東の魔女がやってきた③
「しばらくこの街にいるって、なんかあてでもあるのか?」
「ない!」
東の魔女は元気よく即答した。
「えぇ……」
「お金はありますのでしばらくの間、宿を借りてのんびり観光でもと考えています」
「いやいや……それは迂闊じゃないか?」
この少女……どう見ても、正体を隠す気がない。
放っておけば確実に騒ぎを起こし、ライネスたちに迷惑をかけるのは目に見えている。
となると、手段は少なく。
「二人を放置する事はできない」
「では、どうすれば?」
「……俺がお世話になってる宿に来てくれ、この街にいる間はできるだけ俺の眼の届く範囲にいてほしい」
「ええー!なんでそうなるのよ!」
ルルルンの提案に、サクラが即座に不満の声を上げる。
東の魔女の見た目が警戒に当たらない幼女とはいえ、お付きの女は超がつくほど美しい女。
女の影に敏感なサクラにとって、この才女は脅威以外の何ものでもない。
「そんな!二人から目を離せないなら、私だって目を離せないはずだし!ずるい!不公平!」
「……何言ってんだお前」
駄々をこねるサクラを見て、東の魔女が呆れ顔でため息をつく。
「ぎゃーぎゃーうるさいなぁ、お前」
「子供は黙ってて!!」
サクラにとっては死活問題である。
できることならダーリン(=ルルルン)を独り占めしたい。
ただでさえルルルンの周りには女の気配が多いというのに、これ以上のイレギュラーは遠慮願いたい。
「だったらどうするんだよ、この二人サクラが面倒見てくれるのか?」
「そんなのいやだし!!」
「なんだよそれ」
「じゃあ私も!!私もダーリンの部屋に住む!!!」
「無理だよ、そもそも一人部屋だし、お前は寝る時もくっついてくるだろ?」
「体温感じたいもん」
「狭くなるから俺は嫌なの!」
サクラはうるうるした目で懇願するが、現実は非情だった。
現実問題部屋のキャパはせいぜい+1名、そこに身体の小さい東の魔女ならギリギリ、自分はしばらくソファで寝ればいいと、ルルルンはたかをくくっているが。
サクラまで押し込むとなると完全にキャパオーバーである。
「私の事嫌いになっちゃった?」
「いや、嫌いじゃないけど」
「じゃあ好き?」
「それは知らん」
「照れてる」
「照れてない!」
「あの結局私たちはどうすれば?」
フェイツが冷静に話を戻した。
「ごめんサクラ、これは真面目な話、だから理解してくれ」
「でも……」
その時、後ろから声が上がる。
「だったら、私の家に泊まるのはどうですか?」
「え?」
いつの間にか近くで聞いていたシアが、遠慮がちに提案した。
「シア?聞いてたの?」
「え?あの……サイツさんたちが泊まる場所の話から、ですけど」
シアには一切の殺気も悪意も感じられない故、ルルルンの感知魔法に反応しない。迂闊に魔女の事を会話していたことに少し反省をしつつ、シアの提案を汲み取る。
「シアの家って……サイツに誘拐されたの忘れたのか?こいつは魔女の眷属、普通に人を招くのとは訳が違う、だから」
「忘れていませんよ、でも大丈夫です、サイツさんは悪い人じゃないですから」
「シアさん……」
無垢な笑顔でシアはフェイツに微笑む。
「なにぃ、サイツ嬉しそうな顔して」
「そんな顔してません」
「だから、貴方も一緒に家に泊まってください」
「え?うちもいいの?」
「はい、サイツさんの”特別な人”ですもんね」
「?」
ね、とシアはフェイツに目配せをしてニコっと微笑む。
なんとなく意図を察した東の魔女は照れ臭そうに視線を逸らしていた。
「……シアになにかしたら絶対許さないからな」
「お約束します、シアさんにはご迷惑をおかけしないと」
「うちもするよ、シアは良い奴みたいやしな」
「良い奴?」
「匂いでわかるよ」
「えええ匂います?」
「善人の匂いがしますね」
シアが入った途端場が和む、これは彼女の特別な才能なのだろう、張りつめて考えていたルルルンの思考が緩み、シアになら任せてもいいと思わせる。
「シア、もしも何かあったら絶対に俺かサクラに言うんだぞ」
「はい、なにかあれば」
「シアっち!まじ感謝だよ、今度なにかご馳走するね」
「わわわサクラさん?」
素晴らしいアシストを決めたシアに抱き着いて、サクラは頬ずりし感謝を過剰に表現する。
「おいシア、ちょっと手伝ってくれー」
厨房の奥から店長の声が飛ぶ。
シアは「はーい!」と返事をして、ルルルンたちに一礼し、厨房へ駆けていった。
「ほんと、いい子やね」
「いいこだからこそ、それに付け込むような真似をしたら、絶対に許さないからな」
「わかった、わかった、くどいって」
「魔女様には私が言って聞かせますので、信じてください」
「約束するからさぁー」
フェイツが深く頭を下げた。
東の魔女もひらひらとのんびりした態度だが約束と言う。
その姿を見て、ルルルンは改めて考える。
「ほんと――魔女って……なんなんだろうな?」
気の緩みが、思っていた言葉を口に出させていた。




