確信犯
凄みがある。
世界を守る騎士団のトップ――その名にふさわしい威圧感を、ルルルンは聖帝から確かに感じていた。
理由は分からないが、聖帝は何かしら確信をもって、ルルルンの事を『魔法少女ルルルン』だと断言している。
「魔法少女?えーっとですね……なんですかねそれ?」
ごまかしにもならない返答。
ルルルンの頭は混乱で真っ白だった。
「貴方が、その姿で【ルルルン】と名乗っている事、それは……相当におかしな話なんだよ」
穏やかな笑みを浮かべながら語る聖帝。
その言葉の意味を考えようとするが、ルルルンの思考はまとまらない。
「意味が……分かりません」
少しでも考える時間が欲しい。
時間稼ぎをするように、ルルルンは、とにかく呆けてみせる。
「うーん、そうかぁ」
聖帝は小さく息をつき、どうするべきか少し考えると――
突然、指先を銃のようにルルルンへ向けた。
「だったらこの方が話が早いかな」
「え?」
聖帝はそういうと、ルルルンには分かる、理解できてしまう言葉を発する。
「閃光散弾」
「!!!!!!!」
指先から放たれたのは、間違いなく――魔法。
放たれた光弾はルルルンに直撃する直前、ルルルンの自動防御がそれを掻き消した。
「魔法……?」
驚いたのはルルルンだけではなかった。
自動防御で魔法を防いだルルルンに対して、聖帝も目を見開く。
「まじで?この距離でデストロを消す……それは自動防御?」
「敵意のある攻撃にしか反応しないよう設定してあります……けど」
その言葉を聞き聖帝は、驚愕と興味その両方が入り交ざった表情で悩む仕草を見せる。
「ありえない、魔法障壁にそんな事できるのは……てか、やっぱり魔法使いだよね、あー……ちょっと待って、だとしたら」
そう呟くと、聖帝は一人で勝手にパニックに陥った。
「このルルルンは本物?いや、でも、違う、そんな訳ない、ルルルンはフィクションで……そもそも!その魔法は誰から教わったの?どうしてそんな事ができるの?そもそもあれは、って、そんなわけない、いやでも、自動防御でデストロを弾いたし、そんな事出来る人、一人しか知らないし、でも、だとしたら」
想定外の出来事に聖帝の疑問は止まらず、あーでもないこーでもないと、ルルルンを無視して一人でしゃべり続ける。
「聖帝様!」
「あぁ、すまない取り乱して、ちょっとまって」
「いえ、自分も聞きたいことがあるので、先に答えていただけますか?」
ルルルンは真剣な目で聖帝を見据えた。
「聖帝様……あなた、魔女なんですか?」
目の前で見たそれは確かに魔法であった、魔導機を使う事のない、しかも詠唱無しの上位魔法。無詠唱で魔法を使えるのはルルルンとルルルンから魔法を教わったライネスだけのはず……。
しかし、聖帝は無詠唱で魔法を行使した。可能性として考えられるのは。
【聖帝様も魔女の一人かもしれない】という事実……
魔女を倒す騎士団のトップが魔女、もしそうであれば、それはとんでもないスキャンダルである。
「答えて下さい、聖帝様!!じゃないと、質問に答えません」
「魔法は使えるが、魔女ではない……」
「だったら!」
否定する聖帝にさらにルルルンは詰め寄る。
「私は魔法使い【マギア】だ、貴方には通じない言葉かもしれないけど」
「マギア?」
【マギア】確かに聖帝はそう言った。この世界にはおそらく存在しない【マギア】という言葉を。
「私は質問に答えた、貴方も答えなさい、ルルルンの姿でいる理由と、その魔法を誰から教えてもらったのか?」
「ちょっと待って……聖帝様、今マギアって言いませんでした?」
「言ったが、今はその話ではないだろ!」
「なんで聖帝様が?」
「だめだ、先に質問に答えなさい!どうして貴方がルルルンなのか!?」
――おかしい。質問自体がおかしい。
聖帝はまるで『ルルルンを知っている』口ぶりだった。
そして『マギア』という単語……。
そこから導き出される答えを信じ、ルルルンは、ある一つの“賭け”に出る。
「私に任せて!」
そう言うとルルルンは突然ビシッとポーズをとる。
これは魔法少女ルルルンの決め台詞と決めポーズ。知っている人しか分からない、ファンレベルじゃないと再現は不可能。
ルルルンは聖帝に目配せをして、このノリを強要する。
「何でも解決!」
ルルルンの要望に対して、聖帝はセリフと共に美しい緑の髪を振り乱し、ポーズまで完璧にとってみせる。
『魔法少女ルルルン♪』
二人は完璧なタイミングとポーズでルルルンの決め台詞を決めてみせた。
「聖帝様……あなたいったい」
「あ……」
思わず身体が動いてしまった、という表情。
「やっぱり、やっぱり貴方は本物のルルルンなんですね……」
交わりそうで交わらなかった二人の会話が、この一瞬で交わる。
そしてルルルンは確信を得る。
聖帝様は、魔法少女ルルルンを知っている、自分と同じ世界からきた。
【魔法使い】であると。