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東の魔女がやってきた②

「二人ともしょうもない喧嘩はやめろ、東の魔女も俺に用事で来たって言うなら、それなりの姿勢を見せろ、じゃないと追い出すからな!!」


 強めの警告、自分の立場を理解していない魔女二人にルルルンは苛立ちを隠せずいた。


「ダーリンっ……!」


 時間凍結の魔法で拘束されたサクラは、怯えとも陶酔ともつかない表情でゾクリと身を震わせた。

 ……どう見ても反省していない。


「どんな魔法か知らんけど、聞いてた通りの化け物なんやね」

「化け物とか失礼な!」

「本当に、あなたはいったい何者なのです?」


 フェイツが静かに問う。その声には、畏怖と興味が混ざっていた。


「魔法少女!!!!」

「え?あ、魔法少女?」

「基本的にそういう方向で行くことにしてます」

「恥ずかしくない?」

「全然!!!」


 ルルルンは胸を張る。もはや羞恥の概念はどこかへ飛んでいた。


「とにかく、喧嘩や揉め事は無し!!いいな!!」


 そう言うとルルルンは三人の拘束を解く、喧嘩していた二人は大人しくルルルンの言う通り自重する。ようやく空気が落ち着いた……と思いきや。


「はーい、大人しくするー」


 サクラは軽く返事をすると、当然のようにルルルンの首に腕を絡め、ぎゅっと抱きついた。


「近い、離れろ」

「やだ」


 ……諦めた。

 ルルルンは深くため息をつき、東の魔女へと向き直る。


「二人とも、自分が“魔女”だって自覚をもう少し持てくれ。俺がめんどくさい立場になるんだから」

「えー」


 めんどくさそうに東の魔女が不満の声を漏らす。


「サクラ、東の魔女とは、面識ないんだよな」

「会うのは初めて」

「ウチも」

「存在は認識していますし、同じ魔女としてある程度は調査していました」


 フェイツが補足を入れる。

 同じ魔女とはいえ、初対面の二人、サクラは明らかに東の魔女に対して恨みを持っている。なまじ力がある二人、衝突するのは必然である。

 しかし、ルルルンにとって重要なのは、そんな性格の衝突ではない。

 東の魔女は”襲撃”を受けて、ルルルンを訪ねてきた……その真意である。


「話の途中だった、東の魔女である君が襲撃を受けて、俺を訪ねた理由って?」

「お前が犯人かを確かめるためやけど」

「は?」


 ルルルンが思わず聞き返す。


「俺が君を襲うように刺客を雇った?」

「このまえフェ」

「サイツです」

「サイツがルルルンにちょっかいだしたやん?それでなんか怒ったんかなぁって」

「まあ、怒ったけど、それで君にやり返すなんて、考えない」

「ほんとに?」

「だって金ないし、刺客雇うくらいなら自分で行く。サクラのときもそうだった」


 誤解も甚だしい。ルルルンにそんな刺客を雇える財力など、そもそも存在しない。


「そうよ、ダーリンはわざわざ私にプロポーズしに来てくれたんだから!ね!」

「まあ、そうだけど、って違うよ!!ごめん、これじゃ説明にならない?」


 東の魔女はきょとんとした顔をしているが、フェイツが小さく頷いた。


「問題ありません、可能性を確認しただけです、貴方が犯人とは考えていませんよ」

「なら……」

「情報として一つ、魔女様を襲った刺客は、魔導器無しで魔法を使っていました」

「は?」

「大した魔法やなかったんやけど、ウチ以外でそんなやつ見たことなかった、んで、魔導器無しで魔法使う奴で思い当たるんわ、あんただけって話」

「いやいや、それってつまり」


 ルルルンの表情が険しくなる。

 魔導器を使わない魔法使い……つまり、自分と同じ世界の人間の可能性。


「それって、ダーリンの倒した金ぴかと関係ある感じ?」


 サクラがルルルンに耳打ちする。


「それは……」


 サクラの問いに、ルルルンは言葉を詰まらせた。

 どうやら狙われているのは、サクラだけではないらしい。


「サクラさんでしたっけ?」

「そうだけど」

「あなたも未知なる襲撃者に襲われたんですよね?」


 フェイツが訪ねる。


「うん、ダーリンがいなかったら多分死んでたと思う」

「同時に魔女が襲われたのが偶然と言えるのか、ルルルンさんはどう考えます?」

「それは……」


 偶然――のわけがない。

 カオリから聞いた“黒衣の男”の件とも重なる。

 ルルルンは腕を組み、唸り声を漏らす。


「まあええよ、多分一回で終わる話やないって思っとるし」

「襲ってきた奴らってどんな奴らだったの?」

「黒ずくめの集団でした、撃退し、素性を調べようとしたのですが、死体は灰になって消えてしまいました」

「証拠隠滅ってやつか」

「おそらく」


 キャリバーンの時と同じ……組織的で、徹底した痕跡の消し方、確実に誰かの意思が介在している。


「とにかく、正体不明の魔法使い集団やんね、少しでも情報が欲しくてな」

「俺のところに来たと」

「そいうこと!まあ、元々、あんたに興味があったから、会いに来たついでやわ」

「いや、会いにくるのはいいんだけど、もう少し魔女って自覚だけ持ってね、聖帝騎士団がいたらほんとにめんどくさいんだからね」


 ライネスの怖い顔が脳裏に浮かぶ。

 カオリとの会話を思い出し、ルルルンは軽く背筋を伸ばした。


「自覚とか、そんなん気にしいへんけど」


 東の魔女は無邪気に笑う。

 だが、その笑顔の裏にある現実を、ルルルンは知っている。

 この少女のしてきた“遊び”と呼ばれるものが、どれだけの犠牲を生んだかを。


「お前!そういう考えだから、私みたいな善良な魔女が辛い想いすんのよ!!」

「なんやの善良な魔女って」

「私の事!」

「エロ魔女やん」

「エロは個性ですけど!」

「ストップ!!東の魔女の目的とかは分かったよ、で、俺は何をすればいい?」

「うちの住処が直るまで、しばらくこの街におるで、うちと遊んでくれ」

「は?」


 何度目の「は?」だろうか、東の魔女から出たお願いは、想像の斜め上であった。


「どういうこと?」

「そのままの意味です、東の魔女様は一緒に遊んでくれる相手をずっと探していました、貴方は魔女様の遊び相手に相応しい、そう判断したのです」

「……」


 しばしの沈黙、魔女二人、ルルルンは彼女らを一瞥すると、天を仰いだ。


(ライネスになんて言えばいいんだ……)

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