プロローグ
2025/6/17 内容のスリム化、文章の修正を行いました。
嵐————
嵐が吹き荒れる。まるで世界の終わりを告げるような、演出じみた嵐だ。
決戦の地——いや、海に浮かぶ孤島と呼ぶべきか。誰にも干渉されないその場所に、自然の理を逸脱したような暴風が渦巻いていた。
その中心、全てをなぎ倒す暴風の鞭が地を這い、空を裂く。まるで近づく者を拒む結界のような嵐の中で、一人の魔法少女と、黄金の巨体を誇る巨大ロボが対峙していた。
魔法少女ルルルンはフリルに身を包み、青い髪を風になびかせる。対するは、20m級の金色のボディに身を包んだ騎士型ロボット。その名は「機動騎士エクスキャリバーン」
両者の気迫が、嵐の凶暴さをさらに煽っていた。
「お前の魔法と俺様の剣、どちらが最強か決着をつけようじゃないか!ルルルン!!」
エクスキャリバーンが、雷鳴のような声で吠える。
「相変わらず暑苦しいわね、キャリバーン!」
ルルルンが不敵な笑みを浮かべた。
宿命のライバル、魔法少女ルルルンと機動騎士エクスキャリバーン。
どちらがこの世界で「最強」なのか——その決着のときが来た。
ルルルンは細い腕に魔力を込める。キャリバーンも臨戦態勢を取る。
互いに覚悟を決めた刹那——キャリバーンが叫ぶ。
「キャリバーン・キングブレード!!!!!!」
天に掲げたその右腕に稲妻が走る。雷光とともに、空間を裂くように現れたのは、巨大な黄金の聖剣。
一振りで世界を変えると言われる、最強の聖剣・キャリバーンキングブレードを携え、巨体のロボットが魔法少女に迫る。
「出たわね最強の聖剣、おもしろいじゃない!」
「出し惜しみ無しだ!いくぞ!!!!」
魔法と機械、奇跡と鋼鉄。最強を懸けた激突が、いま幕を開ける。
キャリバーンが剣を振り下ろす。大地が叫び、風が裂け、斬撃は島の地形を変える。
ルルルンは、キャリバーンの明らかな大振りを軽々と躱す——だが油断はできない。その剣は、山を砕き、海を割き、遥か彼方の大地までも切り裂いていた。
次々に繰り出される光速の剣。太刀筋が加速し、大地が悲鳴を上げる。
見かねたルルルンは、魔力を収束させて一撃を受け止めた。
「自然は大事にしなさいって言ってるでしょ!」
次の瞬間、彼女の掌から放たれたのは神界位魔法フレイム・インフェルノ。
だがキャリバーンの魔法障壁がそれを霧散させる。
「通じねえよ、俺様の障壁はルルルン対策の特別製なんだよ!」
ルルルンは、ニヤリと笑う。
「……だったらこれはどうかしら」
天空に広がる魔法陣。超越魔法。
羽のような光が降り注ぎ、キャリバーンの魔法障壁は霧散する。
「なんだ?俺様の魔法障壁が消える!!」
「対策の対策ってやつよ」
「やるじゃねえか!ルルルン!!後出しじゃんけん展開、たまらないぜ!!!」
障壁を打ち破られたキャリバーンは、剣を両手に構え、全力の一撃を放つ。先ほどとは比べ物にならない速度と重さ。
ルルルンは咄嗟に物理防御魔法を展開して受け止めるが、その衝撃は体を貫いた。
「エクスキャリバーン!!!」
「決着をつけるぜ!!!!!!」
——最強の剣士と最強の魔法使い。
この世界の頂点を決める戦いが、ついに終幕を迎える……はずだった。
だが、その瞬間——
二人の動きが止まる。
世界の全てが、まるで映像を止めたかのように静止した。
静止した空間の中、キャリバーンとルルルンはゆっくりと着地する。風も止み、光も流れない。
なぜか?
