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嘘と嫉妬と赤面と

 ライネスは男の声を聴いて、ハァ……と溜息をつきながらも、威厳を保った声でドアの先に立つ男たちに言葉をかける。


「入れ」


 ライネスがそう言うと、ドアが開きライネスと同じ鎧をまとった騎士と思われる男が数人部屋の中に入ってくる。


「知り合い?」

「聖帝騎士団だ……」


 小声でルルルンとライネスはやり取りをする、明らかにライネスと同業者の男達はやはり聖帝騎士団であった。


「ライネス様、ご無事でなによりです」


 赤い鎧の男がそう言うと、騎士たちはライネスに膝を立て頭を下げる。


「それはどういう意味だ、カイン」


 カインと呼ばれた赤い鎧の騎士がライネスの問に答える。


「はい、ライネス様が魔女討伐のため出陣されたと、教会から報告がありましたので、援軍に馳せ参じた次第であります」

「第三騎士団が揃いも揃って……それは私の力を疑っての援軍か?」

「いえ、決してそのような邪推な考えではございません、しかし相手が魔女との報告、万が一があるかもしれません、そうなってしまってからでは遅いと私の独断での判断です」

「お前は心配性が過ぎるぞカイン」


 立場をわきまえたライネスは別人のようで、仕事モードだとそうなるよねぇ、わかるわかる、などとルルルンは呑気に聖帝騎士団同士のやり取りを眺めていた。


「しかしながら、街の者がライネス様が魔女に捕らえられ『敗北した』と、申しておりまして」

「……」


 あーなるほどね、とルルルンは納得する、確かにあの状況ではライネスが魔女に敗北したと思われてもしょうがない。


「本当に敗北したのかを、確かめに来たということか?」

「その真意を確かめたいという好奇心が、無いと言えば嘘になります」

「だったらよく見ろ、私は無傷だ、この姿を見てなお敗北したと思うか?」

「敗北にも様々な意味がございます故」

「どういう意味だ?」


 カインと呼ばれた騎士が、横目でルルルンを見る。

 お前が魔女か?とその顔に書いてある。

 騎士たちの殺気はどんどんと高まり今にも爆発しそうであった。


 ライネスはこの場の空気を察し、なんとか収めるよう話始める。


「いいかカイン、そもそもの話、この街に魔女は『居なかった』」

「居なかった?それはどういう事でしょうか?」

「言葉の通りだが?理解できないか?『居なかったんだ』」


 明らかな嘘、隠しきれない表情、ライネスは圧倒的に嘘をつくのが下手であった。カインはその言葉に動じる様子もなく。


「それでは、街の者がライネス様が敗北したと、嘘をついたという事ですか?」

「それは……だな、その……」


 嘘ではないが、ライネスがうまく言葉を選べず迷っている。苦手分野なのが目に見えて分かる、このまま話していればライネスが嘘をついている事がすぐにバレてしまう。

 いやらしい質問をするカインに、ほんの少しムカついたルルルンは、ライネスに助け船を出す。


「違うんです、ライネス様は逃げ遅れた私を庇って、機動魔導きぃ……魔人機に吹っ飛ばされて謎の魔法で拘束されたんです、その様子を見ていた町の人が多分勘違いしたんですよぉ、あ、でもちゃんと魔人機はライネス様が魔法を打ち消してから、ちゃんと倒してくれましたよぉ」


 突如あざとい声で話し出した部外者に、カインが疑心の目を向ける。


「お前に話は聞いていない」

「ライネス様はそのあたり説明しにくいかなぁって思って」

「貴様何者だ?」

「私はただの可愛い少女で、ルルルンって言います!ライネス様のファンです!よろしくお願いします!」


 嘘くさいテンションにライネスがドン引きしているが、ルルルンなりにライネスを庇おうとしていることは伝わったようで


「そうだ、そうだ、思いのほか、魔人機がつよくてなぁ、あははは、鍛錬不足だ!反省!反省!」


 ライネスも不自然な合わせで、ルルルンに同調するが、ちょっとびっくりするくらいの汗をかいている。多分もう喋らない方がいい。


「魔人機出現の報告は既知の事実、そこに関しては認識しております。しかし、その魔人機は突然消滅したと聞いております、どういう事なのでしょうか?」

「それは……」

「あれだけの質量を持った魔人機が、痕跡もなく消えてなくなる、そんなことがあるのでしょうか?我々聖帝騎士の中でも、そのような技を持つ者はいない……ライネス様はその場に居たのですから、見ている筈ですよね、説明して頂いてもよろしいでしょうか?」

