来訪者
―――それは突然の事だった。
「ウチ、東の魔女って言うんやけど、ルルルンおらへん?」
営業準備中のマギリア食堂。
その扉を開けて入ってきたのは、奇妙なイントネーションでそう名乗る少女だった。
「え?あ、え???あの……え?」
対応したシアは目を丸くする。それも無理はない。少女の隣には、以前、自分を誘拐した張本人、フェイツの姿があったからだ。
「あ……サイツ……さん?」
サイツ。それはフェイツが以前、偽名として使っていた名前だった。
「お久しぶりです」
「お久しぶりです……」
シアは驚きながらも、どこか懐かしいような微笑みを浮かべる。
「「サイツ?」
「用心のため、以前そう名乗りました。……魔女様、私のことは“サイツ”でお願いします」
「ふーん」
興味はあるが、それよりも―――
「おい、お前がルルルンか?乳はデカいけど髪の色が違うんやないの?」
「えぇ?」
「この方はシアさんと言って、ルルルンではありません」
「そうなん?」
東の魔女を名乗る少女の態度は、年齢に似つかわしくなく堂々としており、どこか挑発的ですらあった。
「あ、あの、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「ウチ待たされるの嫌いなんやけど」
「すぐに呼んできますから!!」
シアは慌てて店の奥へ走る。ほどなくして―――青い髪の少女、ルルルンが姿を現した。
「え?」
「どうも」
「お前、あの時の」
ルルルンはフェイツを見た瞬間に警戒の構えをとる。だが、フェイツは穏やかな笑みを浮かべて手を振った。その表情に、ルルルンはどこか既視感を覚えるが、思い出せない。
「どうかしましたか?」
「いや、こんな正面から来るとか思ってなかったから」
「次に会う時は“正面から”と、そう言われましたので」
「え、えぇ~~……確かにそう言ったけど」
「約束は守るタイプです」
「……はぁ……で、何の用?」
肩の力を抜く間もなく、フェイツの隣の少女がずかずかと距離を詰めてくる。
「会いに来た!お前に興味があったからな!」
「おい、このお子様は?お前の子どもか?」
「いえ、東の魔女様です」
「へー、東の魔女……」
東の魔女、東の魔女、東の魔女、ルルルンは三回ほど頭の中でその名前を検索する、少し間を置き、ルルルンの思考が一瞬で止まる。
「え?」
東の魔女―――それは、この世界で最上位に位置する存在の一つ。
この街に、そんな存在が現れるなど、常識的にありえない。
「はぁぁぁぁぁぁぁ?????????????????」
「敬ってええよ、うちは東の魔女やからね」
?????????
ルルルンの思考が軽くパニックを起こす。
幸い、まだ開店前で客はおらず、この混乱を聞いているのはシアだけだった。
「こんなお子様が東の魔女?」
「あ?うち子供やないんやけど」
「こう見えて、魔女様は十五歳です」
「いやいや、それは子どもでしょ」
「やかましい!お前が用があるなら正面からこいとフェ――」
「サイツです」
すかさずフェイツが訂正する。
「サイツに言ったんやろ?」
「そうだけど、本当にくるなんて思ってないし、だいたい……」
そう言うとルルルンは、じろじろと東の魔女を名乗る少女を疑いの眼差しで凝視する。
「魔女?」
「おい、せっかくウチがわざわざ遊びにきてやったのに、なんやその態度は」
「!?」
東の魔女が手を懐に入れ、何かを発動しようとした瞬間だった。
ルルルンが一手早くその動きを制止させる。
その動きに空気が一瞬で張り詰め、シアが息を呑む。
「……わかった、から、店を壊そうとしないでくれ、東の魔女」
「うんうん、わかればええんやよ」
止めなければ、間違いなく――店どころか街が吹き飛んでいた。
わずかなやり取りで、ルルルンは確信する。
この少女は―――本物の東の魔女だ。
「で、それ、なに?」
少女の手に握られた、不穏な輝きを放つ装置を指してルルルンが問う。
「魔法蓄積器やよ、魔法をめちゃ溜め続けられるウチの自信作やね」
「魔法を……溜める?」
「そやね、蓄積した分、威力も跳ね上がる感じやよ」
「それを任意のタイミングで発動できるって事か?」
「そういうことやね」
その説明を聞いた瞬間、ルルルンの背筋に冷たいものが走る。
魔法を“蓄積”する――そんな技術は、前の世界でも聞いたことがない。
だが、彼女の持つその魔導器から漂う異様な魔力が、
それが虚言ではないことを、肌で告げていた。




