策謀のマギリア②
設定変更による矛盾点修正のため、30話から67話までを順次再投稿しております!!
マギリア食堂と屯所の管理、二足の草鞋を始めて少し、ようやくその生活にも慣れてきたルルルンは、変わらない食堂での仕事をテキパキとこなしていた。
あの日以来、襲撃者は現れておらず、ルルルンも少し気を緩めていた、襲撃者が現れたら対応すればいい、気楽な心持で日常を過ごしている。
「店長!8番のオーダー!早く出ないですか?」
「もうちょいまてルルあと2分だ!」
「了解!」
混みあっているタイミングもあって、料理の提供スピードが遅れている。いたしかたなく8番テーブルの客にもう少し待つようルルルンが伝えに向かう。
「お客様、大変申し訳ありませんが、もう少々お待ちいただけますか?」
8番テーブルのお客に謝罪し、次のオーダー取りに向かおうとすると、すぐ隣の9番テーブルのお客が手を上げている。慌ただしい店内に似つかわしくない清楚な女性がルルルンを呼び止める。
「あの……」
9番テーブルの客は美しい女性であった、佇まいから上流階級の人間なのかと、ルルルンは勝手なイメージを膨らませていた。対応は丁寧にしたほうがいいな、そう判断してルルルンは丁寧に女性に頭を下げる。
「すいません、オーダーの方、少しだけ待ってもらえますか?」
「それは構いません」
「すいませんね」
「あの、ルルルンさん」
「はい」
ルルルンの手を掴み呼び止めると、女性はスッと近づき耳元で囁く。
「今日、仕事の後……少し会えませんか?」
「え?」
聞き間違いでなければ、ルルルンはこの女性に「仕事の後会いたい」と誘われたのだ。誘われたという表現は早計だが、男であれば間違いなく誰もが勘違いするであろう、色香のある声だった。
「え?……」
「ばかやろう!ルル!!!!さぼるな!!!!!」
「あ、はい!いや、じゃあ、ちょっとまっててもらって」
「待ってますので」
女性は微笑み、大慌てで仕事に戻るルルルンに手を振って見送った。
「な、なんだ?いったい?」
モヤモヤを抱えながら、ルルルンはしっかり定時まで仕事をこなす。おそらく初対面、騎士団関係者なのか、なんなのか?見当がつかない。食堂で働き出して、勘違いしたおっさんや兄さんに誘いを受ける事は多々あったが、女性からの誘いは初めての事である、しかも相当な美人。なんの誘いなのか、さっぱり予想がつかない。
「まったく思い当たるふしがない」
もしも、そういうイベントだったらどうしよう、とルルルンは妄想を巡らせるが、頭の中にライネスが現れて妄想を細切れにしていく。
「ライネスはちょっとおとなしくしてて」
頭の中のライネスを退場させ、ルルルンは退勤の支度を速やかにする。
店の外に出ると、妄想の相手本人が立っていた。
「お待たせしました」
「いえ、待っていませんから気にしないで下さい、お食事美味しかったです」
「いや、あれ作ってるのは店長ですから、お礼なら店長に」
「素敵な雰囲気のお店だから、通いたくなっちゃいますね」
「いや、騒がしいお店ですよ」
どこか余所余所しい世間話が交わされる、ルルルンは誘われた意味を聞くタイミングを探っていたが、その話題を切り出せずにいた。
会話がなんとなく途切れたタイミング。
「あの……」
女性が先に話を切り出した。
「今日こうやってルルルンさんを呼び出した理由なのですが……」
「(きた!)」
どんなイベントが来ても大丈夫なように、ルルルンは身構える、頭の中でライネスが睨みを利かせているが、構うものかと姿勢を整えた。
「ルルルンさん」
「はいっ!」
「起業するための土地と物件を探していると、お聞きしたのですが?」
「へ?」
予想していない唐突な話に、ルルルンはバカみたいな返事をしてしまう。女性の柔らかな口調に戸惑いながらも、ちゃんと返事をせねばと気持を切り替える。
「違いました?」
「え?いや、違う事もないんですけど」
「よかった!」
「あ、いや、でも、どうしてそんな話を」
「ミーリスさんでしたっけ?騎士団の方から相談を受けまして、食堂の美人のねーちゃんに物件を紹介してやってくれにゃ、って」
「ミーリスが?」
確かにミーリスにはそういった話はした、したけど、ルルルンの頭の中でヘラヘラした表情のミーリスが浮かぶ、あのミーリスがそんな気の利いた事をするなんて想像ができない。
「どうかしました?」
考えこんでいると心配そうに女性が声をかける。
「あ、いや、別に」
「ライネス様の口添えがあったと言えば、信用してもらえますか?」
「ライネスが?」
「はい」
ライネスはルルルンの事情をほぼ把握している数少ない人間、その名前が出てくる=信用度はグンと上昇する。眉唾な話ではあるが、聞くだけ聞いてみるかという気分でルルルンは女性の話を聞く事にする。
「具体的な話を聞かせてください」
「はい、でも今日はもう遅いですし、明日物件を見学しながらお話ししませんか?」
「明日?明日なら、はい、大丈夫です」
元々明日は物件探しをしようと考えていた所だったルルルンにとって、女性の提案は天啓であった。
「なんていうか、すごくありがたいです」
「じゃあ、明日、中央広場の噴水前でいいですか?」
「わかりました、お昼前がいいですか?」
「ついでにランチご一緒しませんか?私女子会っていうんですか?そういうのと無縁だったんで、ルルルンさんがよろしければ」
「ええ、いいですよ……あの」
そういえばまだ、女性の名前を聞いていないと、ルルルンはジェスチャーでそう伝えると、女性はそういえばと言ったリアクションで軽く会釈をする。
「自己紹介が遅れました、私オリオール商会の」
顔を上げると、深い紫の瞳がルルルンを真っすぐ捉える。
「フェイと申します、よろしくお願いしますルルルンさん」
フェイと名乗った女性はうっすらと妖艶な笑みを浮かべた。
もし面白い、続きが読みたいと思われました、是非評価とブックマークを!!
作者が泣いて喜びます。