逃げたい気持ちと崩壊する価値観
ちっす。
少し時間は進みメイの実家。俺はかぐやとメイに呼ばれて部屋に連れ込まれた。
「ねぇ、こうちゃん。どうしちゃったの?」
「・・・」
「こうへ~。答えてよ。」
2人が迫る。しかし俺は、口を割ろうとはしない。その言葉は呑みこまれていく。
「・・・ねぇ、どうして、言わないの?」
その二人の言葉は声は安心させてくれるものだ。でもその裏では闇のような何かが不安が恐怖が俺の体を刻一刻と縛り雁字搦めにしていく。
「そ、それは・・・」
「隠し事するの?」
「・・・こうへ~。」
「・・・ごめん。」
その一言で俺とかぐや、メイの間にどうしようもない空気が少しだけ漂い始めていく。
「・・・嘘つき。」
「へっ?」
「また、こうちゃんは嘘・・・・つくんだ。」
この瞬間、背後に凍てつく何かが突き刺さっていた。
「か、かぐや?」
「こうちゃん。覚えてない?あの時の話。」
「・・・」
「沈黙は肯定とみなすよ。」
かぐやの雰囲気が一気に変わった。その姿を見てメイは一歩後ろに下がって傍観し始めた。
「そ、それってどういう・・・」
「小さい時。」
「私がこうちゃんと離れ離れになるときに・・・」
そこから過去の話が脈絡なく続いていく。その話の内容は俺とかぐやしか知らない話。しかし、そこからは、もう覚えていない。かぐやの話が終わりその後だった。
「・・・そうか。でも、俺は、そのことを覚えてない。」
「っ!!」
緊張感とかそんなのは俺にとってどうでもよかった。ただ今は逃げたかった。
そこからは、本当にどうしようもないほどに言い争いをした。何があっても譲らない。お互いの意見をずっと衝突させて潰しあって論破しあって・・・それをメイはあたふたして涙目になっていて、もう許嫁解消になってもいい覚悟で打ち込みまくっていた。
前言撤回。流石に嘘だ。それでも、胸の靄は消えていない。あの時のあの日々のあの全てはもう見えないのかもしれない。そうやって、一年間燻ってきた。
どれだけ願ってもどれだけ縋ってもあの絵には届きやしない。
今の俺はやっぱり駄目なんだ。
優しさにだけ付け込まれて、溺れて・・・・
感謝しかなくて。
それでも、前を向かなくちゃいけないんだ。だから、こんな喧嘩はしたくない。でも、この状況でしか言えないのかもしれない。と言うか、今しかないのかもしれない。その時には俺は泣いていた。
「へっ?な、何で?」
「・・・・」
「なんで・・・何で!?」
子どものように叫ぶ。でも、その時にかぐやとメイは俺のことをそっと抱きしめた。その時、かもしれない。光が差し込んだ。まだ、完全ではないけど細々しく強い何かによって、虚勢で張っていた維持と価値観が何処か砕かれていった。
次回、夏休み編のラスト。