それは、両者を手に持ち戦わせていた創造主とも言える男が、虚しさのあまり
『人形遊びをやめてしまったからだ』
……最強の魔法少女もロボットも、彼の作ったフィクション、空想の存在なのだ。
「なにやってんだ俺は……」
ト書きを含めた一人二役をむなしく演じていた男はため息一つ、ルルルンとキャリバーンのフィギュアを手に持ったまま、自分が長年仕事をしていたデスクに座る。
【過去形】
仕事をしていた、という説明にはそういう意味が込められる。
かつてこの世界は、魔法の力に満ちていた。
科学、文明、発展、進化——そのすべてに魔法が関与し、魔法は世界の根幹そのものだった。
天を仰ぐ男の名は、ヨコイケイスケ。
この魔法至上の世界において、誰よりも強い魔法を操る存在。
唯一無二の称号【タンザナイト】を持つ、世界最強の魔法使い——だった。
——5年前、『魔素』が消えるまでは。
ヨコイケイスケは椅子にもたれ、掌を目の前に差し出し、低く呟く。
「接続。操作魔法。発動。」
……何も起きない。
沈黙した掌を見つめ、彼は小さくため息をついた。
なぜ『魔素』は失われたのか。
かつては空気のように世界中に満ちていたそれは、自然破壊・大気汚染・軍事利用といった欲望によって、際限なく消費され——涸れ果ててしまった。
誰もが、そんな日は来ないと信じていた。
だが、原因の真偽はともかく、それは現実として起こってしまった。
気づけば、誰も魔法を使えなくなり、そして——世界は、それを受け入れたのだ。
株式会社MHG【マジックハンディガール】。
その代表取締役、ヨコイケイスケは誰もいなくなった社内で、ただ一人、天井を仰いでいた。
「誰かのために行動する」「人助けのためにがんばる」——そんな理念を掲げ、がむしゃらに走り抜けてきたこの会社も、今、終焉を迎えようとしていた。
机の上には、会社のマスコットキャラである「魔法少女ルルルン」と「機動騎士エクスキャリバーン」のフィギュア。
それを握りしめ、オフィスチェアの背もたれを最大まで倒しながら、彼は天井を見つめ、この場所の記憶を辿る。
——無我夢中で起業したこと
——楽しかったこと
——叶わなかった夢
——裏切った奴らのこと
——魔法のなくなった世界のこと
本当に、いろんなことがあった。
でも、たったひとつだけ、はっきり言えることがあった。
「なんで……こうなっちゃったかな……」
5年前まで、この世界には魔法使いがいた。
魔法で何でも叶えるファンタジーのような存在——だが、魔法は誰でも使えるものではなかった。
ヨコイケイスケの住むこの世界では、魔法を使える者を【マギア】、使えない者を【ノーマ】と呼び、厳然たる線引きがされていた。
その違いは、やがて世界の溝となり、差別の火種となった。
マギアが世界を支配し、魔法至上主義が当然となった時代。
善人たちが差別撤廃を叫んでも、ノーマへの蔑視と搾取は終わらなかった。
——魔素が枯渇し、魔法が失われるその時までは。
ヨコイケイスケも例外ではなかった。
世界最強の魔法使いも、魔法がなければただの人間。
彼が魔法の研究と平等な利用を目的に立ち上げた「株式会社MHG」も、魔法の喪失とともに、その存在意義を否定された。
魔法が使えない者でも“疑似的に”魔法を扱える装置、《魔動機〈マギジスト〉》。
その完成は目前だった。この技術で差別がなくなるのではと、彼は信じ、人生を懸けて取り組んでいた。
最終的には、魔法の力で動く“等身大のエクスキャリバーン”を作るのが、ヨコイケイスケの夢だったが——その夢も、技術も、すべてが水泡に帰した。
『あぁ、ヨコイ君、申し訳ないね、もう君の会社には協力できない』
『君に協力していたのは君が【世界で最も優秀な魔法使い】だったからさ、魔法が使えなくなった君には価値がない』
『タンザナイトも只の人間になったらおしまいだな』
『いままでノーマを馬鹿にした報いよ』
『ざまあないぜ』
響く嘲笑の声、思い出す、思い出すのは嫌な言葉ばかり。
『魔法が使えない魔法使いに生きる価値なんてない』
それが世界の言葉。
「くそっ!!!」
机をダンッと叩くと、衝撃に反応してルルルン人形が機械的にしゃべりだす。
『私に任せて!何でも解決!魔法少女ルルルン♪』
「……任せられるなら、任せたいよ、ルルルン……」
今日で、株式会社MHGは幕を閉じる。
魔法の終焉とともに。
涙が出る。
あふれ、こぼれ落ちる。
悔しさ、怒り、悲しみ——もっと、みんなと笑っていたかった。
会社を、成功させたかった。
魔法に頼りすぎた結果、招いた崩壊。
「自分が一番」だと思い込んでいた慢心。
ふがいない自分、どうしようもない世界に——ヨコイケイスケは、咆哮する。
それは誰にも届かない。誰にも伝わらない。
けれど、声を出さずにはいられなかった。
外は陽が落ち、社内はすっかり暗くなっていた。
ケイスケは最後の荷物を段ボールに詰める。
