騎士の涙
「!!??」
「な──?」
稲妻が空を裂き、閃光と共に駆け抜けた。
その一閃は、まさしく稲妻の如く。
エクスキャリバーンの胴体を、真正面から一刀両断する。
凄まじい威力と鋭さ。そして、そこに宿る懐かしさと、頼もしさ。
金色の髪が稲妻に照らされ、夜空の下で美しく光り輝いていた。
「ケイスケ!!!!!!!!!!!!!!!」
「ライ……ネス……」
その姿は、ラザリオンの魔法を使い、命を削って全力で駆けつけた、聖帝騎士団最強の騎士ライネス。
彼女は迷うことなくエクスキャリバーンを切り伏せ、すぐさま死に体のケイスケ──ルルルンへと駆け寄る。
「生きてるか?酷い……ケイスケ……なんてことだ……あぁ、死ぬな、頼む、死なないでくれ……」
泣きそうな声で、何度も呼びかける。
今にも壊れそうなその声が、痛いほど胸を締めつける。
「嫌だぁ、頼む、死なないでくれ、ケイスケ」
その涙、その取り乱しよう──いつもの凛々しいライネスの姿は、そこにはなかった。
そんな彼女に、ルルルンは精一杯の強がりを見せる。
「そんな顔するなって……聖帝騎士団の最強騎士だろ……」
「ケイスケ!?」
「似合ってないよ……そんな顔」
「仕方ないだろ……こんな……私も、どうしたらいいのか……わからなくて、だって……」
「なんでそんな……俺なんかのために」
ライネスは崩れ落ち、子供のように泣きじゃくる。
「大切な人が目の前で死ぬのは、もう嫌なんだ……」
涙を浮かべ、取り繕うことのない感情をさらけ出す。
その頬に、ルルルンはそっと手を伸ばし、涙を拭う。
「泣かないでくれよ……ライネスが泣いてる所……見たくない……」
「誰のせいで泣いてると思ってるんだ!馬鹿者!」
少しでも安心させようと、ルルルンは無理にでも笑顔を作る。
「大丈夫、ほら、回復魔法で……死んだりはしない……今は、割としんどいだけ……」
「本当か?本当に大丈夫なんだな?」
ゆっくりと、魔法の光が身体を癒していく。
ライネスはまだ不安げな顔をしているが、ほんの少しだけ安堵の色を浮かべていた。
「大丈夫……ライネスを残して……先に死んだりしないよ……」
「ケイスケが死んだら私は……」
ライネスの見たことの無い表情に、ルルルンの心が揺さぶられる。
「負けっぱなしのまんまじゃ……ライネスも……嫌だもんな……」
精一杯の意地悪な返答に、ライネスはいつもの表情と声を必死に作ろうとする。
「そ、そうだ、私はお前にいつか勝つ、それまで私を鍛えてくれないと、そうじゃないと、だめだから……だから……無茶はやめてくれ……」
強がっているライネスの頬に、そっと手を添え、そのまま頭を優しく抱き、自分の胸に引き寄せる。
「あっ……」
「ありがとう……ライネスは命の恩人だ……ありがとう」
胸の中で、ライネスの表情が和らぐ。
喜びと照れと安堵が混ざり合う、不思議な静けさが二人を包む。
「お前の授けてくれた魔法のおかげだ」
そう口にするルルルンに、少し落ち着いたライネスは改めて顔を上げ、そして冷静な気持ちでこの状況に対して、表情を曇らせる。
「ケイスケ……すまない、私がもっと早く助けに来ていれば……」
俯く彼女に、ルルルンは気づく。
──彼女の身体は、ボロボロだった。
「お前……ラザリオンで……どれだけ走ったんだ?」
「……これしか間に合う方法がなかった」
「まったく……無茶して……」
ボロボロになった身体で、それでも彼女は来てくれた。
「魔法の力……見直した?」
「ああ、お前の魔法はすごい魔法だ……」
「でも……そんなボロボロになるんじゃ……使い方がまだまだ……だな」
「お前の教え方が下手なんじゃないのか?」
「いやいや……ライネスが覚え下手なんでしょ……」
「よく言う」
ライネスの顔に笑みが戻る。
その笑顔を見て、ルルルンもまた、心から安堵した。
「ありがとな……ほんとに助かった、さすがライネス……俺の……騎士だ」
「いつから、お前の騎士になったんだ?馬鹿者!!」
それでも、ルルルンの言葉に、どこか嬉しそうなライネス。
彼女は傷を手早く処置し、ルルルンを抱きかかえ
──お姫様抱っこの体勢になる。
「安心しろケイスケ、すぐに病院に連れて行ってやるぞ!」
「ありがたいんだけど……」
謎に画になってしまっているこの状況(お姫様抱っこ)にいささか抵抗のあるルルルンだったが。
「あの……」
「なんだ?痛いか?もっと優しく抱えた方がいいか?顔が赤いぞ、熱があるのか?」
気遣うライネスに、ルルルンは恥ずかしさと申し訳なさで目を逸らす。
「……ま、いいか」
頼もしさに甘えて、ルルルンは黙って抱えられる。
なんだろう、この、謎の安心感。
抱えられ、見上げるようにライネスの顔を見る。
「そりゃ、モテるわけだ」
「なんだ、そんなに……顔を見て、何もないぞ」
「ごめん、ごめん、ちょっとね」
「ちょっと?なんだ?」
「なんでもない、それより……」
ルルルンは少し真剣な顔になる。
ここから立ち去る前に、どうしても確認すべきことがある。
「ライネスちょっといいか?」
そう言って、エクスキャリバーンの胴体。
破壊されたその現場へ向かって、運んでもらうよう頼んだ。