北の魔女③
「で?私と何を話すの?」
魔女は全裸で手を腰を当て堂々と対話に臨む。
「その前に服を着てくれないか?集中できない」
「なんで?」
「とにかく頼む!」
「女同士でそんなの気にしなくてもいいのに」
そう言うと、ベットに脱ぎ捨ててあった薄手のドレスのようなものを身に付け、一応裸ではなくなった。なくなったが、ほぼ裸である。もう一度言おう、ほぼ裸である。
魔女はそのままベットに腰かけ、まじまじとルルルンを『観察』する。
「無駄だよ」
ルルルンは北の魔女にそう言うと、魔女は観察する事をやめる。
「へー、すごい、観察の魔法で見ても何も見えないとか、こんなの初めてなんだけど」
「この世界の魔法は俺には効果が無い」
「ふーん」
「さっきも言ったけど、自動で無効にする障壁を貼ってる、観察魔法を使っても何も見えないよ」
「なるほど、《《この世界》》ね」
【この世界】北の魔女はその言葉に強く反応した、引っかかる物言い。やはりこの魔法少女と名乗る女は異質な存在だと確信し、魔女はニヤリと微笑む。
俄然興味が湧いた北の魔女は、楽しそうにルルルンに語りかける。
「それで、見たところ貴方、私よりずーっと強いみたいだけど、今ここで私をどうにかしたい感じ? 魔法が通じないなら、私はただのか弱い女の子になっちゃうんだけど?」
「何もしない、俺はあんたと話をしにきたんだ」
「お話?それだけ?」
「そうだ、魔女って呼ばれてる奴がどんな奴なのか、確かめにきた」
「まじ?」
「そのためにもあんたと話がしたい」
それを聞いて魔女は嬉しそうに微笑む。
「なにそれ、ウケるそんな理由で魔女の私に会いに来ちゃったの?」
「そうだ」
「そっかぁ、そんな理由で、私に会いに来ちゃったんだ」
「まあそうだ」
「私、魔女だよ」
「知ってる、だから話をしにきた」
「真面目か!www」
北の魔女の含みのある言い方に少し引っかかりながらも、ルルルンは改めて問いかける。
「単刀直入に聞く、お前に悪意はあるのか?」
無駄な問答はせず、ルルルンはシンプルに問いかける。その返答次第では、強行手段を取らざるを得ない。
少しだけ間を置いて、魔女は答えた。
「何を持って悪意とするのか、私には理解できない」
「魔法で他人を傷つけ、悲しませる、意図的にそれを行っているなら、それは悪意だ」
「なにそれ、私は私の為だけに魔法を使ってるだけだし」
「私の為だけ?どういう意味だ」
「え?それは……」
「私的に魔法を使っているなら、内容によっては悪い事だ」
「私的なのは間違いないけどぉ」
北の魔女は返答を渋る。話したくなさそうな雰囲気で、両手の指を合わせて口元を隠す仕草を見せる。
「答えられないのか?」
「うーん、答えてもいいんだけど」
「だったら答えろ!」
「うー」
「うー?」
「笑わない?」
「どういうこと?」
「笑うなら言わない」
「笑わない」
「ほんと?」
「え?」
「笑わない?」
「笑わない」
「まじ?」
「は?」
「まじで?」
「まじで」
「笑わない?」
「笑わない」
「絶対?」
「絶対」
諦めたのか北の魔女は、少し恥ずかし気に視線を外して口を開く。
「私は……」
「私は?」
「私は」
「私は?」
「うー」
「うー?」
「絶対笑わないでね」
「笑わない」
「……ほんとに?」
「あー!くどい!笑わないから早く言って!!」
「………」
「………」
一瞬の静寂が2人の緊張感を高める。
「素敵な男性と結婚したい!!」
…………
「……は?」
魔女は両手の人差し指をイジイジしながら。
「素敵な男性と結婚したいなぁって……思って、魔法を使いまくってました☆」
幻聴でも聞き間違いでもなく。確かにそう言った。