◆黒衣の陰謀③◆
場所は定かではない。外では、季節外れの大雨が激しく地を叩いていた。
人気のない洞窟のような場所。その奥へと、素部塗れの黒ずくめの男が静かに足を踏み入れる。
その空間は、外観からは想像もつかない――生活の温もりを感じさせる、整った内装が広がっていた。
「おかえり」
小さなランプの明かりのもと、少女が一人。男の帰りを、当たり前のように出迎える。
「失敗した」
男が低く一言つぶやくと、少女は短く「そう……」とだけ答えた。
「せっかく面白いおもちゃを拾ったのに、もったいなかった」
「魔女狩りは……続けるの?」
「……どうだろうな」
男はその問いに、わずかに間を置いてから応える。
「でも、機は十分に熟した」
「そう……」
「お前と俺の望み、もうすぐ叶うかもな」
「全然期待してない」
そっけない少女の態度に男はやれやれといった感じで
「期待すんな、期待なんかしてもどうせ裏切られる、なぁに、勝手に事態は動いてくれる」
「そうね」
「4つの魔女の心臓が、世界をきっと愉快にしてくれるさ」
「ねえ」
「なんだぁ?」
「ハラペコ」
「あぁ?」
ぐぅ〜……
少女のお腹が、空腹を訴える。
「肉でいいか?」
「いい」
「りょーかいボス」
男は黒衣を脱ぎ捨て、代わりにエプロンを手に取った。
フライパンに火を灯す。
肉の焼ける香ばしい匂いが、洞窟の静寂をゆっくりと塗り替えていく。
黒衣の野望は、今は語られぬまま――
そのテーブルには、美味そうな料理が静かに並べられていた。