東の魔女
東の大地、魔女領内。強力な認識阻害の結界内に大きな塔が聳え立つ。
塔は聖帝騎士団の力を持ってしても発見する事は出来ず、堂々とこの世界に邪悪を生み続けている。
【東の魔女】
厄災を招くとされる四人の魔女の一人。その魔女の住む拠点と呼べる場所がこの塔である。この世界における魔獣と眷属をと呼ばれる混乱を生み続ける、諸悪の根源とも呼べるこの場所は、誰にも見つかることなく、居を構える。塔の魔女の魔法で生み出される眷属や魔獣たちの目的は『場を乱す』魔女は平穏を望まない、常に混沌を好み、喜楽をなによりも求めている。
そんな魔女の居城である塔の最上階、その一室に、山のようなぬいぐるみに身体をうずめて、だらだらしている少女がいた。
「つまらーん、つまらーん、つまらーんよー!」
外見から推測するに、おそらく15歳くらいの少女は、じたばたとぬいぐるみの山の上で「つまらない」と連呼する。
「戦争とか起きんかなぁ、いっそのこと他の魔女に喧嘩でも売ろうかなぁ、気分転換に世界征服したろかなぁ、最近は魔獣を生み出してもすぐ倒されて全然混乱起きんし、やっぱり聖帝騎士団つぶそかなぁ……あーあーあー、つまらん」
その一言一言は物騒極まっているが、どれも空虚で今一つ心がこもっていなかった。
「魔女様」
ぬいぐるみの山に埋もれている少女は、魔女様と呼ばれピクリと反応する。
「なんやの?」
広い魔女の部屋の中央、フードを深くかぶった女が少女に跪き、頭を下げ、報告を始める。
そう、信じられないが、この少女こそ、この世界の四人の魔女が一人【塔の魔女】である。
「今最高に気分良くないから、おもんない事やったらウチ『怒るよ』」
言葉の字面は冗談めいているが、表情は笑っていなかった。
「魔女会に預けていた旧式の魔人機が一体、消滅しました」
「消滅……?」
ピクリと表情が動く。興味を持ったのか、魔女は身体を起こし、フードを被った従者の方を向く。
「ほほう、面白いやん、また聖帝騎士団?あいつらまあまあ面白いでな、そろそろ全面戦争とかやっちゃう?やっちゃう?」
「メンドクサイので遠慮願います」
「フェイツちゃんはノリが悪いねぇ」
表情一つ変えず、フェイツと呼ばれた従者は話を続ける。
「今回魔人機を消滅させたのは聖帝騎士団ではありません」
「……根拠は?」
「今まで聖帝騎士団に破壊された魔人機はあくまでも「破壊」されていました。今回は「消滅」です、おそらく聖帝騎士団ではないかと」
「存在を消滅させられたって事?」
「はい」
魔女の表情が変わる。ぬいぐるみの山から飛び降り、フェイツの顔を覗き込むようにしてニヤニヤしながら口を開く。
「なんやそれぇ、あいつら騎士団の他に魔女に逆らうおバカちゃんがおるってことなん?」
「わかりません、しかし、得体の知れない状況……調べる必要はあるかと」
「ふーん、ええやん、興味深いやんね」
「実際に戦闘をした魔女会の者を使って調査してきます」
「フェイツちゃんにまかせるね」
「かしこまりました」
「あ、そうそう、これ」
魔女はぬいぐるみの中から、黒い人形を取り出すとフェイツに手渡す。
「これ新型の魔人機ね、テストも兼ねて、それ使ってリベンジしてきな」
「リベンジという事は、対象を殺してしまっても構わないという事ですか?」
「うーん、まあそれで死ぬなら別にええわ、ウチは遊び相手が欲しいだけやもん」
「分かりました」
軽く頭を下げたフェイツは、転移魔法でその場から消える。
「ええやん、ええやん、誰か知らんけど、うちの遊び相手になるんなら、それなりの覚悟しとかなあかんよ、うふーふ、うふーふ!」
一人残った魔女は楽しそうに笑い出す、新しいおもちゃをみつけた子供のように。
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