二人の決意②
「何故それを知っている?」
ライネスは顔をしかめルルルンに詰め寄る。
「あー、たまたまね」
「ミーリスか?まったく……」
「最初に疑われるとか、どんだけ信頼ないんだよミーリス」
はぁ、とため息をつくが、ライネスは隠すことなくルルルンの目を見据える。
「ここ数日、ウルザの主都「ミザド」で魔女の被害が出ている」
「魔女の?」
「お前にカインを付けたのは、その件もあったからだ」
初耳であった。ルルルンは驚き、ライネスに確認する。
「眷属とか魔女会じゃないのか?」
「違う」
ライネスは明確に否定する。
「言い切る証拠は?」
「魔導器が使用されれば必ず痕跡が残る」
人工的に生成された魔法は痕跡が残るが、人を介して生み出される魔法は全てを体内で完結させるため痕跡は残らない、魔法学の基礎である。
「だがその形跡がない、被害にあった男性は全員魅了の魔法がかけられていて、未だに意識が混濁している状態だ、それと、例外なく被害者は魔女についての記憶を失っている」
「記憶の改ざん……十中八九魔法だな」
「前ケイスケが見せてくれた魔法に近いと思う」
記憶の改ざんや魅了の魔法は超界魔法に位置する。この世界の魔法の価値観からすれば、超界レベルの魅了魔法を使う=魔女会や眷属とは考えられない。
「その犯人の目的は?」
「分からない、被害にあっているのは全員男性というだけで、共通性は何もない」
「無差別に魅了してその後に記憶を消してるって事?」
「この魔女は昔から行動に謎が多い」
「このって言い方は、過去にも被害があったってこと?」
「魅了の魔法を使うのは北の魔女と言われているが、証拠もないからな、ハッキリとは分かっていない」
『北の魔女』この世界に存在する4人の魔女の一人。目立った殺戮行動などはなく、魅了魔法で他人を操り廃人のようにしてしまう、目立つ殺戮はないが、目立つ行動が多い、目的は不明の謎が多い魔女である。
「なるほど、それで聖帝様に討伐を命令されたって事ね」
「命令ではない、神託だ」
「で、どうするの?ほんとに討伐って話になるの?」
「それが神託だ、変更はあり得ない」
「そうか……まぁそうだよね」
この世界にとって魔女は敵、討伐の必要があれば聖帝騎士団が動く、それがあたり前の流れなのだ。
「いつ頃?」
「それは答えられない、近く行われる予定だ」
「居場所は分かってるのか?」
「詳しくは答えられないが、おそらくの場所は分かっている」
「多分、結界魔法で隠されてるよ」
「そのことも認識している、あたりのついている箇所を聖帝騎士団で虱潰しに探す」
自分なら直ぐに見つけられるのに、そう心の中で呟くが、ライネスにとって自分たちで決着をつけたい問題なのだろう。無粋な真似は慎むべきだと、ルルルンは何も言わずライネスの話を聞く。
「後は騎士団が全力で見つけるだけだ」
「じゃあ、すぐにカチコミかけて戦いになるって訳じゃないんだな」
「ウルザで捜索部隊を編成し、発見次第、私を含めた第1,5,10騎士団の混成大隊で討伐に向かう、すぐにと言う話ではない、なんだカチコミとは?」
「そっか、時間はあるんだな……」
ルルルンにとって、討伐が今日明日ではない事が分かれば、情報としては十分だった。
「ケイスケは私たちを止めないのか?お前なら大隊相手でも簡単に妨害できるだろ?」
「止めないよ、てか止められない」
ライネスの邪魔はしたくない、それがルルルンの本心だが。
「止めないけど、俺は俺で勝手に動くから」
我は通すと宣言する。
「……ケイスケ」
「大丈夫、ライネスにも誰にも騎士団にも迷惑かけないから」
「そうか……」
話しながら歩いていると、二人がデートを始めた最初の広場に到着する。
「……それじゃあ、私は教会に戻る」
「うん」
「ケイスケ」
「なに?」
「……《《無理はするなよ》》」
「ライネスも」
「あぁ……」
どこか寂し気で、どこか分かりあっているやり取り、二人の間に見えない駆け引きがいくつもあった。お互いがお互いを尊重しているが、思いや目的は違う、否定はしないが応援は出来ない。ライネスの口にした「無理はするな」が精いっぱいの言葉
ライネスが去ると、ルルルンは意を決した表情で呟く。
「やれるだけやってみるか」