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策謀のマギリア⑥

 フェイと会った翌日。


 屯所の管理を滞りなく終えたルルルンは、昨日の帰り道に考えていた件でまだモヤモヤしていた。

 襲撃者の件、自分でやるべきか、聖帝騎士団に任せるべきか、目立つ動きはしたくない、けど相手の目的も確認したい、どうするべきかと頭を捻っていると、見覚えのある赤い髪の騎士がルルルンを探していた、ルルルンの姿を見つけたカインが足早に駆け寄ってくる。

 なにやら嫌な予感を感じたルルルンはカインに背を向け逃走を図ろうとする。


「うおぃ!!さりげなく逃げようとするな!!!」

「いやだって、パイセンがそんな顔して走ってきたら逃げるよ!嫌な予感しかしないもん」


 しぶしぶカインに捕まって話を聞く事にするが、カインはいたって真面目な表情で話しを進める。


「ルルルン、聞いたぞ!お前、良くわからんのに狙われているのだろ?」


 カインの口から出てきた要件は意外なものだった。ライネスから聞いたのか、耳の早い事だと、思いつつルルルンはカインに説明をする。


「正確には、狙われたって話で、今日まで結局狙われてないよ」

「いや、そう言う問題じゃない馬鹿か?お前は女だぞ、何かあったらどうする!?」


 真剣な表情でカインが詰め寄る。カインの熱量とは裏腹に、なんというステレオタイプなのかとルルルンは呆れ顔である。


「あ、いや、俺は一人で大丈夫だから、ほんと、普通の女じゃないから」

「普通の女ではないという部分には納得するが」

「だったら」

「だが、だめだ!犯人は聖帝騎士団が見つけてやる、それまでの間、俺が護衛する」

「え?やだよ」

「だめだ!!私の知り合いが命を狙われているのを知っていて、何もしないなど、騎士の名折れ!!」


 めんどくさい事になりそうだと、ルルルンはやんわり拒否しようとするが、カインは真剣な眼差しで詰め寄ってくる。


「でもパイセンって隊長でしょ?隊長なんて偉い人がこんな小娘の護衛とかだめでしょ?」

「問題ない、これはライネス様からの命令だ」

「え?」

「しばらくの間、私の隊は副長に任せてある」

「あぁ、ライネスかぁ……」


 だからやる気満々なのね、と納得すると、半ば諦めモードのルルルンは、さっさと犯人を見つけてこの押しかけボディーガードを返品したい一心である。

 正直カインの実力も知らないルルルンは、逆に足手まといになるのではないかと心配すらしている。聖帝騎士団の全員がライネスみたいな化け物ではないだろうし。


「今日は昼からマギリア食堂で仕事なんだけど、もしかして来るの?」

「当然だライネス様の命令だからな」

「はい、そうですか」


 諦めてカインと共にマギリア食堂に向かう。 


「屯所の仕事はどうだ?マリアさんに迷惑かけていないか?」

「全然、ちゃんとやってるよ、パイセンの顔に泥を塗るわけにはいかないからね」

「いい心がけだ!」

「わりと感謝してるよ、すごくいい仕事だって思ってる、給料もいいし」

「お前なら大丈夫だと思ったから紹介したんだ、当然の結果だろ」


 カインがさらっとルルルンを褒める、珍しいお言葉にルルルンは少しだけ口角が緩む。


「あざます!」

「ありがとうございます!だ、妙な略し方をするな馬鹿者!」


 堅い頭は相変わらずだが、ルルルンはカインの真面目な部分を嫌いになれず、むしろ好意的に感じていた。


「ライネスに似てるからかな?」

「なんだ?にやついて、何も出てこんぞ」

「人の事なんだと思ってんすか?」

「面だけいい、ずうずうしい女だ」

「それ俺じゃなかったら訴えられますよぉ」

「うるさい、お前だから問題ない」

「酷い!てか、パイセンの部下は大変だろうねぇ」

「余計なお世話だ!!」

「誰もついてこなくなったら、俺が部下になりましょうか?」

「絶対お断りだ!」

「本当はなってほしいくせにぃ」

「お断りだと言っているだろうが」


 日常的な口喧嘩をしながら、二人はマギリア食堂に到着する。


「おはようございます~」


 大きな声で元気よくが、出勤時のルルルンのポリシーであるが、カインとの同伴出勤がその元気を奪う。こんなテンションで挨拶すれば、いつもならバルカンの怒声が響くのだが……なにやら食堂の様子がおかしい。