ふと目に映る、ルルルンとエクスキャリバーンの人形。
「……ごめんな、ルルルン」
『私に任せて!何でも解決!魔法少女ルルルン♪』
「……作ってやれなくて、ごめんな、エクスキャリバーン」
そう呟き、2体の人形を段ボールに入れる。
そして顔を上げ、決意の表情を浮かべ、立ち上がる。
荷物を手に取り、オフィスの扉を力強く開ける。
誰もいない社内を最後に振り返り、静かに言葉を告げる。
「……おつかれさまでした」
ヨコイケイスケは、株式会社MHGだった場所を後にした。
階段を下りると、外はすでに夜の闇に包まれていた。
「帰るか……」
岐路につこうとしたとき、背後から声がかかる。
「社長!」
「あれ?どうした?」
声をかけたのは、MHGで最後まで働いていた女性社員、ミズノカオリだった。
「会社に忘れ物しちゃって……」
「そうだったの?ごめん、鍵しめちゃった」
「あ!それ!」
カオリは、ケイスケの段ボールに入っていたルルルン人形を指さした。
「ルルルン人形?」
「それ、私の私物なんです」
「え?そうだったの?」
ケイスケはずっと会社の備品だと思っていた。
「ごめん、ずっと会社に飾ってあったから気が付かなかった」
「言ってませんもん」
「言ってよ」
「自分でデザインした人形を自分で買って飾るとか、なんか恥ずかしいじゃないですか」
カオリはルルルンのデザインを手がけ、マスコットキャラ導入も提案した張本人だった。設定から衣装まで考え、誰よりもルルルンに思い入れがある。
「取りに来た忘れ物、ルルルンなんです」
「そうなの?」
少し照れながらそう答えるカオリに、ケイスケは段ボールから人形を取り出す。
「じゃあ、これ」
「はい……」
受け取ったカオリの表情が、ほんの少し曇る。
「悔しいですね……」
「まあ、さ、仕方ないよ……魔法が使えなきゃ、俺たち魔法使いなんか、普通以下って言うか……な」
「社長が……師匠がそんな事、言わないで下さい……タンザナイトまで上り詰めた最高の魔法使いじゃないですか!」
「昔の話だよ……」
沈むケイスケに、カオリは熱を帯びた声で詰め寄る。
彼女もまた優秀な魔法使いだった。特に錬成術に秀でていて、魔導機の開発に欠かせない存在だったが、ケイスケと同じく魔法を失っていた。
「師匠は本当にすごい魔法使いでした!!」
その言葉はケイスケを更に惨めにする、過去の栄光はケイスケを苦しめる材料でしかないのだ。
「駅まで送るよ」
「……」
そう言って歩き出すケイスケのあとを、カオリも静かに追いかける。
車通りの多い大通りを、並んで歩く。
「なぁ、カオリ」
「はい」
「お前はこれからどうするんだ?」
「どうする?」
「そう、なんかタイミング悪くて他の社員には、そういう事聞けなくてさ、どうすんだろうって?」
「私は聞きやすいとかですか?」
「そうだな、カオリには沢山助けてもらったからな、感謝してる分親近感も強いってことさ」
「答えになってませんよ」
カオリは会社創業当初からの仲間だ。書類選考も無視して、ケイスケへの憧れだけで突撃入社してきた変わり種。ケイスケにとっては、公私に渡る信頼の相棒だった。
「入社した時から、カオリはなんていうか、積極的だったからなぁ」
「それは、もう言わないで下さいよ」
「でもそれがなかったら、MHGはここまでこれなかったよ」
「社長……」
「楽しかったなぁ……みんなでどうすれば、この世界が良くなるかって、本気で考えてたよね、ハハハ……」
「そう……ですね……」
空気が乾く。
ケイスケは遠くを見つめるように呟く。
「多分俺、本気で世界を変えられるって思ってたんだよ」
「はい」
「魔法で差別をなくして、世界を平和にって、誰かを助けたいって、本気だったんだよ」
「知ってます」
「世界一の魔法使いになったのに、できなかった」
「社長のせいじゃないです」
「できなかったなぁ……」
言葉にできない悔しさと虚しさが2人を包み込む。
しばらくの沈黙のあと、ふとカオリが足を止めた。
「どうした?」
「私、諦めてません」
「なにが?」
「さっきの質問です」
「なんの質問?」
「さっきのです」
「これからどうするの?って話?」
「はい、私、諦めません」
「カオリ?」
「『誰かのために、行動する、人助けのため、とにかく頑張る』。魔法を世界のために使うっていう、MHGの理念。私は今でも大事にしています。たとえ世界が変わっても、私は、がんばりますから!だって、私は……!」
唇を震わせ、叫ぶようにカオリは答えた。
魔法が失われた世界でも、彼女の想いは変わらない。
「カオリ……」
「私は師匠に憧れて、救われたんです、この人にならついて行きたいって本気で思えたんです」
「俺はそんな……」
「だから師匠も、諦めずにまた一から……」
カオリがケイスケに手を伸ばした――その瞬間だった。
「カオリ!!!!!!!!!!!!!!!」
――ガシャアアアアアアアアアアアンッ!!!
