反省会
ルルルンは、険しい表情のライネスの前で、正座させられていた。
ケガはすっかり回復し、切断された腕も回復魔法で完全に癒えている。
だが、その回復を祝うような雰囲気は微塵もない。むしろ当の本人は、神妙な面持ちで床に正座していた。
貸し切り状態の「マギリア食堂」は、ライネスの放つ威圧感により、かつてないほどの緊張感に包まれていた。
「お前の言い訳を聞こうか」
「あ、はい……」
「どうして単独で魔女の件に介入した?」
「えーっとですね、前になんとなーく話たけど聖帝騎士団が討伐に出るって聞いて、その前に魔女を説得できないかなぁって思って、ライネスも反対はしないって言ってたし」
「確かに私は『反対はしない』と言った」
「だから、個人的に思うままにやってみたんだけど……」
「約束したな」
「約束?」
「私や騎士団に迷惑はかけないと」
ルルルンは、ライネスと街を一緒に散策した時に交わした約束を思い出す。
「した、ね」
「迷惑は?」
「かけたね」
ライネスは、ため息のような声で言葉を続けた。
「自覚があるなら言う事があるな?」
「すいませんでした……」
しょんぼりと謝るルルルン。
一方のライネスは、聖帝騎士団のNo.1として当然の態度。
傍から見れば、ルルルンが聖帝騎士団の偉い人にお説教されている構図。
そんな空気に、事情をよく知らないシアが、飲み物を持っていくのを躊躇するのは当然であった。
「あわわわわ、私ここにいてもいいんですか?」
勇気を出してライネスのいるテーブルに飲み物を持ってきたシアは、只ならぬ雰囲気に、自分がここに居てもいいのか表情でライネスに伺いを立てる。
「大した話ではない、大丈夫だよシア、私はほんの少し怒っているだけだ」
穏やかな口調とは裏腹に、まるでナイフのような威圧感に、シアは「失礼しました」と言い残し、そっと離れた。
「で……」
「で?」
発言を間違えれば確実に叱責される、重い空気の中ルルルンは「で……」を続ける。
「結論としては、北の魔女には悪意が無く討伐する必要はないと、俺は考えます」
「根拠は?」
少しの無言の時間、恐ろしく長く感じられるほんの2秒ほどの間。
「……勘……」
その言葉にライネスの表情が変わる、今度は怒りではなく、静かに冷ややかな表情で。
「そんな不確かな感覚で、我々の目的の邪魔をしたのか?」
「邪魔はしてない」
「どうしてそう思う?」
「結果的に聖帝騎士団の目的と同じ事をした、俺はそう思ってる」
「何の話だ?」
「魔女の脅威を排除する、それは達成されている」
「根拠は?」
「根拠……」
「根拠がなければその言葉にはなんの説得力もない」
そこまできてルルルンは言葉を詰まらせる。「勘!!!」と威勢よく言う事もできず、ライネスの目をまともに見ることが出来ない。
なぜなら……
「根拠ならここにあるし☆」
ルルルンは口を閉ざし、ライネスの目を見ることができなかった。
なぜなら———
「根拠なら、ここにあるし☆」
二人の会話を遮るように、ルルルンの背後から現れたのは、北の魔女――サクライ・サクラだった。