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異世界で起業する方法

 というわけで。


「よろしくお願いしますカイン先輩」


 ライネスの紹介で聖帝騎士団第三位のカインが協力してくれることになった。

 まあ確かに知っている奴なのだが、ルルルンは解せない表情でカインと対峙していた。


「なんだその表情は」

「深い意味はありません、カインさんこそ明らかにやる気の無い態度、やめてもらっていいですか?」


 ルルルンに対してカインは深いため息をつき、目に生気を戻す。乗り気ではないのは明らかに見て取れる。

 二人はマギリア食堂の騒がしさの中、テーブルに向かい合って座る。傍から見れば美男美女のナイスカップルに見えるだろうが、実際はそれとは程遠い殺伐とした空気である。


「何故、私が……こんな小間使いを、しかもよりによって、お前のような、お前のような小娘に……」

「ほんと申し訳ありません、カイン先輩」

「私はお前の先輩じゃない!」

「すいません先輩」


 経緯はこうだ、相談できる相手=ライネス→「詳しい奴を紹介することはできるぞ」→紹介して→「わかった紹介しよう」→カイン


「雑な経緯だな」

「でも話を聞いてくれるカイン先輩素敵」

「ライネス様の頼みだ、断るわけにはいかんだろっ!!」


 上司の命令は断れない、きっとカインは真面目なサラリーマンなんだろう、ウンウン分かるよぉその気持ち、とルルルンはカインに同情めいた思いを向ける。


「で?相談があるんだろ?早く話せ」

「仕事を始めたいんですけど、そもそもこの土地のルールを知らないので、御指南お願いします」

「ルール?」

「事業計画書とかその他もろもろの申請とか、信用ないから起業資金も借りられないし、とりあえず個人事業で始めようとは思ってますけど」

「新しい仕事をしたいなら、商工組合に行って、やりますと言えばいい」

「え?それだけ?」

「それだけだ」


 ルルルンは呆気にとられる、細かい手続きや、申請、その他もろもろの話は一切出てこない。

 「やりますと言えばいい」ルール無用すぎて言葉もでない。


「仕事をする事は、誰にでも与えられる権利。それをする、しないは誰にも阻害されてはならない、ただ管理は商工組合が行う事になってる」

「へー……そ、そうなんですねぇ」

「申請が必要かと言ったな?正確に言えば、組合への届け出だけは必要だが、基本的にはそれだけだ」

「納税関係は?」

「国民に課せられる税は、どんな身分でも一つの土地に定住している者へ、一年に1度一律同じとなっている、魔女の脅威がある以上、国民に負担を課すことは愚策、カノン王はそう考えている」

「一年以内に住む土地を変えたら納税しなくてもいいって事?」

「そういう事になるな」

「なるほど、すごいルールだな」


 聞けば聞くほど元居た世界とはまるで違う、今いる【カノン】という国は一言で言えば「自由」

 国民への負担と言えるものはほとんどなく、誰もが自由に好きな事を始められる、国への手続きや申請は、この世界では商工組合と呼ばれる場所で「やります」といえば済むらしい。


「なんて気楽な起業ルール!!!」


 簡単な事にはきっと裏がある、ルルルンはそのあまりにお手軽なルールに、警戒を含んだ探りを入れる。


「実は仕事始めるのに手付金とか取られるんじゃないんですかぁ?」

「貴様、聖帝騎士団の私が嘘をついているとでも言うのか?」

「は、いいえ」


 はい、と即答しかけたルルルンは、慌てて作り笑顔で誤魔化した。


「気味の悪い顔をするな、で、お前はどんな仕事をするつもりなんだ?」

「えーっと、まだ具体的には決めてなくて……」

「はぁ、なんだそれは、そんな曖昧な気持ちで仕事を始めようとしているのか?」

「そういうわけじゃなくて、その……ただ困っている人を助ける仕事をしたくて、事業内容はあるけど、それをどういう形で仕事にするかで悩んでて」


 魔法を使えることを隠した上での、魔法を使った人助け、シンプルだけど取っ掛かりがぼやけている。


「人助けか……そうだな、この町限定の話で言えば『冒険者ギルド』を立ち上げるのがわかりやすいかもしれないな」

「ぼぼぼぼ冒険者ギギギ、ギルドぉ!?ちょっとテンプレすぎませんかね?」

「嫌なのか?」

「嫌というかなんと言うか」


 響きにちょっと抵抗がありますとは言えないルルルンは、カインから目を背ける。


「幸いマギリアには冒険者ギルドが存在していない、冒険者ギルドを作れば依頼と冒険者が自然と集まる、お前の求める人助けにも繋がるだろう」


 実に合理的で反論もないが、一人ではとても運営できないのと、なにより安直すぎて異世界転生を満喫してしまいそうである。


「ギルドな展開はちょっとなぁ……」

「まぁ、そうだな、土地勘の無いお前がいきなりそんな大きな組織を立ち上げるのは難しいだろうしな」

「そうです、難しいです!」


 カインのもっともな意見に相乗りする。冒険者ギルドは自分には荷が重い。何より、他人に人助けを斡旋するという業務形態が、ルルルンの思い描く理想とは少しだけ外れていた。


