北の魔女②
「私寝る時は服を着ない派なの、てか寝込みを襲いに来たんじゃないの?なんでそんな事で驚くの?」
突然現れたルルルンに動揺することなく、女は平然と腰に手を当て、裸のまま立ち尽くしていた。
「ちょっと!見せびらかさないでくれます!?」
直視できないほどの美貌に、ルルルンは思わず視線を逸らす。
「ってか、ちょっと待って!あなた女?女じゃない?なに?じゃあ、夜這いじゃないの?なにそれぇ下がるぅ」
魔女と思われる女は、ルルルンが女であると知って明らかに落胆し、テンションを下げていた。
「で?なに?つまりぃあなたも魔女って事?」
魔女と思われる裸の女性はめんどくさそうに、ストレートな質問をする。
「あなたもってことは、あなたは、魔女でいいんですよね」
「そんなお堅く話さなくて大丈夫よ」
「あんたは魔女なの?それだけ教えて!」
「あなたはどう思う?私は魔女だと思う?ねぇ」
話し方や雰囲気から判断するに、年齢は16〜20歳ほどの若い女性。
老婆のような魔女を想像していたルルルンにとっては、意外な人物だった。
少女と呼んでも差し支えない容姿だが、纏う魔力は明らかにただの魔法使いではない。
かなりの高位に位置する魔術師……いや、間違いなく「魔女」クラスの魔法使いだ。
つまり、この裸の女こそ、世界中が恐れる魔女の一人「北の魔女」。
確信はある。しかし、陽気すぎる態度と常識外れな言動に、どうしても違和感が拭えない。
「私が魔女だとしてぇ、同じ魔女のあなたは、何の用事で私の寝室にいきなり現れた訳?夜這い?そうゆう趣味?でもでも私、同性には興味ないの……ごめんね……ところで、夜這いなのよね?」
「ちがうよ!!」
「じゃあ何しに来たの?」
明るく無邪気な笑みを浮かべる彼女に対し、ルルルンは決して警戒を解かず、真面目な口調で答える。
「争いに来た訳じゃない、色々と聞きたい事があって来た……いきなり寝室に進入した事は、謝ります、ごめんなさい」
「なにぃ?素直に謝るのね面白っ」
あのライネスとも対話ができたのだから、この魔女とも分かり合えるはず。
相手を刺激しないよう気を配りながら、ルルルンは率直に話す。
「あと、俺は魔女じゃなくて、その……魔法少女だ」
大事な事なので訂正した。
「魔法少女?え?なに?なにそれ、もう一回言って」
「え?いや……だから魔法少女……」
「なにそれ、ウケル、魔法少女?www」
北の魔女は魔法少女と自称するルルルンに対して少女のように大きな声で笑う。
「超可愛いんですけどぉ」
「そんなに笑わなくてもいいだろ?」
「あぁ、ゴメン、ゴメン、真面目なのね、オッケー」
ようやく笑いを収めた北の魔女に、ルルルンは鋭く問いかける。
「単刀直入に聞く、お前は悪い魔女か?」
「ウケル、何その質問、そんなこと聞いてくる人間がまだ居るなんてね、あなたやっぱりおかしいんじゃないの?」
問いに対して、魔女はまるで冗談のように返してくる。
「真面目な質問だ!ちゃんと答えてくれ」
「ごめんって、真面目な質問ね、ハイハイ」
「って、おい!」
北の魔女はルルルンに近づき、耳元で囁くように質問に答えた。
「《《すっごく、悪い魔女よ》》」
パチンッ!
「何?」
ルルルンの魔法無効が反応する。魔法が無効化されたことに、北の魔女は動揺を見せる。
「魅了魔法か、確かに……悪い魔女だ」
「私の魔法を無効にしたの?」
「そのレベルの魔法は自動で無効にする、やるだけ無駄だよ」
「まじ?」
へぇ、とルルルンを舐めまわすように見定めると、少しだけ魔女の態度が変わる。
「魔法少女ねぇ……やっぱりあなた面白いじゃん」
「争うつもりはない、俺は話をしたいだけだ」
ルルルンの放つ不気味な気配に、北の魔女はただならぬものを感じ、態度を改め、対話の姿勢を見せるのだった。