第9話 『依頼』
──アレスタル王国の商店街にて
「休憩がてら歩いた距離は考えないものとして、20キロメートルの中で5秒間の魔法をちょうど50回の使用…計算すると……だいたい秒速80メートル……早すぎだろ……」
商店街で魔力を養えそうな食材を探しながら、フェイの固有魔法の詳細な能力を考える。
とんでもなく速いが、この速さが果たしてあの魔人や魔王に通用するのかというところ。
話は変わるが、僕が今買い出しをしているのは、フェイが固有魔法を連発しすぎた為に全く動けなくなってしまっているからである。
無理はするなと何度も言ってはいたけど、自分たちの身が危険なら、無理をしない訳にもいかないのだろう。
そのため、今僕が商店街に赴き、魔力を供給できそうな食材を探しているという次第である。
「やっぱり魔力回復なら木の実が1番だけど、疲れてる体にそんなの食べさせたくないしなぁ……僕は他人だけど……ルーシュ・ラナタイトにとっては大切な妹。これは忘れちゃいけない」
とりあえずお粥とかを振る舞っておこう。
こっちの世界でお粥という料理が存在しているのかは知らないが、僕の体調が優れない時はよくお世話になった。
前世は家事もよく手伝っていたし、一人暮らしもしていたため、料理の腕には自信がある。
多分大丈夫だろう。
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──宿屋にて
なかなか上出来だと思う。
前世でもそんなに作ったことがなかったから、レシピはうろ覚えだったけど。
「お兄様……これは……一体……」
「まあ……確かにあんまり見たことない見た目はしてるけど、美味しい……とは思う」
「というより……私はお兄様が料理ができたことの方に驚いているのですが……私が知っているお兄様は、昔からずっと料理ができなかったはず……」
「なんていうか……どんな人間でも努力を重ねれば成長するもんだよ」
実際、僕自身も料理し始めの頃は、とても人に食べさせられるようなものは作れていなかった。
「……そうですか。では、いただきます」
自分の手料理を人に振る舞うのはやはり緊張する。
前世は振る舞うことなんてなかったし、自分好みの味にしか作ってこなかった。
今更不安要素が頭に巡ってきてしまう。
「……美味しいです!」
「それならよかっ……」
「──と、言いたいところなんですが……料理としての完成度は高いです……ですがなんというかこれは…病気や体調が優れない時に食べるべきものなのではありませんか? 私は別に、魔力が枯渇しているだけであって、体調が優れない訳ではありませんよ?」
「え?……あー……そうですね……」
「普通に魔力を蓄えられる食材は他にたくさんあったはずですよ?」
「はい……その通りです……」
「でしたら別に、それらの食材を使えば……というよりそもそも……」
──3分後
「まあ……今回はお兄様の空回りした優しさということにしておきます」
「はい……大変申し訳ございません……」
「ですが、実際この料理が不味かったという訳ではありません。そもそもこの料理自体が、とても美味しいものとして作られていないのでしょう」
全てが的確だったフェイは、そのまま食べ進める。
実際、多少不味くても、お世辞で美味しいと言ってくれるんじゃないかと少し思っていたが……まあ、昔親に言われていた辛口評価と同じものだとして捉えることにしよう。
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──1日後
丸1日が経過したが、アレスタルに着いてからあの魔人の動きがなかった。
城中の人全員に幻覚を見せられるなら、この国の大半の人にも幻覚を見せられるはず。
しかし、全員幻術をかけられているというふうには感じない。
「お兄様、私たちはいつラナタイトに戻れるのでしょうか」
「僕が知っているならすぐにでも教えてるさ。今はあの魔人……ディアスの行動次第だ」
「でしたら、レベルを上げに行きませんか?」
「レベル上げ……そうだね、しないよりはマシだ」
そういえば、僕たちはまともにレベル上げを行えていない。
たまたまあのコボルトを倒したおかげで強くなれているだけで、経験値はあるものの経験が無い状態だ。
普通、冒険が始まった時はスライムだのゴブリンだので、経験値を稼ぎながら雑魚ボスに挑むというのがセオリー……
……なんか似たようなこと前にも思ったような気がするけど気のせいだろう。
とにかく今は、やっとそれができるということらしいし、色々考えてもしょうがない。
「じゃあ、何を倒しに行くんだい?」
「この辺りはコボルトの群れがよくいるそうですよ」
「……よく行ける気になるね」
「私とてあの経験が怖くなかった訳ではありません。しかし、相手するのは小型で名持ちじゃない、いたって普通のコボルトです。この程度に怯えていては、あの魔人に打ち勝つことなどできませんから」
「まあ、僕も普通のコボルトなら怖くはない。用意ができたら出発しようか」
「でしたら、1度この町のギルドに行ってみてはどうでしょうか。ギルドにコボルトの討伐依頼が出ていれば一石二鳥ですし」
(本当にゲームみたいな世界だな……)
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──冒険者ギルドにて
「今来ている依頼はこちらです」
依頼書の束を受け取り確認する。
「……ええと、コボルトの討伐依頼は……」
パラパラとめくって依頼を確認するが、コボルトはおろかモンスターの討伐依頼がそもそもない。
「うーん、来てないのか……」
「あ、お兄様。2枚ほど戻ってください」
「え? ああ」
言われた通り2枚戻ると、そこに書かれていたのは人の捜索依頼だった。
「捜索依頼?」
「人が行方不明だというのは大変なことです。この依頼を受けましょう」
「確かにその通りだけど……フェイは僕たちがここに来た根本の理由を忘れたのかい?」
「私たちの身も危険なことは重々承知の上です」
「仮にその人を見つけられたとしても、僕たちがあの魔人に追われているせいで、その人にまで迷惑がかかってしまうかもしれない」
「……そうなったとしても、私が助けます!」
どこまでも固い決意……
……なぜか、前にも似たようなことがあったような気がする。
いや、そんな訳ない。
そんな記憶はない。
でも……
「……もし本当に危険になったとしても、僕には助けられる自信がない。フェイが絶対に助けられるって言うなら、引き受けてもいいよ……」
「……! この依頼引き受けます!」
あからさまに表情を変えたフェイは、受付に申告する。
「かしこまりました。では、行方不明者の詳細情報をお渡しします」
そう言って紙を渡され、依頼内容を確認する。
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名前:リオ・レイノルズ
事件詳細:9月31日に他のパーティメンバー5人とグリフィン大洞窟に向かい、その後、パーティメンバーが帰還したときには当人がおらず、パーティメンバー全員に事情聴取を行ったが黙秘される。
依頼人:フィル・レイノルズ(行方不明者の母)
依頼人の居所:アレスタル王国ファルマ区にある真っ赤な屋根の家
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およそ2日前、生きている可能性はまだある。
事件詳細を見る限り、嫌な予感しかしないが、とりあえず依頼人に話を聞かなければならないだろう。
そうして、紙に書かれた依頼人の居所へと向かった。
……この世界に細かい住所が存在しないというのは、なんとも不便なことだ。




