策謀のマギリア①
「魔法を使うフードを被った不審者?」
ライネスとの稽古の最中、ルルルンが今朝遭遇した怪しい存在について、ライネスに相談する。
「ああ、耐性がない人なら殺せるレベルの魔法だった」
「魔女絡みだとは思うが、どうしてケイスケが狙われる?」
大きく剣を振りかざし、ルルルンに向け振り下ろしながらライネスが質問を返す。
「わかんない、俺が魔法使いだって分かってる感じだったけど」
「認識阻害は完璧と言ってただろ?」
「そのはずなんだけど……あ、その使い方は良くないよ、もっと剣を自分の腕の延長だってイメージして」
ライネスのラザリオンの使い方にダメ出ししながら、会話を続ける。
「そもそも、魔女会の他に、なんていうか物騒なやつらって存在するの?」
「そうだな……少し休憩でもいいか?」
そう言うと、ライネスはラザリオンを解除してルルルンの質問に答える。
「聖帝騎士団については、屯所の管理で色々知見が広がっているな?」
「まあ、一般知識程度だけど」
「この大陸は主に5つの地域に分かれている」
「それも認識はしてる」
「【カノン】【ロクジ】【ゼイホン】【ウルザ】【オーゾ】それぞれを、それぞれの国王と呼ばれる統治者が支配、管理している」
「支配だと聞こえが悪いけど、5つの国家があるってことね?」
「私たち聖帝騎士団はその5つの国にそれぞれ教会という拠点を持って活動している」
「それも知ってる」
「いちいち話の腰を折るな馬鹿者」
「ごめん」
怒られてしょげているルルルンに、ライネスは丁寧に説明を続ける。
「我々聖帝騎士団は、国に雇われている私設部隊だ、大きな枠組みで存在する聖帝騎士団を、それぞれの地域に派遣している形だ」
「そうなの?てっきり、聖帝騎士団が国より権力もってて、聖帝様が世界の頂点かと思ってた…けど」
「……」
ライネスが少しだけ目線を落とす。
「どうかした?」
「その印象が、余計な感情を生み出している」
「その印象って、国より聖帝騎士団が上じゃない?って話?」
「そうだ」
この世界は5つの国で出来ている、【カノン】【ロクジ】【ゼイホン】【ウルザ】【オーゾ】その頂点はそれぞれの国王だ。しかし、世間の見方は違う、実質世界を守っているのは聖帝騎士団で、その頂点の聖帝がこの世界を統治していると思われている。
「それを良く思わない人達もいる……そういう話だ」
「魔女の脅威から世界を守ってるのは、事実、聖帝騎士団だろ?」
「しかし魔女が絡む大きな被害は、10年前を最後に途絶えている、魔女を信仰する魔女会や、魔獣被害、魔導器を使ったトラブルは後を絶たないが、魔女は現れていない、そうなると魔女討伐を目的とした我々はそれぞれの国からどのような目で見られると思う?」
「わかんない」
そのあたりの情報にルルルンは激しく疎かった。
「本当に聖帝騎士団は必要なのか?」
「あー……そういうこと」
「魔女討伐を掲げる聖帝騎士団の存在意義に、魔女の直接的な被害が無いという事であれば、異を唱える国の上層部も増えてきているのが事実だ、一国以上の兵力と力を持つ組織がいつか反旗を翻し、世界を支配すると……」
「聖帝騎士団は魔獣や魔女会とも対峙してるだろ?」
「そうだ、魔女会の使う魔動機に対して、有効手段を持っているのは聖帝騎士団だけだ」
「めっちゃ役にたってるじゃないか!」
「魔獣や魔女会は魔女に繋がっていると考えているからな、放置はできない」
「だったら、ただの妬みじゃないか」
「そんな簡単な言葉で片づけていい問題でもない……それぞれの国にいる戦士団や騎士団の立場を奪っている……つもりは無いんだがな」
実力が抜きんでた聖帝騎士団を妬む者、組織として煙たがる者、どす黒い思惑が渦巻いている。ルルルンはかつての自分と重ねて考える。
「突出した力は、憎しみを生む、どの世界も同じなんだな……」
「経験したような口ぶりだな」
「したよー、めちゃめちゃしたから、そのせいで俺殺されたから、はははー」
「……すまない、そうだったな」
「いいのいいの、今はもう笑い話だよ」
「笑って話す内容ではないだろ」
自虐めいた笑いでルルルンは答えた。ノーマとマギアのいざこざは身に染みて経験している、妬みや恨みの感情はどうやっても起こる、起こってしまう、その思いを少しでも理解し合おうとかつて努力し「失敗」したのだから。
「難しいよね、理解してもらうって」
「まぁ、どの聖帝騎士団も素行が良い訳ではないからな、敵も多い」
「そうなんだ、ライネスはそこらへん厳しいでしょ?」
「当たり前だ!!騎士たる者、礼節を重んじるのは当然の義務だろ!」
「その言い方は、重んじてない奴もいるんだ」
「……困ったものでな、何人かめんどくさい奴がいる」
ライネスは頭を抱えて、ルルルンがまだ見ぬ聖帝騎士団の話をするが、今は関係の無い話、ライネスは話題を本題に戻す。
「聖帝様が世界を手中にしようとしている等、見当違いの陰謀論だが、傍から見れば突然力をつけ世界を守ると押しかけ警護をしている集団だ、反感も買いやすい」
「まぁ確かにそうだけど、事実成果を上げてるわけだろ?なんも言えないでしょ?」
「だから聖帝様失脚を狙う輩は後を絶たない」
「あー、なるほどね」
聖帝は権力や国同士のいざこざのヘイトを、一身に受けている相当なマゾという事を理解したルルルンは、それと今回の話が繋がらないかを思案するが、今回のそれは少し違うような気がする。
「その反教会が俺を狙う理由が弱いしなぁ」
「お前は私と関係があるから、かもしれん」
「なにそれ?」
「き、騎士団内で、そ、そ、お前と私が、特別だと、噂がな」
「それ今日もミーリスにからかわれたよ!」
どうやら騎士団ではルルルンとライネスの関係は、有名な事らしい。
「てか、騎士団でそんな感じなら、俺めちゃくちゃ有名人じゃん???」
「そうかもしれん」
「ええええええ」
「い、嫌か?嫌なの……か?」
「え?いや?うーん、別にいやじゃないけど」
「嫌じゃないのか!」
「目立つのは困るなぁって」
「そうか、困るか」
ライネスがルルルンの一言一言に反応する。
「まぁ、顔が売れるのは都合がいいのかもしれないから、カインパイセンみたいにコネが作りやすいしね」
「そ、そうだな」
「聞かれたら、はい、気に入られてます!って答えるよ」
「そうするといい!」
笑顔で答えるルルルンに、ライネスは顔向けすることが出来なかった。
「明日また色々調べてみるよ」
「微力かもしれんが、ケイスケを狙った者が何者なのか、こちらでも調べてみる」
「助かるよ」
「……礼には及ばん、街の平和のためだ」
「流石、聖帝騎士団!」
「訓練を続ける!!!!!」
ルルルンに背を向けたままそう言うと、ライネスはラザリオンを発動する。
「今日は応用その2までやろうか」
「手加減はするなよ!!」
激しい訓練はしばらく続き、ゆっくりと『いつもの日常』が終わりを告げようとしていた……。