4人の魔女と消えない過去①
涙目で懇願するライネスの言葉を受け、二人は元居た食堂へ転移する。抱えられてたライネスは地面の感触を確かめるや、ルルルンの胸ぐらを掴み怒りの表情を向ける。雲の上にいたときのしおらしさはどこへやら。
「次やったら本当に細切れにするからな!!!」
「ごめんごめん」
胸ぐらを掴んでいた力を緩めると、ルルルンに背を向け、仕切り直して振り返る。その表情は先程とは違う「凛」とした出会った初めと同じ、聖帝騎士団第一位の佇まいであった。
その切り替えの潔さにルルルンは感嘆の表情を向ける。
「私からの質問にケイスケは答えた、次は私の番だ」
「ありがとう」
「まずは、魔女についてだったな」
「ああ、そもそも、この世界で魔女っていうのはどういう存在なのか、教えてほしい?」
ルルルンが特に疑問に思う『魔女』の存在について、ライネスは知る限りの情報をルルルンへ開示する。
「魔女は、魔動機を使わずに、魔法を行使できる女の事を指す」
「あー、なるほどね、なるほどね、俺のことだね」
「……勘違いされて当然だ」
「気になるんだけど、なんで女限定なの?」
元の世界では男女関係なく魔法を使う事ができたが、この世界では魔動機を使わずに魔法を使う事ができるのが「女」に限定されている。
「この世界……と言っても、私の認識できる範囲の地域で、魔法を使う人間はこれまで4人確認されている」
「4人?」
「正確には4人存在していると思われている」
「ずいぶん不確かな情報だな……」
魔女を目の仇にしている割には随分と曖昧な情報なんだなと、ルルルンは眉をひそめる。
「で、その4人全ての性別が女っていうわけね」
「お前が5人目になるな」
納得まではできないが、魔女と呼ばれる理由は理解できた。
「私たち騎士団が実際に認識している魔女は4人しかいないんだ」
想像していたよりずっと少ない人数にルルルンは違和感を覚える。
「そうだな、お前からすれば、少ないと感じるかもしれない」
「なおさら分からないんだけど、人数の少ない魔女がそこまで嫌われている理由ってなに?いくらなんでも嫌われすぎだと思うよ、正直初めて会った時のライネスの怒りとか憎しみとかは、異常に感じた、何がそこまでの気持ちにさせるんだ?」
事実自分が体験した事を踏まえ、ルルルンが魔女の本質について質問すると、ライネスは表情を固くし、口を閉じたまま少しの時間沈黙する。
「ライネス?」
「あ、あぁ、すまない」
沈黙していたライネスが話出す。
「……魔女がここまで憎まれる存在になったのは10年前からだ」
「10年前?それより前は恨まれてなかったって事?」
「魔法自体が、おとぎ話や神話の存在と思われていた、使う技術も、知識も、見たこともない、空想上の産物、私たちの魔法に対しての印象はそのレベルだった」
「空想上……」
「しかし、その空想上の存在が、魔女の出現と共に現実となったんだ」
空気が重く沈む。
「10年前……」
話したくない事を話すように、ライネスが語り始める。
「同日同時、世界の4カ所で、4人の魔女による、理由なき殺戮が起こった」
「殺戮?」
「そのままの意味だ、文字通りの殺戮」
ショッキングな言葉が第一声に綴られていた。
「都市一つを……まるで実験でもしているように、燃やし尽くし、命ある全てを弄び、笑いながら殺して……いった……くっ……」
「ライネス?」
話しているライネスの顔色が、明らかにおかしい事に気が付いたルルルンは話を遮る。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「無理してまで話す事じゃない、しんどいなら止めよう」
気遣いは無用とライネスは手を差し出し、ルルルンの申し出を断った。
「お前は知る必要がある、この世界の魔女の事を、だから私は話さなくてはいけない」