「それ、それは」


 嘘のつけないライネスがめちゃくちゃ汗をかきながら、追い詰められている。赤い騎士がそこまでライネスを追求する理由が分からないが、ルルルンがまた口を挟む。


「魔女の新しい魔法なんじゃないですか?ライネス様の強さにびっくりして、魔法陣を展開したら、突然消えて!!びっくりしました!ね!ライネス様!!」

「いや、消したのはおま」

「ね!!!ライネス様!!!!」

「ああ!そうだ!アレハマジョカイタチノシンマホウニチガイナイ、キットソウダ……」


 ダメだ、これ以上は厳しい、さらに汗だくのライネスを横目に、ルルルンはこの話題を収めるようカインに話かける。


「ところでカイン様、この街を魔女会から守ってくれたライネス様は当然、褒められるべきなんですよね!」

「ああ、当然だ、しかしライネス様には、正しい言葉で、正しい報告をしていただきたく思います」


 カインは明らかにルルルンを疑っている、ライネスが操られているとでも思っているのか、強烈な敵対心が室内を覆う。


「ライネス様は『この街と私を守った』その事実だけでよくないですか?報告は後日ちゃんとします、ね、ライネス様」

「そ、そうだな」

「今私は、ライネス様とお話している!貴様は関係ない!口を挟むな!」


 相手は冷静さを欠き始めている、それを見極めルルルンはさらに畳みかけるようにして、カインを煽る。


「はぁ?関係ないのはあなたでしょ?あなた、()()最愛のライネス様との甘い一時を邪魔してるって自覚ないんですか?」

「最愛!?」

「そう!最愛!ね、ライネス様?」

「さい?さ、愛?愛!?」


 無駄にライネスが過剰反応する。跪いていた騎士たちもざわついているが、こんな分かりやすい嘘が通じるほど聖帝騎士団は甘くな……


「お前が、ライネス様と!!甘い、だと!?甘、アマ、甘いだとぉぉぉぉ!?」


 甘かった。


「はぁぁ??お前は女だろ!嘘をつくな!!」

「えー、今の時代、女同士なんか全然ありですよ、そんな事も分からないとか、聖帝騎士団は遅れてますねぇ」

「そうなのか?」

「そうなのか?」


 ライネスとカインが同じタイミングでルルルンに驚きの表情を向ける。


「だから、この話はそこまで、あなた達は出て行ってください!私達の愛の一時を邪魔しないでください!」

「愛っ!?」


 ひきつった表情のカインに、ライネスが追い打ちをかける。


「そ、そういうことだ、愛だ!分かったなら引けカイン、私はこれからルルルンとその、そういう事をする!!」


 あまりにもストレートな宣言に隊員がざわつく。


「(ライネス?)」


 ルルルンが一番慌てているが、その様子を見てライネスも慌てている。


「いや、そんなこと納得、で、できません、ライネス様はこの小娘を本当にあ、あ、愛しぃているというのですかッ!?」


 話が魔女討伐の話から、完全に逸れている事に気づきもせず、カインは明らかに冷静さを欠いて話している。それほどまでに、ルルルンがライネスの思い人である事が受け入れられないのだろう。なんと分かりやすいのか、ルルルンは少しだけ面白がりつつも、申し訳ないと心の中で謝罪する。


「私は、そ、その……」


 愛しているのか?の問いにしどろもどろになるライネス。


「愛しているなら!しょ、証拠、証拠を見せて下さい!!!」

「証拠!???」


 カインの苦し紛れの要求に、ライネスは顔を真っ赤にして目の前がぐるぐると回る。嘘とはいえ愛している証拠など。

 悩みに悩んでいるライネスの腕にルルルンが飛びつき、もう少しだとジェスチャーで伝える。


「愛してる証拠、見せましょう!」

「ええぇ!?」


 もうひと押しで、この赤い騎士を追い返す事ができる!だから俺に合わせろ!と。

 そのメッセージを、重く受け止めた汗だくのライネスは、覚悟を決め、彼女なりの愛の表見(さいごのひとおし)をカイン達に披露する。


「ん?」


 ライネスはルルルンを引き寄せ、その唇に自分の唇を重ねた。

 ルルルンは突然の出来事に思考停止する。


「!!!!!!!」


 その場にいた誰もが驚き、静止した、聖女と目された聖帝騎士団第一位の、あのライネス様が、目の前で口付けを交わしている、しかも美少女と。

 静止は次第に動揺に変わり、団員の数名が目を逸らす。


 その中で一人だけカインは白目を向いて歯をガチガチと振るわせて絶望していた。


 情熱的な長い接吻にルルルンがタップをしてライネスにストップをかける。


「ぷっはぁぁぁ!!!」


 美しいキスのフェードアウトには程遠い、大きな息継ぎをしたライネスはカインに向かい


「そういうことだぞ!?」


 と、真っ赤な顔で威勢よく言い放った。


 ざわざわと騎士たちが「そういうことなのか?」「そういうことらしいぞ」などと浮足立って話している。


「分かりましたお邪魔だったようで申し訳ありませんでしたそれでは我々は引き揚げます」


 白目を向いたままカインは、めちゃめちゃ早口で、そう言うと立ち上がり、めちゃめちゃ速足で部屋を後にする、壁に激突する音を響かせながら聖帝騎士騎士団は去っていった。


 去っていく騎士たちを窓から確認して2人は一息つくが。


「ひょっとしてなんだが、私は何か間違ってしまったのか?」

「たぶん間違ったね」

「そうか、間違ったか……」


 唇の感触が熱く消えない。ライネスが自分の唇に指を当てる。

 とっさとはいえ二人は唇を重ねてしまった、事が事だが意識せざるを得ない。やりすぎてしまった演出に、お互いが顔を赤くしていた。

数ある作品の中から、この作品を選び読んでいただきありがとうございます。


面白い!続きが読んでみたいと思っていただけたなら幸せでございます。




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