北の魔女⑤
さっきまで結婚をしたい!!と、必死に涙目で語っていた毒性ゼロの少女とは打って変わって、真剣な口調でルルルンの提案を拒絶した。
「結婚はしたい、でも結界を解いて人間達と和解はしたくない」
「なんで?」
「ごめんねぇ、私、悪い魔女じゃないけど、良い魔女でもないんだぁ」
卑屈な笑顔を見せる北の魔女の言葉には、明確に他人を寄せ付けない冷たさのようなものが感じられた。
「多分あなたが思っているより、魔女は生き辛いし他人から受け入れられるものじゃない感じなの」
「そんなこと……な」
「ん?」
「そんなことない」と言いかけ、ルルルンは言葉を止めた。
言葉の先に、ライネスの顔が浮かぶ。果たして本当に、ライネスはこの魔女を許すだろうか?
自分とこの魔女とでは状況が違う。一括りに「同じ」とは言えない。ライネスは、北の魔女を許さないかもしれない。
この世界の価値観を、ルルルンはまだ完全には理解できていない。ゆえに、自分の予想などまったく役に立たないのだ。
ルルルンは考える。
ヨコイケイスケの生きた世界に置き換えたら、どうだろうか?
差別と対立――「魔法が使える者」と「魔法の使えない者」による終わらない争い。
もし、あの世界の状況を知らない人間が「マギアとノーマは分かり合える」などと、根拠もなく言ったとしたら……。
そんな簡単にいくなら、世界はこんなことになっていない、と呆れてしまうだろう。
『つまりそうゆう事』なのだ
この世界でも同様に、「魔女」とそれ以外の人間とのあいだには、埋めがたい大きな溝がある。そして、それは簡単に解決できるような問題ではないのである。
「理解できない?えーっと、魔法少女さん」
「……できるよ」
「だったらそうゆう事、結界は解かないし人間とも和解しない、私を攻撃してくるなら反撃する、でも結婚はしたいし彼氏もほしいっ!」
この魔女に明確な害意はない。迷惑行為といえば、たまに街へ繰り出して、いい男を魅了してたぶらかすくらいだ。殺意や敵意といったものは持ち合わせていない。少なくともそう感じる。
しかし、「和解はしない」と彼女ははっきり言う。向かってくる敵には、正当に対応する。その際に相手の生死を問う気もないのだろう。
このままでは聖帝騎士団が討伐に動く、討伐に騎士団が動くなら北の魔女は対応せざるを得ない……事実、討伐隊は編成され、すぐにでも魔女討伐は現実になるであろう。
――そうなれば、どうなるのか?
必要のない争いを避けるため、どうにかしてこの魔女を説得しなければならない。
ルルルンは、自分のその思いが偽善じみた使命感だと気づいていながらもライネスやカインがこの魔女と敵対することが「嫌だ」と、確かにそう感じていた。
「もし聖帝騎士団が領土に侵入してきたらどうする?」
「そんな予定があるの?」
「もしもの話だ」
「そうね、イケメン以外は速やかにお帰り頂くわ」
「こんなこと、約束してって言うのは無理があるかもしれないけど……できるなら、君には誰も殺してほしくない。そう思ってる」
「なにそれ?あんた聖帝騎士団の関係者?魔法が使えるくせに?」
「関係者じゃないと言えば嘘になるけど、俺は君の敵でもない」
「だったらなんでそんなお節介するわけ?」
「俺が望むのは誰も傷つかない平和的解決だ」
「はぁ」
魔女は呆れたような顔をして、ルルルンの無茶なお願いに首を傾げる。
「誰も殺さないねぇ……」
精一杯の提案だった。もし何か起こってしまったとしても、せめて被害が出ないように――。
かなり苦しい説得であることは、ルルルン自身もよくわかっていた。
魔女は「うーん」と悩み、少し間を置いて返答する。
「約束はできない」
その言葉に、ルルルンは肩を落とす。
「だってあの人たちマジでくるじゃん?そんな人達に手加減してたら、こっちも只じゃ済まないし、もしかしたら殺しちゃうかもしれない、だから約束はできないかなぁ」
さらりと恐ろしい事を言っているが、ルルルンは納得せざるを得なかった、彼女の言っている事は正論だ。
本気で来る聖帝騎士団相手に手加減して勝てるとは思わない、ライネスと手合わせしているルルルンがその事を一番理解していた。