「だったら、便利屋とか、何でも屋とか、呼び名は統一されていないが『人助け』が仕事と呼べる業種はそんな感じだな」

「それ!それにしましょう!」

「ええ!?意外と食いついたな……でも、やっぱりギルドのほうがいいと思うぞ、本当に」

「ギルドは……その、考えておきます!!!」


 ギルド以外の選択肢、とりあえずであるが、ルルルンはカインの提案した「何でも屋」を選ぶことにする。


「何でも屋ってのは、この世界じゃなくて、この町で仕事として成立するんですか?」

「優秀な何でも屋には、本当にいろいろな仕事が来ると聞く、受けられる仕事の種類は多ければ多いほど良い、ギルドと違って以来を他の冒険者へ委託する訳じゃないからな、いい仕事をすれば黙っていても評判は広まっていく」

「なるほど」

「自分の力がそのまま業績に直結する、分かりやすい仕事だ」

「できるなら町の賑わってる場所に店を出したいんだけど、土地とかはどうやって買うんですか?」

「一等地は地主に相談して売ってもらう……だが、お前そんな資金ないだろ?」

「なんでわかるんです?カイン先輩はエスパーかなんかですか?」

「いや、そりゃなんとなく分かるよ」

「……分かります?」

「分かるね」


 明らかな野宿生活、綺麗な身なりを魔法で整えているが、資金のある人間の生活ではない、分かって当然である。


「当面の目標は資金集めだな」

「そういうしんどい所はどの世界も同じなんですね」

「どういう意味だ」

「仕事を始めるのは大変ですね、ってことです」


 お金を稼ぐのは簡単ではない、


「簡単な仕事なんか存在しない、もし仕事を簡単だと思っているなら、それはその者の向上心が停滞しているからだ。簡単を困難にできる人間は強い、少なくとも私はそういう人間と仕事をしたい」

「なるほど、ライネス様の事ですね」

「そうだ、ライネス様はまさに理想の騎士、私の憧れだ、迷いなき剣筋、美しい佇まい、全てが完璧で」

「なるほど」

「っておい!」

「わかりやすいですねカイン先輩」

「だまれ、馬鹿者!」


 言葉遣いがどことなくライネスに似ているのは、そういう事なんだと理解したルルルンは、照れているカインを見て、なんだか憎めない奴だなと、思わずニヤニヤしてしまう。


「なにを笑っている」

「別に」

「貴様も見てくれはいいのに、なんなんだ!所作が美しくない!もっとライネス様を見習え、ライネス様の、あ、愛人なんだろ?ならば尚更、あの方の隣に立って恥ずかしくないようにしろぉ!」

「あい?」

「愛人……」

「あーあれは嘘です」

「え?」


 そういえばそういう事になっていたなぁと、思い出したが、正直めんどくさいのでその設定は無かったことにする。物事は柔軟に対応する、ルルルンのモットーである。


「でもキスしてただろ!!」

「あれは、アクシデントです、ライネスがテンパって暴走したというか、とにかくあれはカイン先輩にお引き取り願いたいためにやった演出です」

「演技だったというのか?」

「そういう事になります」


 カインの眼の色が変わる


「貴様……」


 まずい、真面目なカインだ、嘘について咎められるかもしれない、ルルルンは身構えるも……


「そういう事は早く言え!!!」


 カインの眼はキラキラと輝いていた、それはまさに愛の輝き。


「では、お前はライネス様の愛人ではないと?」

「ないです、あれはなんか面倒くさそうな展開を終わらせるためについた嘘、嘘ついてごめんなさい、許して」

「許す!!!」

「え?あ、はい」


 怒られるかと思った告白は、逆にカインを異常なほど喜ばせていた。

 分かりやすい、そんなにライネスが好きなのか……やはり憎めない、馬鹿正直な人間が好きなルルルンは、恥かしげもなく無邪気にガッツポーズをしているカインの事をかなり気に入っていた。


「すまん、取り乱した」

「もっと乱していいよ」

「やかましい」

「で、資金集めなんだけど」


 誤解も解けて、話を本題に戻すと、先ほどまでと打って変わってカインはスラスラと笑顔でアドバイスを話だす。


「そうだな、町の事情や土地勘に疎いなら、情報の集まる場所でしばらく働いてみてはどうだ?」

「ギルドで冒険者はやだよ、パーティーから追放されたくないし」

「違う、この町で情報が集まる場所と言えば……」


 カインはにやりと微笑んだ。


「ここだ」

「ここ?」


 カインが机をトントンと指さす。

 情報が集まる場所、それは、今二人がいる「マギリア食堂」だった。


「え?」


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