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労働しようにゃ

「いらっしゃいませー!!」


 賑やかな声がそこら中で聞こえる、店内は大いに繁盛しており、引っ切り無しに料理が運ばれている。「マギリア食堂」は聖都マギリアの中心部で長年愛されている大衆食堂であり、酒場でもある。

 忙しなく働く店員の中に、青い美しい髪の毛を靡かせる美しい少女がいた。


「いらっしゃいませー」


 その少女は間違いなくルルルンであった。


 条件のいい場所に出店するための、運転資金を集めるため、中心部で賑わう食堂で接客をしつつ人脈を広げる、これがカインの提案した起業への近道。

 お金も稼いで、衣食住にも困らない、なおかつ情報とコネも手に入る、確かに理想的だ、理想的ではある……その代償は尋常ではない労働力であった。


 少しでも軽減するため、こっそりと魔法を使おうともしたが、迂闊な事をすればせっかくの収入源が無くなってしまう可能性がある、この職場においてルルルンは魔法の使用を制限して働いているのである。


 撫で声で媚々の接客、全力で働くその様は、マギリア食堂のエースと呼んでもいいだろう。働き出して数日であるにもかかわらず、ルルルンは完全に食堂を支配していた。

 次々と注文を聞き、魔法無しでもハヤテのごとく料理を各テーブルへ運ぶ。元々のルルルンの身体のスペックが高いのか、ヨコイケイスケだった時より身体能力の向上を感じているものの、要求される動きはそのスペック以上のものであった。


 そんな必死に働くルルルンを熱いまなざしで見つめる男が一人。


「ああ、ルルルンちゃん?彼女はいいね、何がいいって?そんなの一つしかないでしょ、笑顔と胸ですよ、ええ、私30年ここの常連をしている独身ですが、30年に一度の逸材ですよ、もう一度言いましょうか?30年に一度の逸材ですよ、あの笑顔と胸は……」


 マギリア食堂に30年通い続ける常連にここまで言わす位には、ルルルンの働きぶりは目を見張るものがあった。


「おい!ルル!!ランチプレート二つ4番テーブル持ってけ!終わったら次8番にランチ3つだ!!ちんたらすんな!」


 厨房から怒号が飛ぶ、マギリア食堂の店主バルカンは容赦のない鬼店主である。


 いくらお客から、ちやほやされていようが関係ない、バルカンにとってはルルルンは店員である以上特別ではないのだ。呼びにくいという理由からルルルンはルルと短く名前を呼ばれている。厨房からは何度もルル!!ルル!!とルルルンを呼ぶ声がする。

 しかし、厳つい見た目とは裏腹に、バルカンの料理の腕は繊細で確か、ルルルンもそれを認めているが故、このパワハラめいた怒号にも耐える事ができる。


「6番テーブルの料理早く出してください!遅いですよ!」

「なんだとこら!」

「文句あるなら早く作ってもらえますかぁ?」


 バルカンの威圧に負けじとルルルンも突っかかる、この食堂はまさに戦場である。

 お昼時を乗り越え、少しだけ落ち着いたタイミングでマギリア食堂一番の上客が来店する。


「いらっしゃいませ♪マギリア食堂へようこそ♪」

「元気そうでなによりだ」


 聖帝騎士団第一位ライネス・フォン・アグリアネス、と第一騎士団の面々だ。


「なんだライネスか」

「なんだとはなんだ、客だぞ私は、さっきの声でちゃんと接客しろ」


 上機嫌なライネスが不機嫌なルルルンへからかい半分で猫撫で声を要求する。


「笑いに来たの?」

「何を言う、カインに聞いてな、働きっぷりを見に来たぞ」

「人脈作りに良いって、カイン先輩に紹介されたけど、人脈作る暇もないっていうか、忙殺されてるよ」

「事を急げば仕損じる、慌てる事はない、お前なら出来るさ、現にお前はこの店で一番の働きっぷりだ、客からの評判も高くて私の耳にも届くほどだ、誇らしいぞ」

「そうなの!?」


 本当にイケメンなライネスが眩しすぎて、ルルルンは泣けてくる。


「お食事でしたら、皆様お席でお待ちください」


 大声で厨房から顔を出してバルカンがライネスに声掛けする。


「バルカン殿、第一騎士団、いつものを頼む」

「おお!まかせなライネス様!腹いっぱいくわしてやるからな!ルル!失礼のないよう接客しろよ!!」

「はいはい」

「ルルと呼ばれているのか?」

「店長だけだよ、ルルルンが長いから呼びにくいって!」


 名前の呼ばれ方だけで正確に判断するのは早計かもしれないが、ライネスはルルルンがマギリア食堂に馴染んでいる事に安心する。


「フフ……」

「どうかした?」

「いや、何も」

「ライネスが笑ってるの絶対意味あるでしょ?」

「そうだな、お前がこの世界に馴染んでいるようで安心してる」

「俺、馴染んでるのかねぇ」

「馴染んでいるぞ」

「そうなのかなぁ」

「自信を持て」


 そんな些細なやり取りが続く中、ルルルンはライネスの脇にいる少し場違いな少女に気がついた。


「にゃにゃ、あなたがルルルン?」


 ライネスの隣にいる、明るい表情の少女がルルルンに笑顔で話しかける。


「にゃにゃ?」

「ルルルンだけど、君はだれ?」


 そう少女に問いかけると、ライネスが代わりに答える。


「そういえばケイスケは初対面だったな、彼女は、私たち第一騎士団の副団長だ」

「副団長?」

「第一騎士団副長のミーリス・ムジカだにゃ、よろしくぅ」


 ミーリスは満面の笑みで自己紹介した。



数ある作品の中から、この作品を選び読んでいただきありがとうございます。


面白い!続きが読んでみたいと思っていただけたなら幸せでございます。




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