第8話 『固有魔法』
「カタストロフィ!」
その破られた結界の外に、行方不明だったザックスの姿があった。
「何者!」
「ザックス兄様!」
ザックスがどうして僕たちの居場所がわかったのかはわからない。
「ルーシュ! フェイ! こっちだ!」
「くっ! 逃がしませんよ!」
ディアスが魔法を放つも、
「カタストロフィ!」
ザックスにことごとく無効化される。
「仕方がありません、プランを変更致しましょう」
そして、その幻術は空気に溶けるかのように消えていった。
* * * * * * * * * * * *
──ラナタイト城にて
あいつはプランを変更すると言っていた。
恐らく窮地を脱せた訳じゃない。
「ルーシュ、フェイ、怪我はないか?」
「ザックス兄様こそ、ご無事で何よりです! それより、ザックス兄様は一体昨日から何をなされていたのですか?」
「ああ、それは単純に、散歩がてらラディスに向かっていただけなんだ。そうしたら道中、オークの群れに襲われてさ……そういえば、この時期は繁殖期でオークたちもよく現れる時期だったっけ」
「……それだけ……ですか?」
「いやいや、そんな訳ないだろう。もちろんオークを倒した後、疲れたから城に戻ろうとしたんだよ。そうしたら、城の付近にいたお婆さんに声をかけられて……」
──ラディスの村はどちらでしたかな?
「……って聞かれてさ。道は教えたんだけど、さっきみたいにお婆さんがオークに襲われたら大変だから、ラディスまでついて行ったんだよ」
「……それだけ?」
「いやいやまだまだ、ラディスに着いたら、今度は別のお爺さんから声をかけられて……」
──すみません、ザックス様。こちらの荷物を隣のヘンレスの村の門番さんに届けてくれませんか?
「……って言われて……その後もずっと人に頼み事をされてさ……気づいたら……ふあぁ……丸1日経ってたんだよ」
眠たそうなザックスを見て事実であることを確信する。
「それはそれは……最終的にラディスの村で私たちを見つけて、助けた、と……」
「……そういうことだよ……ごめん、眠たすぎるんだ。寝ていいかな?」
「ええ、もちろん。ですが、夕食は済ませていないので、必ずその時には起きて来てくださいね?」
「うん……わかったよ……」
重そうな足取りで城の階段を登っていくザックスを見ながら、僕はあの魔人のことを思い出していた。
──仕方がありません。プランを変更致しましょう。
言葉通りなら、僕たちはまた狙われる。
このまま城内にいれば、ザックスがいるから幾分かは安全かもしれないが、あの魔人のステータスは未知数すぎる。
ザックスが僕たちを助けられたのはほぼ偶然。
次は絶対に逃がさないだろう。
そうなってくると、城内にいても危険なことには変わりない。
むしろ、城内の人たちにも手を出されてしまうかもしれない。
そう考えると、あの魔人に捕まるのも時間の問題だろう。
「フェイ、あの魔人が最後に言ってたこと覚えてる?」
「はい……プランを変更する……と」
「このままだと、確実に僕たちはあの魔人に捕まる」
「ですが、ザックス兄様がいるのなら……」
「ザックス兄様があの時僕たちを助けられたのは偶然だよ。確かにザックス兄様は強いけど、フェイはあの魔人のステータスを見ただろう?ザックス兄様でも敵う相手じゃない」
「では……どうすれば……」
「できる限り城から遠く、というより、このラナタイトを出るんだ。じゃないと、あの魔人にすぐ見つかる。……まあ、ラナタイトを出たからと言って、逃げ切れる保証なんてどこにもないけど」
「……そうですね、それが得策でしょう。でしたら私の固有魔法の出番ですね!」
(フェイの固有魔法…そういえば知らない)
「どんな魔法なんだ?」
「5秒間ほどの短い間ですが、とても速く動けるようになるんです!」
「……なるほどね……どれくらい速いんだい?」
「それは……測ったことがないので、分かりませんが……でも、それなりに素早いですよ!」
「そうか、ならそれに頼らせて貰うよ。じゃあ、いつ出発するかだけど、夕食を食べ終わったらすぐに出よう」
「……そうですね。あの魔人がいつまでも待ってくれる保証なんてありませんから……夕食を食べ終わったらすぐに準備します。国王様やザックス兄様には私から言っておきます」
「わかった。よろしく頼むよ」
これが本当の"夜逃げ"ってやつか。
まあ、意味は全然違うけど。
そういえば、フェイとザックスの固有魔法はわかったけど。僕の固有魔法ってなんなんだろうか。
「ステータスに書いてるかな……」
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ルーシュ・ラナタイト
レベル33
役職:魔法騎士
体力:620
魔力:480
攻撃力:218
防御力:198
魔攻力:302
魔防力:257
素早さ:189
知力:203
アビリティ:王家,勇者,転生者,生物感知・極,魔力感知・極,魔導・極,物理耐性・極,魔法耐性・極,陽炎・極,水月・極,疾風・極,慈悲・極,達人・極
称号:勇者
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どこにもそんな表記はない。
フェイは国王の所に行っちゃったし、後で確認方法を聞くとしよう。
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──夕食前
「さて、そろそろ夕食が出来上がった頃かな……」
独り言をぼやきながら食堂へと向かう。
そういえば、ルーシュ・ラナタイトの記憶のおかげで迷わずにいられるが、この城は少し広すぎる気がする。
城なんて広くて当然だろうが、一人アパート暮らしをしていた僕からすれば、価値観が変わってくる。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、奥から数人の衛兵たちがこちらに走ってきていて──
「お兄様! 逃げましょう!」
僕の真横に凄まじいスピードで現れたフェイは、すぐさま僕の手を取り、僕の身体が浮いてしまうほどの速さでまた走り出す。
「フェ、フェイ! 何が起こってる!?」
「城の者全員に幻術がかけられました。国王様とザックス兄様までも。私たちは今、城に入り込んだ盗人として見られています!」
「そんな……!」
「今すぐ逃げなければ、私たちは捕らえられます。1度、隣国のアレスタル王国に匿ってもらいましょう!」
「ああ、わかった!」
「お兄様の手を引いていると減速してしまうので、お兄様にも魔法をかけます!」
その瞬間に走りを止め、フェイが魔法を唱える。
「タシス!」
一見何の変化もないが、体がとても軽い。
「よし、いこう! フェイ!」
高速で王国を出て、アレスタル王国の方向に向かう。
何もしてない盗人を隣国まで追いかける気にはならなかったのか、幸いにも衛兵たちは城の門の所で足を止める。
あの魔人の幻術はいつまで続くのだろう。
一定時間経つと消えてしまうとかならいいけど、あの魔人が生き続けている限り無限に続くとか、そんな感じなら、僕たちはあの魔人を倒すまで城に入れないということになる。
「確か……ラナタイトからアレスタルまで、100km近くはあったよな……」
(まだ……数回しかかけられてないけど、速さを測るために、100kmを何回で移動できるのか覚えとこう……)




