東の魔女がやってきた①
目的は分からないが――確かに今、目の前に「東の魔女」がいる。
ルルルンは最大限の警戒を保ちながら、その訪問の理由を探る。
「で、何しに来たの?」
「相談って言うか、なんというか」
「相談?」
話にくそうな雰囲気で東の魔女が説明を始める。
「簡単に言うとな、刺客がきたんやけど」
「……刺客?」
「そう、暗殺者?殺し屋?まあ誰かから派遣された刺客やね」
「魔女様の命を狙って我々は襲撃を受けました」
フェイツが静かに補足する。
襲撃――想定していた方向と違う言葉に、ルルルンの表情がわずかに険しくなる。
「聖帝騎士団にか?」
「いや、違うよ、見たこともない魔獣やった」
「魔獣って、それを生み出してるのは東の魔女……お前じゃないのか?」
「それはそうやけど、ウチの魔獣はなんつーか、ウチの遊びみたいなもんやでなぁ、本格的な魔獣生成なんか興味ないし、強い魔獣なんかは天然物やよ、ウチの遊びとは違うやつや」
「遊びってお前」
転生してすぐ魔獣に襲われかけた記憶が脳裏をよぎる。あれも“遊び”の一環だと思うと、ルルルンは呆れしか出なかった。
「魔女様の戯れです、どうかご容赦を」
「まあいいけどさ」
「それで相談というのは」
フェイツが本題にはいろうとした、その時。
「どうもどうもー、あなたのカワイイ・ハニーちゃんがやってきたよダーリン♡」
バーン! と勢いよく扉が開き、北の魔女・サクラが登場する。
「お前ぇ……なんてタイミングで来るんだよ」
「なんやお前は」
「ルルルンちゃんの未来の花嫁、サクライサクラですけどっ!」
「……お前、魔女やろ?」
「は?」
―――瞬間空気が凍り付く。
「シア、ごめん。奥で店長が来ないようにうまく誤魔化して!俺が良いって言うまで何とかして!」
「えええ!?は、はいぃぃぃ!」
シアを奥へ押し込み、ルルルンは慌てて対峙する二人を睨む。
「つーか、お子様がなんで、私が魔女って分かるの?」
「匂いやな、臭いもんお前」
「臭い!?毎日いつダーリンに抱かれても大丈夫なように完璧にスタンバってる私がぁっ!!!???」
バチバチッ―――二人の間に火花が散る。
北と東、ふたつの魔女が睨み合う。
「サイツさん、止めてくれない?」
「私には無理です」
「えぇぇ」
サクラが東の魔女に喧嘩を売るように距離を詰める。
「だいたい、あんたは何者なんだ?っつー話なんだけど」
「ウチは東の魔女やよ」
「はぁ?嘘つくならもっとまともな嘘つきなよ!!」
「嘘やないよ、ねぇ、ルルルン」
「え?俺に振る?」
「ダーリン!?」
ルルルンは頭を抱えながらも、正直に答える。
「この子は本当に東の魔女だよ、さっきこの目で確認した、間違いない」
「へ、へー、この子どもが?」
「良く喋る姉ちゃんやね」
「同じ魔女ってわけね」
サクラの表情が一変する。静かに息を吸い込み―――
スッと、前かがみだった挑発的な姿勢を正した。
「お前が……」
サクラは上を見上げて、少しだけ呼吸を整えた。
「私は平和に暮らしたいだけだったのに、東と南、特にお前らのせいで、私がどれだけ風評被害食らったと思ってんの?」
「いやいやいやいや」
ルルルンがすかさず突っ込みを入れるが、サクラの目は完全に戦闘モードになっていた。
「十年の恨み」
そう言うと、サクラは魔法を発動しようと手を振りかざす。
「お?やるか?」
「魔女様っ!」
フェイツが止める間もなく、サクラの手に光が集まる―――。
「ハラサデオクベキカアアアアアアア!!!」
その瞬間だった。
「———時間凍結」
ルルルンの魔法が静かに発動する。
次の瞬間、世界が“止まった”。
「な……!」
「え?」
サクラも、東の魔女も、時間凍結によって、その場で完全に動けなくなっている。
「……いい加減にしろ、二人とも」
ルルルンの声だけが、静寂の空間に響いた。
その冷えきった声音に、時間すら怯えるようだった。
好き勝手やる二人に、いい加減ムカついていたルルルンが少し不機嫌にそう警告する。
「なんやこれ?全く動けんのやけど!!」
「ダーリンの魔法?」
「こんな魔法……見たことが……ない」
その場にいたた誰もがその未知なる魔法に驚愕していた。




