お金がない
30話以降のストーリーを大幅に変更するためいったん67話までの公開を停止し、修正完了次第随時更新いたします。書き直しばかりで申し訳ありません。
「カネがない……」
ルルルン達の暮らす街、聖都マギリアの小洒落たカフェの机に突っ伏してルルルンは嘆く。
「そんな事を言うためにわざわざ私を呼び出したのか?」
あきれ顔なのは聖帝騎士団第3位のカインであった。何故かルルルンに呼び出され相席している。ルルルンにとってはマギリア食堂への職業斡旋の件以来、何かと相談に乗ってもらっている頼れる先輩(ルルルンの先輩ではないが)である。
「違いますよ」
「じゃあなんだ?私は暇じゃないんだぞ!特に用もないのにいつも呼び出して、仮にも私は聖帝騎士団の団長の一人だぞ!」
「昼休みの、お茶くらい付き合ってよカインぱいせん」
「その妙な呼び方は止めろと言っているだろ!」
「愛称というかなんというか、カインって先輩って感じだから」
「よくわからん!」
ニコニコと話すルルルンにペースを乱されるカインは否定しきれず、うやむやにされたままいつもの様に流される。
「目的はなんなんだ?」
「お茶ですっ☆」
「帰る!」
カインは立ち上がり帰ろうとする。
「こんな美少女とカフェでデートできるんだから、いいでしょ?」
「は?」
「この幸せ者!周りから注目されてるの気が付いてるでしょ?」
「私にはライネス様と言う心に決めた方がいる!貴様のような顔が良いだけの浮浪者と一緒にいてなにが良いか!」
「真顔で言われると傷つくなぁ」
「ああ、すまない、つい本音が」
傷ついたという一言に真面目に謝るカインは、渋々席に座る。
「今日は非番でしょ?ライネスから聞いてるから、付き合ってよ」
「ライネス様から聞いた?」
「うん」
「それは、ライネス様が私の非番をチェックしているという事か?」
「俺が調べてって頼んだから」
「ライネス様、言ってもらえば休みを合わせることだってできるのに!!」
「あー、うん、そうだね」
妄想に浸るカインを無視して、ルルルンは本題を話し出す。
「で、本題」
「本題?」
「カネがない」
「知らん」
間髪入れずにカインは即答する。
「知らんって言うと思った!」
「本題は終ったな、帰る」
「待ってぇぇぇぇ」
「なんだ!」
「すぐ帰るって言うの良くないですよ!すっごい良くない!」
すぐに帰ろうとするカインの腕にしがみつき引き留める。
「馬鹿!!腕に、む、む、むね、むねが当たっている!!」
「当ててるんです」
「わざと!?わざとなのか?」
「金が欲しいんです」
「それは私に出せと言う事か?胸を当てて私に金を出せと!!」
「え?違いますけど……何言ってんですパイセン」
「急に冷静になるな!」
「つまりですねパイセン、私お金が欲しいんです、バイトだけでは全然足りなくて、このままではただのかわいい看板娘としてマギリア食堂での地位を不動のものにするだけで、少しも起業の夢に近づけないんですよ」
「それでは不服なのか?」
「不服ですよ!」
「バイトだけでは足りないのか?マギリア食堂の給料は歩合制で、お前はそこそこ貰ってるだろ?」
「はい、けっこうもらってます」
マギリア食堂に不満は無い、給料も働きに応じて上乗せされている、女子一人が暮らしていくにはなんの不満もない贅沢ができる額面である。しかし、ルルルンの目標とする金額には足りていない。起業するためにはもっと金が必要なのである。
「首都の立地のいい場所は、家賃高いんです」
「偉いな自分で調べたのか?」
「はい、色んな人に協力してもらって理想の場所さがしました」
「選り好みしなければ何とかなるだろ?」
「そこは妥協したくないし、運転資金も全然足りない、あ、これ、夢実現のためのプラン表です」
ルルルンの提示したのは、起業とそのための運転資金などを試算した大雑把なプラン表である、かつて起業した時はほとんどの計画を委託していたため、ルルルン自体にノウハウは少なく、そのプランは実に杜撰で夢物語のようなものであった。
何をするにも金が足らない、と大きく書かれた文字が全てを物語っていた。当時は本当に多くの支援があったからこそ、会社を立ち上げることができたのだと、改めてこのような状況に陥り、ルルルンは再確認したのであった。
「これが俺の現在の時給、それを計算すると年間これだけ……」
「なるほど」
「分かります?」
「お前の夢が叶わないという事が分かった」
「だから!本題ですよ!!」
バンと机を両手で叩き、ルルルンは熱弁をふるう。
「本題?さっきのが本題じゃなかったのか?」
「本題の本題!!」
カインははて?といった表情で話を聞く。
「お金がない!」
「そうだな」
「で、カインぱいせんに相談」
「金は貸さんぞ」
「早いっ!!」
食い気味に言うカインの手を取りルルルンは懇願する。
「稼げる仕事を紹介して下さいお願いします!!何でもしますから!!」
切実な頼みであった。そんなルルルンにカインは深いため息で返事をする。
「はぁ……お前はプライドとかそう言ったものはないのか?」
「ないです、お金欲しいです、夢のためなら何でもします」
ルルルンは正直であった。
「マギリア食堂はどうするんだ?やめるのか?」
「まかないが美味しいのでやめません、給料もいいし」
「働きながら稼げる仕事ってことか?」
「できれば夜の仕事を希望します」
「夜の仕事をするならライネス様と縁を切れ!」
「いかがわしくないのでお願いします!」
「お前なぁ……」
「カインぱいせんに紹介してもらったマギリア食堂は、店長が怖い事以外はほんとにいい職場なんです、感謝してます!本当にいいところを紹介してくれて!」
「そうか、それは良かった」
「だから、カインぱいせんの紹介がいいんです!」
なるほどと、珍しく適当な事を言わないルルルンに頷くカインだった。
「一つだけいいか?」
「はい」
「何故私なんだ?ライネス様だって相談に乗ってくれるだろう?」
切実な頼みに対し、解せない点をカインが正直に言う。いくら感謝しているとは言え、自分に相談する必要性をどうしても感じられないカインは何故自分なのかとルルルンに問う。
「さっきも言ったでしょ?先輩が一番頼れるからですよ」
曇りなきその一言は、聖帝騎士団の誇りを重んじる騎士カインにとって胸に響く一言であった。その言葉は、カインの口元を少しだけ上向かせた。
「ふっ、かわいいやつめ!」
「カインぱいせんがかわいいとか言うとキモイですね」
「帰る」
こんなやりとりを何度も繰り返して、苦い顔をしつつも、ルルルンの相談に乗ってあげるカインなのであった。