「どうかしました?」


 店主のバルカンが難しい顔をしている。いつも怒るか、笑っている所しか見たことがなかったので、ルルルンはただ事ではないと身構える。


「いやぁな」


 バルカンが重たい口を開く。


「シアがまだ来てないんだわ」


 シアが来ていない……遅刻だろうか、ルルルンは特に思いを走らせる事無く、何故バルカンがそんなに深刻な顔をしているのか分からなかった。


「遅刻とかじゃないんですか?」

「いやいや、ありえねえよ、あいつは今まで一度も遅刻をしたことがねえんだぜ」

「いや、シアでも寝坊くらいするんじゃないですか?」

「お前は知らねえだろうけど、シアは毎朝食堂に来て掃除やら開店の準備やらやってくれてる」

「いや、知ってますよそれくらい……って……え?じゃあ」

「朝も来てねえんだ、そんな真面目なシアが昼まで寝坊するか?」

「確かにそうだけど、心配しすぎじゃ……」

「ここで働き始めてから4年、このルーティンを毎日欠かした事のないシアだぞ?」

「それは……」


 バルカンの話を聞いて、少しずつルルルンも不安になってくる。


「シアさんがどうかしたのか?」


 ルルルンの隣にいたカインが口を挟む。


「ちょっとトラブルかも」

「そうか、なにか手伝える事はあるか?」


 迷いなく真っすぐな意見を投げてくる、こんな時だからか、そんなカインが頼もしく見える。


「いや、心配しすぎなだけかもしれないし、まだ確定な話じゃないから……」

「馬鹿者、少しの心配が大事に繋がる事もある!シアさんの安否が気になるんだろ?私も協力する」

「パイセン、ライネスみたいな事言うのな」

「当然だ!!!店主、私が力を貸す、なんでも言ってくれ」


 誇らしげに協力を買って出たカインに、バルカンは素直に感謝する。


「カインの旦那、感謝します」

「じゃあ俺とカインさんとで、探してきます」

「頼めるか?」

「はい、シアの家ってわかります?」


 バルカンは簡易的な地図を紙に書きルルルンに渡す。


「これで寝坊だったら許さねえからな」

「そっちのほうがいいですよ」

「頼んだぞ」

「お任せ下さい!」


 ルルルンとカインは店を飛び出て、バルカンに貰った地図の場所に向かった。


「嫌な予感がする……」

「嫌な予感?」


 ルルルンが得体の知れない不安を吐露する。


「タイミング的に不自然すぎる」

「お前を狙ってる奴絡みか?」

「襲撃された時、シアと一緒に居るところを見られてる」

「なるほど、関係者と認識されている可能性があるな」


 フードの魔法使いが、自分と親しい人たちを狙う可能性に、なぜか気づかなかった。油断が無かったのかといえば、大いにあったし、舐めていた、襲撃されても問題ないだろうと……その浅はかな考えに、ルルルンは拳を強く握りしめる。


「ここだ」


 地図の場所に着くと、二人は警戒しつつ、シアの部屋へと向かう。


「ドアが開いてる」


 開いたままのドアを見て、ルルルンは慌てて部屋を確認する。


「シア!?」


 そこにシアの姿はなく、部屋は人気のない空気に満ちていた。魔力の残り香が、シアに何かあった事を、如実に現わしていた。


「シア!!!!シア!!!!!!」


 自分のせいだと内から湧き上がる後悔の念が、ルルルンを責め立てる。焦る気持ちがルルルンの声を大きくさせていた。


「大丈夫だ、俺が何とかする、だから安心しろ」


 その気持ちを察したのか、カインがルルルンの肩に手を置き、ルルルンに落ち着くよう促す。


「カインパイセン」

「シアさんは必ず見つけてやる」

「ありがとう……そうだよな……」


 カインの気を使った言葉に、ルルルンは落ち着きを取り戻す。顔をぴしゃりと両手で叩き呼吸を整える。


 『シアは必ず助ける!!』


 シアを思う気持ちが、ルルルンの心を冷静に熱く滾らせた。

数ある作品の中から、この作品を選び読んでいただきありがとうございます。


面白い!続きが読んでみたいと思っていただけたなら幸せでございます。




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