ヘッドライトの光が、2人をまっすぐ貫くように突っ込んできた。
ケイスケは咄嗟にカオリを庇うように飛び出したが、間に合わなかった。
轟音とともに、大型トラックが2人を巻き込み、ガードレールを突き破って横転する。ウィンカーがチカチカと無意味に点滅し、車体からは煙が上がっていた。
運転席からふらふらと降りてきたのは――ケイスケの記憶にある顔だった。
MHGの躍進により廃業した競合会社の社長だった男。
額から血を流し、骨折している脚を引きずりながら、ゆっくりとケイスケに近寄り、地面に這いつくばるケイスケを見下ろす。
その表情は酷く歪んだ笑顔であった。
「魔法使いに奪われたもの全部……ぜんぶ……奪い返してやったんだよ……あは……あはは……あはははは……ああああああはははははっ!ざまああああみろおおおおおお!!!!!!」
目的を達成したその男は足を引きながら、かすれた笑声でその場を離れていく。
「くそ……」
血まみれのケイスケの胸の中で、カオリはぐったりと動かない。
彼女の顔は蒼白で、口元からは血が溢れ出している。
全身の痛みがケイスケの思考を奪い、自分の身体から流れる血が視界を滲ませていく。
「カオリ……おい……しっかり……しろ……」
何度も名前を呼び、体を揺する。だが、カオリは返事をしない。
「おいッ……だめだ……カオリ」
動かない彼女を必死に抱えながら、ケイスケは震える声で詠唱を始める。。
「……接続、大治癒魔法、発動……」
魔力が迸る感覚は当然なく。何も起こらない。
「グラン……ヒリオ……ン……バージ……バージ!!」
叫ぶ。しかし、それはただの声。かつて人々を救った超位魔法の言葉は、いまや空虚な音でしかなかった。
奇跡の力は、もうどこにもなかった。
「こんなの……」
歯を食いしばる。かつて「最強」と呼ばれた魔法使いは、今、誰ひとり救えずに地に伏している。
復讐に燃えた男に打ち砕かれ、守りたかった人間を巻き込み、何もできず終わろうとしている。
――望まぬ終わりだった。
魔法で世界を救う。
マギアとノーマが手を取り合って生きられる未来を作る。
それが、ケイスケが本気で夢見た未来だった。
「それが……出来る……と思ったんだ……」
胸の中動かなくなったカオリにケイスケは呟く。
「ごめんな……」
悔しかった。こんな未来のために、会社を興したわけじゃない。
魔法を使えない人たちの力になりたくて。世界を変えるって、本気で思ってたのに。
その想いも、血の中に沈んでいく。
悔しい……悔しい……!