「ライネス……」
ライネスは息を整え話を再開する。
「東部の都市【ロクジ】では、魔獣や魔人機を操り、遊びのように人を襲った、西の都市【ゼイホン】ではそこに住んでいた人間が突如として消えて無くなった、北の【ウルザ】では街の人間が魅了され、廃人のようにされてしまった、そして南の【オーゾ】は……」
オーゾの話を始めようとすると、ライネスは途端に息が荒くなり、目に見えて動揺しはじめる。
「どうした?」
「いや、続けよう」
額の汗をぬぐってライネスは話始める。
「オーゾを襲った魔女は火を自在に操る魔女だった、笑いながら、物を、人を、平和な暮らしを全て灰に変えた。地獄だったよ、許しを請う事も許されない、ただひたすらに悲鳴と絶望と恐怖が響く、そんな地獄だ」
ルルルンは眉をしかめて、黙ってライネスの話を聞くが、同じ魔法使いとして、その行為に怒りがこみ上げ、握り手に力がこもる。
「……魔女達がそんな事をした理由は?」
何故魔女はそのような事をしたのか、ルルルンは魔法使いとして、許しがたい感情と共に、それと同じくらいの興味が同居していた。
何故その魔女はそのような行動をとったのか?それは儀式なのか、新しい魔法の実験だったのか?誰かに命令されていたのか?復讐なのか?何かしら理由があるのかもしれない。どんな理由があれど許されることではないが、同じ魔法使いとしてせめて落としどころは無いのかと思考を巡らせる。
「最初に言っただろ?理由無き殺戮、その行動に理由は無い」
「無いっていうのは、ライネス達の主観だろ?もしかしたら」
「そんなものがあったとしても、私は許す事はできないし、理解しようとも思わない、お前が同族へ理解を示す気持ちもわからんでもない……だが、あの時の憎しみは消える事はないんだ」
「そう……か、ごめん、続けてくれ」
ライネスの反応で理解できる、魔女に対しての大きな溝、当然と言えば当然なのかもしれない、彼女の持つ憎しみはルルルンが説得したところで変えられるものではないのだから。
魔法による人殺しは、ヨコイケイスケの世界でも当然の如く禁止され、重罪として処罰される。しかし、魔法は時に戦争や犯罪にも利用され、その代償として、マギアとノーマの間にはますます深い溝ができあがっていったのが現実だ。
魔法は人を殺す手段の一つ、この事実は重く深く突き刺さっている。
「どの世界でも同じなんだな」とルルルンは心底うんざりする、魔法は生活を豊かにする物であるべきと、キレイ事を死ぬまで説き続けた身として、それを否定する火の魔女の行為を許容する事はできない。
「【魔女戦争】と呼ばれるその事件がきっかけだった」
「きっかけ?なんの?」
「魔女狩りだ」
「魔女狩りって……」
「そうだ、あの悲劇を『世界』は許さなかった」
ライネスの声に力が入る、怒りとも憎しみとも呼べない感情がこみ上げる。
「かつてこの世界を守護していた、旧騎士団は血眼で4人の魔女を【魔女狩り】の名目で、世界中を探して周った、魔女ではなかったかもしれない者も大勢いただろう、のべつまくなし続く疑わしきを断罪する愚行すら、あの時の世界は許していた、許すしかなかった……なかったんだ」
憎しみの火は消える事なく燃え続ける、燃え移り、どんどんその勢いを強め、何も残さない結果を残す。
この世界でも同じなのだ……ルルルンは理解する、理解できてしまう。
「魔女狩りの結果、南の魔女と思わしき女性を発見し、騎士団はその討伐に乗り出した」
「……結果は?」
ライネスは少しだけ遠い目で、結果を端的に口にする。
「全滅だ」
「全滅?????」
「旧騎士団、今の聖帝騎士団の前身になる組織はその日、消滅した」
予想よりも深刻な結果に、ルルルンは驚きの色を隠せなかった。
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