東の魔女がやってきた④
「どうしたのダーリン?」
サクラと東の魔女、危険なのは間違いない、悪意の向け方次第ではこの二人はこの世界の脅威になる。
それは間違いない。
だが悪ではない。
ルルルンがずっと感じている違和感は
【魔女を悪として存在させている世界】である。
どうにも、それだけが納得できていない。
「悪い奴って言われて、攻撃されるからやり返してるだけやよ、うちは」
「じゃあ、面白半分で魔獣や眷属で人を襲ってるのは、なんでだ?」
「面白いから」
「魔人機なんて恐ろしい物を作って、何を考えてる」
「なんも、面白いから」
「魔女会が世界中で悪さをしている事は?」
「そんなん知らん、勝手に誰かが作って勝手に信仰されとるだけやし、なんか勝手にすごい盛り上がってて、おもろいから放置しとるんよ」
東の魔女は肩をすくめ、飄々とした笑みを浮かべる。
「魔女会は、魔導器や魔人機の実験協力をしているだけです。『魔女会』という名は勝手につけられ、魔女様の意思とは無関係です」
東の魔女とフェイツは淡々と答える。
「でも、その魔女会って存在のせいで、魔法を使えない人たちが苦しんでる。悲しんでる人もいる」
「知っとるよ」
「だったら、無関係とは言えないだろ」
「さっきも言ったけど、うちは“やり返してる”だけやよ」
何を当たり前の事を、という表情で東の魔女が彼女側の真理を説く。
「なんで魔法を使えない奴らが、うちら魔女を悪者扱いしてボロカスいってんの?ムカつくやん、魔法使えんくせに、うちはそれにムカつくからやり返してるだけ」
「それは……」
「魔女会だろうが、眷属だろうが、それで迷惑かけとろうが、そっちもこっちに迷惑かけてるんやからぶっちゃけ関係ないわ」
子どものような言い分。だが、理不尽な世界を見てきたルルルンには、その歪んだ理屈の中にも一理あるように思えた。
魔女を敵視する根幹にあるのは南の魔女の虐殺行為。
それが発端となり、サクラは差別され、世界から断絶された。
“魔法が使える”というだけで、排除される。
そんな世界を作ったのは、この世界の人間自身だ。
「先に石を投げたのは魔法を使えない人間側だよダーリン」
「うん……それは、分かってる」
東の魔女もサクラと同じ『差別されたから抵抗をした』それだけの話。
だが、その“抵抗”の形があまりにも過激で、結果として“悪”に見えてしまっている。
この悪意には、確かに理由がある。
思いつめるルルルンの手をサクラがぎゅっと握る。
「私、ダーリンのあの時の言葉、信じてる、だから私はあの場所から出た、出ることができた、ダーリンが初めて私を肯定してくれたんだよ」
サクラの眼差しはまっすぐで、温かい。
「だから私も肯定する……ダーリンの思いは間違ってないよ」
引きこもっていた自分を強く抱きしめ言ってくれたあの言葉をサクラは忘れない、ルルルンを信じる想いの源になっている。生きる支えになっている。
だからこそ迷いなく、サクラはルルルンを信じる事ができる。
その眼差しにルルルンは―――
「うん、なんかハッキリした気がする」
「何の話?」
吹っ切れた表情のルルルンに、東の魔女が不思議そうな顔を浮かべる。
「ダーリンはいい男って話!」
「男?女やん」
「どっちでもいいし」
サクラの言葉の意味を理解できず、東の魔女はよく分からないといった表情をする。
「もしも、シアと一緒にいる時に……また刺客って言っていいのか分かんないけど、悪意を持つような連中が来たら、シアを巻き込まずに絶対守ってくれ」
ルルルンは二人にお願いをする、意味があるかは分からない。けれど、それでも言葉にしておきたかった。「二人を信用したい」というルルルン自身の願いなのかもしれない。
「来ないやろ、さすがに」
「もしもの話だ」
「分かりました。その場合は、シアさんは必ず私が守ります」
「ありがとう、サイツさん」
「“さん”はいりません」
「あ、いや……シアの呼び方がうつったみたいで」
「じゃあ、それで構いませんよ、ルルルンさん」
フェイツは笑顔でそう――ルルルンに語りかけた。
その笑顔はあまりにも美しく、その場にいた全ての人間の心を引き込むような、そんな錯覚するら覚えさせる笑顔であった。
「やっぱり貴方はダメ!!!!」
サクラの警戒は解けず、その笑顔はライバル認定するのには十分の破壊力であった。




