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魔女と否定と真実と②

 意を決したルルルンはライネスから決して目を逸らさず、真実を話す。


「俺は、この世界の人間じゃない」

「な……?」


 信じる信じないの問題ではないルルルンの言葉に、ライネスは目を丸くする。

 無言の間が二人の空気を気まずく演出する。最初に沈黙を破ったのはライネス。


「こ、この世界の人間ではない?」


 精一杯の聞き返しだった。


「俺はこの世界の住人じゃなく、こことは違う世界で死んで、この世界で生き返ったた」

「生き返った……?」

「転生したって言う方が分かりやすいかも」

「貴様!馬鹿にしているのかっ!!!!!!!!!!!!!!」


 自分の問いかけに対して、あまりにも荒唐無稽な返答にライネスは激昂する。その覇気は周囲一帯の大気や建物を揺らすほどであった。


「だからっ!信じられるような内容じゃないって言ったでしょ!!」

「私は真面目な話をしている!!!煙に巻くようなくだらない妄想を聞くために貴様とこのような場を設けているわけではない!!!馬鹿にするなら今すぐ切り捨てるぞ!!!」

「真面目な話だよ!!最初に言った、信じてくれるなら話すって」

「この世界の人間でないなど、どうすれば信じることが出来るっ!!!そんな話伝説でも聞いた事がない、訳がわからん!!!!」

「どうもこうも!それでも!俺はこの世界の人間じゃない!!これは本当の話だ、信じる気がないなら今すぐ切ればいい!俺は嘘を言っていない!」

「貴様っ!!!!!!!」


 ルルルンの瞳は、一切の迷いや嘘を感じさせない、真実の瞳だった。

 怒りを躊躇するライネスはその眼に吸い込まれる感覚を覚える。


 その透き通るような瞳で、彼女は真っすぐにライネスを見つめた。彼女の瞳には、迷いの色すらなく、全てを許してくれるような青く広い大海のような寛容さすら感じられた。

 その瞳は、ライネスの荒波の如き心情をさざ波へと変える。


「……そんな目をしている奴が、嘘をつくはずないだろ。私は、そんな事も分からないような愚かな人間ではない」


 そう言うとライネスは剣を下げ、溜息をつく。


「めちゃめちゃ疑ってたでしょ!!」

「当たり前だ!!だが、それでは話が進まんだろ!!もう話は遮らん、約束する」


 念を押してライネスは自重を約束する。


「ありがとう」


 ライネスは、あまりにも呑気な態度のルルルンに問う。


「どうしてお前は、私を信じた?」


 話しを遮り激昂し、何度も殺そうとした相手に向ける信頼の眼差しは、ライネスからすれば異常であった。


「君は、自分が信じるに値する人間だと思ったから、それに、相手に自分を信じてもらいたいなら、相手をまず信じないと」


 あまりにもシンプルな即答に、ライネスは思わず笑みがこぼれた。彼女の表情はとても魅力的で、ルルルンもそれに釣られて笑ってしまった。


「……お前、騙されやすいだろ」

「まあ、それは否定できないかな」


 落ち着いたライネスの様子を見たルルルンは、そのまま自分の世界の話を続ける。


「今はこんな、女の姿をしているけど、前の世界では「男」だったんだよ。転生したら、何故かこんな姿で」

「待て待て……ダメだ、まってくれ、男?いや、女だろう?」


 立て続けに来る情報に、ライネスはすぐさま待ったをかける。


「遮らないって言ったのに!」

「ああ、すまない、でも、えぇ?」


 ライネスはまじまじとルルルンを見るが、どこからどう見ても女、しかもとんでもなく美しいときている。


「今は、まあ、女……だね、って全然説得力ないね」

「ない!こんな美しい見た目の男がいるか!?」

「でも俺は前の世界では女じゃなくて、男……だったんだけど」

「う…う、う~ん……続けて……くれ」


 遮らないと約束した手前、それを破るわけにはいけない。


「まとめると、前の世界で俺は死に、その結果、転生して、女になって、何も知らないこの世界にやってきた、なのでこの世界の知識は殆ど無いわけです」

「分かってる、嘘ではない、これは嘘ではないんだな、そういう話なら、お前の訳の分からない話にも納得ができる」


 「信じる」ということは、疑う余地なく、全力で信じ抜くことだ。それがライネスが持つ信念だった。その決意が揺らぎそうな内容に彼女は困惑していた。

 決意し、声に出して、なお揺らぐほどに、ルルルンの話す内容はぶっ飛んでいたが、ライネスなりに心を落ち着かせてルルルンの話をきちんと整理する。

 

