策謀のマギリア⑤
マギリア中心部から少し離れた静かな住宅エリア、街の活気とは程遠いが、雰囲気のよい閑静な住み心地のよい場所だ。
マギリア食堂で働くシアは、このエリアで一人暮らしていた。
「今日もルルさんに会えたし、明日も会える♪」
ニコニコと笑顔で、明日の準備をしているシアは、ルルルンに明日も会えると考えると、思わず笑顔になってしまう。
両親を早くに亡くし、一人で暮らしてきたシアにとって、突然現れたルルルンは、姉に近い存在なのかもしれない、優しく自分に接してくれるその姿に、いつも励まされる。シアにとってルルルンは憧れ以上に大切な存在になりつつあった。
「私、おかしいのかな、女の人と一緒にいてドキドキするなんて、でも……ルルさんにかわいいって言われたら、すごく照れちゃうし、すごく嬉しいし、なんでなんだろ……」
自分でも不思議なその感覚にシアは戸惑いつつも、胸に手を当て、正体の分からない感情に暖かい何かを感じていた。
「屯所でのお仕事の時、お弁当とか差し入れに持っていったら迷惑かな……」
屯所で働くルルルンのために、自分が出来る事はないかと考える。自分が出来る事は少ない、それは理解している、いつも失敗ばかりで迷惑をかけてばかり、そんな自分にできる事はこんな小さな事しか思いつかない。自信はないが、毎日お腹減ったと口にしているから、お弁当は喜ばれるに違いない、シアはそうやって前向きに考える。
「ルルさん何が好きなのかなぁ……喜んでくれるかなぁ……」
お弁当に何を入れるか、胸を躍らせ部屋の中を落ち着きなく歩き回る。
トントン
ドアをノックする音が、舞い上がっているシアを現実に引き戻した。
「こんな遅くに、だれだろう……」
小走りに部屋の入口に向かい、ゆっくりとドアを開き来客と対面する。
「夜分に申し訳ありません」
黒いフードを被った女性が笑顔で語り掛ける。
「はい……失礼ですが、どなたですか?」
シアは警戒する事なく、訪ねると、フードの女性はゆっくりとフードを取り、顔を晒す。
「こんばんわシアさん」
「ああ、フェイさん」
フードの女性は、昼にルルルンと一緒にいたフェイであった。知っている存在にシアは笑顔で対応する。
「どうかしたんですか?」
「いえ、シアさんに少しお願いがありまして」
「私に?」
「ええ、その……ルルルンさんの事で」
「ルルさんですか?」
ルルルンの名前が出るとシアの表情はさらに明るくなる。
「ええ、ルルルン……そうです、ルルルンさんです」
フェイは確かめるようにゆっくりと話す。
「ルルさんがどうかしましたか?」
「はい、ルルルンさんについてもっと知りたくて……シアさんならルルルンさんとも仲が良いみたいだし、お話ししたいなぁって……お時間よろしいですか?」
フェイがそう言って手を差し伸べる、表情は笑っているが、目はどこか虚ろである。そんなフェイの突然の訪問にシアは動揺こそするが、ルルルンの事と知るや、目を輝かせる。
「も、もしかして女子会ってやつですか?あるいはパジャマパーティー」
「いや、そういうわけじゃ」
「大丈夫です、ルルさんの話なら私どれだけでもできますから!」
「それは心強い」
フェイの表情がスッと変わる。
「さぁ、フェイさんどうぞ……」
フェイを部屋に招き入れようとしたシアの動きが停止する。
「あ……う……あぁ……」
「……ごめんなさい」
そう言うと、フェイはマントの中から魔動器を取り出す。すでにそれは起動しており、シアを眠らせる魔法が発動していた。
「ルルルンさんを呼ぶには、あなたが一番良いと思ったから」
「フェイ……さん」
眠りに落ちるシアをフェイは複雑な表情を浮かべ見つめていた。
「全ては東の魔女様のため……」
眠りについたシアを担ぐと、フェイは一枚の手紙を机の上に置き、わざとらしく魔力の痕跡を残して暗闇の中に消えていった。
明かりのついたままの室内と、開きっぱなしのドアが、平和なはずの静かな空間を異質なものに変えていた。
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