策謀のマギリア⑨
貯水槽に現れたルルルンをゆっくりとフェイツは振り返り確認した。
「随分と素直に来てくれるんですね、驚きました」
「シアを離せ!!!」
「あぁ……そうですね、シアさんはこれで……用済みですからね」
フェイツはそう言うと、ゆっくりと丁重にシアを地面に降ろした。その対応にルルルンは少し驚くが、警戒の姿勢を変える事なくフェイツに対してに質問をする。
「なにが目的だ?回りくどいことしやがって、直接会いにこればいいだろ!!!俺は逃げも隠れもしない!!!!関係ないシアまで巻き込みやがって!!!!こういう陰湿なのが一番嫌いだよ!!!!」
ルルルンの振る舞いに、フェイツは納得の表情を浮かべる。
「あぁ、なるほど、シアさんの言う通りだ」
「シア?」
少しだけシアに視線を落とすが、フェイツはすぐにその視線をルルルンに向ける。
「品定めです」
「品定め?」
「意味が解らんぞ」
カインが口を挟む、赤髪の部外者にフェイツは怪訝な表情を浮かべる。
「あなた、聖帝騎士団ですか?なんでそんなのが付いてきているんです?」
「それは……色々あって」
「ライネス様より賜りし使命を全うしているだけだが?」
カインは実直な男である、世界で一番尊敬し好意を寄せる女性の頼みを実行しているだけ。
「一人で来いとは指示されなかった!問題ないだろう!!一人で来てほしいならちゃんとその旨メッセージに書き込むのが礼儀であろう!!」
カインが大声で屁理屈を言う。予定外の来客だが、フェイツの表情は落ち着いている。
「問題ありません、こちらは聖帝騎士団が何名いても構いませんから」
フェイツが手をかざすと指輪が輝きを放つ。
「発動、影召喚」
フェイツの影が伸び、その影の中から人の形をした物体が召喚される。
「魔動器!?」
「貴様、魔女会か?」
「私は魔女様より直接の恩寵を賜る眷属です、あんな低俗な信徒と一緒にされるのは心外ですね」
フェイツは少し不機嫌に魔女会という言葉に反応する。
「魔女の眷属」
「魔女の眷属って事は、やっぱり魔女絡みって事?」
「そういう事だ」
少しの状況変化を見ただけで、事態を理解したカインは、ルルルンに警戒しろと目配せをする。カインにとっては、ルルルンはか弱い変な女子という認識なので、守ろうとする姿勢を見せるのが当然である。
影から召喚された物体が色づき、姿を現す。派手な演出で出てきた割には、特段特徴のないモブキャラのような見た目に、二人は首を傾げる。
「あれ?」
そんな見た目にルルルンは既視感を覚える。
「あの男……どこかで???」
「なんだ、知り合いか?」
「いや、知り合いではないんだけど、なんだっけ、すごく見たことあるんだけど」
知り合いではないが、どこかで見たことのある雑魚感……思い出そうとするが思い出せない。
「でもどこかで?」
既視感の塊のようなモブは、召喚されたものの、まるで操り人形のように項垂れていたが、フェイツの指輪が光ると、ガクンと顔を上げ、目を見開く。
その目に生気はなく自我も感じられない、感じられるのは得体の知れないオーラだけ。
フェイツの指輪型魔動器から、感じたことのない奇妙な力が放たれる。
「発動、魔導装着」
魔導器から光が放たれる。
光は影となりモブを包み込む、その影は形を成し【まるで鎧のような物】に変貌する。
「影の鎧?」
「……違うよパイセン」
鎧を纏うという表現は正しくないだろう、それは鎧と呼ぶにはあまりにも全身を覆いすぎている。
「まるで……」
その姿は【魔導機動騎士】と呼ぶ方が相応しいだろう。
「魔人機なのか!?」
「そうです、あなた達には魔女様から授かった、新しい魔人機のテスト相手になってもらいますね」
新しい魔人機と呼ばれたそれは、装着型の魔人機と呼べる代物で、小型ながらその出力は通常の魔人機を越えるものとなっている。塔の魔女が作り出した新たな魔人機、それを前にルルルンは拳を握りしめギリギリと震えていた。
「……それが魔人機だって?」
「そうですけど」
「どうしたルルルン?」
「なんで……」
「?」
「なんで……」
ルルルンは魔人機を指さし叫んだ。
「小さくしちゃったんですか?????????」
迫真の叫びであった。
「?」
「?」
ルルルン以外が?を飛ばす。
「お前!魔導機動騎士はおっきくてなんぼでしょ!!!????こんな小さくしちゃったら、ロボットじゃなくて、強化スーツじゃん!!!強化スーツは強化スーツでしょ?ロボットじゃないでしょ!!!そんなの、そんなの浪漫がないでしょ!!!!」
ロマンを説き始めるルルルンに、ポカンと呆れ顔の二人。
「何を言ってるのか知らんが、この魔人機も可能性の一つ、魔女様の力の一端、この力試させてもらうぞ!!」
「バリエーションの一つって事かぁ?もう大きいのは作らないの?可能なら大きいのも作り続けてほしいなぁ!!!」
巨大ロボット厄介勢が吠える。
「私の知るところではない」
「やかましいぞルルルン」
「でも!パイセン!!!!」
敵から目を離さず、カインがゆっくりと腰の剣を抜く。
「パイセン?」
その剣は燃えるような紅い剣であった。
カインはその剣を正眼に構え、燃えるような眼光で魔人機を睨みつける。
「魔女の尖兵に遅れなど取らぬ」