「つまり、お前は元の世界で死んで、理由は分からないが、女に転生してこの世界に来た……?」

「そういう事になるね」

「で、女になった理由は何なんだ??」

「それは、分からない」

「ん?」

「ホントわかんない」

「じゃあ、転生する前、男だったという証拠は」

「それも、無い」

「お前、自分がどれだけ美しい女なのか自覚しているのか?」

「え?いや、そんなこと言われましても」


 ルルルンの口から出る、信じがたい話の数々をライネスは動揺しながらも、まじめに聞いている、馬鹿にする事もなく、嘘つきの話を聞く様子でもなく。

 ルルルンの、ヨコイケイスケの言葉にしっかりと耳をか傾けている。


「どうしてお前は、魔法を使う事ができる?」

「うーん、どうして?と言われると困るけど、適正があったから…かな」

「適正とはなんだ?」

「魔法を使えるか、使えないかっていう部分の話だよ」

「魔法を使えない者もいるという話か?」

「俺たちの世界では、使える人間を【マギア】使えない人間を【ノーマ】と呼んで区別していた」

「お前たちの世界でマギアと呼ばれる者が、この世界で魔法使いや魔女ということだな」


 少しずつ話を理解するライネス、うんうんと頷きながら真剣に話を聞く。


「どういう訳か、この世界の魔法は俺の世界の魔法と同じ原理、同じ知識みたいなんだ、だから自分は迷いなく魔法を使える」

「何故だ?」

「こっちが知りたいよ!」


 一番そこを知りたいのはルルルンであった。魔法以外は建築、衣類、文化も違っている、中世のヨーロッパに近い風景だが、機械や、魔法も存在する。しかもその魔法は魔動機を用いる現代魔法に近い完成されたものだった、いったいどうなっているのか??

 少しだけ体験した事実を元にルルルンは分析をする。


「正直な話、この世界の魔法技術は、俺の世界の技術に比べて、申し訳ないけど劣っていると思う」

「どうしてそう思う?」

「この世界での最高魔法位界はたしか超界だっけ?」

「そうだ、それ以上の魔法は存在しない、存在しないはずだった……」


 超界までの魔法を無効化するライネスの鎧、だとすれば、この世界に存在する魔法は効かないはず。それなのに、そのことわりはルルルンによって破られていた。


「……それ以上が存在するのだろ?」

「俺の世界の話だけど、魔法は下界から始まって、上界じょうかい超界ちょうかい絶界ぜつかい極界きょくかい神界しんかいまで存在する、超界はぶっちゃけ、ある程度の力がある魔法使いならだれでも使える、中級魔法って感じだ」

「馬鹿な……」


 あまりにもスケールが違う、最上位と思われていた超界が、中程度の界位と知り、ライネスは納得する。自分の想像を遥かに超える魔法の界位を操る、この魔法使いに自分が敵うはずがないと。


「魔女は超界以上の魔法を使わないの?」

「超界以上を使うという話は聞いた事がない……いや、正確には魔女は長い間、表に姿を現していないから「分からない」が正しい表現だ」

「なるほどね」

「お前は超界以上の魔法を行使できるのか?いや、できるからこそ、私は敗北したのだな……」

「ライネスには絶界でも、ランクは下のほうで戦ってたかな」

「はは……本当に、軽くあしらわれたんだな……」


 少し落ち込むライネスに申し訳ないと思いつつ、ルルルンは補足する。


「俺の使える最高魔法位界は神界、試さないと分からないけど、その気になれば多分2日で世界を滅ぼせると思う、前の世界ではそのせいで絶界までの魔力制限を受けていた、けど、どうやらこの世界では、それは無効になってるみたいだし、やってみないとわかんないけど……って大丈夫?」


 あまりのスケールに目を丸くするライネスの様子を見て、ルルルンが心配で声をかける。


「……さすがにそれは盛っているだろ?」

「いや、盛ってないけど……」

「いや、盛ってるだろ?」

「盛ってないよ」

「…………そうか」


 嘘のない真実の瞳に、ライネスは言葉を失った。

数ある作品の中から、この作品を選び読んでいただきありがとうございます。

面白い!続きが読んでみたいと思っていただけたなら幸せでございます。


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