策謀のマギリア③
設定変更による矛盾点修正のため、30話から67話までを順次再投稿しております!!
フェイとの約束を交わした翌日
「どうもお待たせしました」
「いえ、私も今来たところです」
待ち合わせの時間丁度にルルルンはフェイと合流した。
「ルルルンさん、今日はありがとうございます」
「よろしくお願いします」
二人の目的はルルルンの起業のための物件探し。フェイはマギリアの物件に詳しい商工ギルドのメンバーの一人、ミーリスの紹介でルルルンの手助けをしたいと、わざわざ名乗り出てくれたのだ。おそらくは営業なのだろうが、伝手のないルルルンには助け船である。
物件探しを始める前、ルルルンの望む物件について、ある程度の方向性を知っておきたいため、軽い打合せが行われる。
「なるほど、ルルルンさんとして譲れないポイントは、マギリアの中央地区の一等地である事と、人通りのなるべく多い、この二点ですね」
「はい、我がままかもしれませんが、その二点は譲れません」
フェイはフムフムと頷きながら、手に持った資料に目を通す。
「じゃあ行きましょう!お眼鏡に叶う物件紹介しますよ!!」
「なんだか昨日とテンションが違いません?」
「あ、いえ、仕事となると舞い上がっちゃって、すいません」
「いや、そのほうがいいと思いますよ」
ルルルンはフェイの後に続き、浮かれ気味で歩き出す。
「現在マギリアは絶賛発展中でございまして、何かをはじめようと思っている方にはまさに絶好のタイミング!一山当てようと世界中から人が集まっているんですよ」
「へー、だから最近、工事が多いのか」
確かに建物が増えて、そこかしこで工事が行われている、今でも十分に発展していると言っても間違いはないのだが、成長の余地はまだまだあるらしい。
「流石、世界の中心」
「カノンの中でもマギリアは商売に適した街と言われてますからね、ルルルンさんはそれを見越してこの街に来られたのではないですか?」
「え?ああ、うん、そうですよ!前回失敗しちゃったんで、今回こそは成功したいですからね」
嘘は言っていない。ルルルンは上手い具合にフェイとの会話を合わせて話す。
「そうだったんですか……」
不味い事を聞いてしまったと、フェイが委縮した様子を見せる。
「いやいや、けっこう自業自得だったんで、気にしないで下さい、次成功すればいいんですから!」
「すごく前向きなんですね」
「取柄です」
笑顔のルルルンに触発され、フェイがより一層やる気を見せる。
「成功のためにも、絶対にいい物件を紹介してみせますね!!」
「ありがとう、期待しますね」
「任せて下さい!」
そういって、足早にマギリアの街を巡り巡る。
街の中央の一等地や、路地裏の隠れた名店感のする場所、住宅街近くの人通りの多い空き家、10か所ほど案内されただろうか、どこもかしこも甲乙つけがたい良い物件である。しかし、最後の決め手に欠ける……。
「うーん、全部いいんだけどなぁ」
「即決しないとダメというわけではないので」
「そうだけど」
ぶっちゃけ即決できるお金も無い、それが答えではあるのだが。ここまでアテンドしてもらった手前、そんな事をフェイに言えるはずがなかった。うーんと腕を組んで悩んでいると、聞きなれた声が背後でルルルンを呼んだ。
「ルルさん!」
ルルルンをこう呼ぶのは一人だけ。振り向くとそこには、マギリア食堂の同僚でもあるシアが立っていた。
「シア」
「なんだか休みの日に会うなんて珍しいですね」
ニコニコと笑顔のシアを見ると、難しく物事を考えているのがばかばかしくなると、さっきまで難しそうな顔をしていたルルルンの顔も緩む。
「マギリア食堂の方ですよね?」
フェイがシアに話かける。
「はい……あの、お会いした事ありましたか?」
「あ、いえ、多分私が一方的に知っているだけで、私、オリオール商会のフェイと申します、初めましてシアさん」
フェイが丁寧に挨拶をすると、シアは少し驚いたリアクションをする。
「オ、オリオール商会の方ですか?え、あ、シアと申します、あわわわ」
シアのリアクションの意味が分からず、ルルルンがシアに問いかける。
「どうしたのシア?フェイさんに驚く事なんかあるか?」
「え?いや、オリオール商会と言ったら、マギリア、いえ、カノンでも一二を争う超巨大商会ですよ!!」
「?」
熱く語るシアと裏腹に、少しもピンとこないルルルンに、フェイがくすくすと笑っている。
「なんでそんなすごい人と一緒なんですか?」
「あぁ、今日は夢のための第一歩というか、そのためにフェイさんに協力してもらって、街のいい物件を紹介してもらってるんだ」
「ルルさんの夢?」
「ああマギリア食堂でがんばってるのも、そのためだよ」
「そうなん……ですね」
初めて聞くルルルンの夢の話、食堂では仕事の話ばかりで、そういったプライベートの話はあまりできずにいた、シアは少しだけ寂しい気持ちを感じるも、表情には出さず胸の内にしまう。
「ルルルンさんってば、これからこの街で商売を始めようって言うのに、このリアクションですよ、どう思いますシアさん」
「ま、まぁ、ルルさんはちょっと世情に疎いところもあって、それも魅力的といいますか、なんというか」
「シア、フォローになってないよ」
二人のやり取りにフェイが声を出して笑っている。
「ごめんなさい、お二人が仲がいいのを見て、つい」
「え、そんな、仲がいいとかじゃなくて、私が一方的に憧れているだけで」
そういって顔を赤らめながらルルルンを見つめるシアに、ルルルンの心は溶かされていた。
「シアは本当にかわいいな!」
「ええええっ!!あや、あやや」
「かわいいな!!」
100%本心のかわいいを連呼するルルルンに、シアは完全に手玉に取られる。傍から見たらバカなカップルである。
「ルルルンさんはシアさんが特別なんですね」
「そうですね、シアは恩人だし、すごく大切な相棒です」
「ルルさんっ!!!!そういうのダメだと思います!!!」
「なにが?」
手を緩めないルルルンの口撃にシアはもうフラフラである。
「いいですね、そういう関係」
フェイは少しだけ憂いのある表情を浮かべ、仲睦まじい二人の関係を羨んでいた。意図は見えなかったが、何か深い事情があるのだろうと、問いただすことこそする事は無いが、ルルルンは少しだけ察する事ができた。