路の奥へと引きずりこまれ始めた。
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ルーシュ・ラナタイト
レベル76
役職:魔法騎士
体力:902
魔力:673
攻撃力:392
防御力:299
魔攻力:406
魔防力:351
素早さ:417
知力:381
アビリティ:王家,勇者,転生者,捕食,自然治癒【体】,自然治癒【魔】,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,個性・極,達人・極
称号:勇者,美食家
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