「タラレバ」が頭を埋め尽くし、溢れる涙で視界が揺れる。
「ちく……しょう……」
震える手で荷物の中にあった、ルルルンとエクスキャリバーンの人形を拾い上げる。
その人形のぬくもりを最後に、ヨコイケイスケは人生の幕を下ろす。
魔法の失われたこの世界で、かつて“最強”だった男の人生が――終わる。
筈だった ―――――
『大丈夫……ルルルンに任せて……ケイスケ……』
――聞き覚えのある、優しい声が、ヨコイケイスケの意識を引き戻した。
「ルルルン?」
『大丈夫、私に任せて!!』
「任せるって?」
笑顔で語り掛ける魔法少女にケイスケは問う。
『私に任せればなんやかんや全部うまくいくから』
「ルルルン」
その優しさに全てを委ねようとした、そのとき――
『お前に任せる訳にはいかねえな!』
さらに、聞き覚えのある、どこかメカっぽい声が割って入る。
『おい、マスター俺様に任せろ、こんな女信用するな!』
見覚えのあるロボ「エクスキャリバーン」だった。
『ちょっと、こんな時まで邪魔しないでくれる?』
『黙れルルルン!ここは俺様に任せろ』
「君たち、こういう時にもケンカするんだね」
世界が揺らぐ中、一人と一体はいつも通りの口論を始めてしまう。
『ここは私の領分でしょ!引っ込みなさい!』
『お前がひっこめ!』
『なんですって!!!どう見てもマジカルな空間でしょうに!あんたが引っ込みなさい!!ミスマッチよ!』
『雰囲気で決めつけんじゃねーっつーの!』
「あの、ケンカしないでくれます?」
そのやり取りが、混濁していたケイスケの意識を少しずつ、確かに覚醒させていく。
『私に!』
『俺に!』
【任せて!】
【任せろ!】
「だから、なにを……?」
そして――ケイスケの意識は、真っ白な世界から放たれた。
次に目を覚ました時――空が明け、そこは広大な草原だった。
見たことのない、冗談みたいな広さの原っぱ。ヨコイケイスケは思わず目をぱちくりさせた。
「俺、寝て、あれ?カオリ???」
直前の記憶と全く異なる風景に、脳が追いつかない。
「カオリ??」
慌ててあたりを見渡す。確かに、自分の胸の中にいたはずのミズノカオリの姿がない。
「……俺、あの時……」
ケイスケは立ち上がり、自分の身体を確認する。トラックに撥ねられたキズは無く、出血もなくなっていた。
「……治ってる?」
確かに違和感はある。でも動ける、歩くことができるので、とにかく歩いてみる。夢の中のような草原を。
丘を越えると――そこには、信じられないほど巨大な都市が広がっていた。
「なんだ、ここは?」
まだぼんやりしている眼前に、巨大な都市が広がる、次第に鮮明になるその風景をケイスケは映画でも見ているのか?とにわかに信じられずにいた。
ゴゴゴゴォォ!!
都市を見下ろしていたケイスケに大きな音が迫ってくる。
「なんだ?」
空から響く爆音。見上げれば、その眼に映るのは空を飛ぶ、巨大な人型のロボット。
「魔導機動騎士!?」
ノーマでも扱える魔導機。マギアとノーマの橋渡しになるはずだった、ケイスケの夢。その結晶が、空を、飛んでいる。
「まじか?まじでか?????夢か????そんな、そんなことが?」
駆けだそうとした瞬間、身体の異変が再びケイスケを襲う。
「いったぁ、ってあれ?」
バランスを崩し、派手に転倒する。
「なんだ?」
まるで自分の体じゃないみたいな、そんな違和感。
違和感をかみしめるように立ち上がると、ケイスケは、草原の向こうに生き物を発見する。
「犬?」
犬のような生き物もケイスケに気が付いたのか、こっちに向かって走り出す。
「……犬だよな?」
犬と思ったその生き物は、距離が近づくにつれその姿を明確に表す。明らかに犬ではない。
「犬じゃなあああああああいいいいい!!!!」
それは、鋭い牙と巨大な体を持つ、獰猛なモンスターだった。
必死に逃げるが身体がついてこない。
「だめだ、追い付かれるっ!!!!!」
諦めかけたその時—————
「!?」
馬に跨ったネコミミの騎士がケイスケとモンスターの前に割って入る。
「そのまま、街へ行くにゃ!!真っすぐ行けば街の入り口!!」
「!!!!」
「走るにゃ!!!!!!!!!」
「ありがとうううう!!!!!」
言われるがまま、必死に走る。モンスターは追ってこない。ネコミミの騎士が時間を稼いでくれているのだろう。
ようやく街の入口にたどり着いたケイスケは、地面に倒れ込むようにして息を整える。
「はぁ、はぁ、ぜぇはぁ、うぉっぷぁ……」
街の入口にいた衛兵たちが駆け寄ってくる。
「大丈夫かい?お嬢さん」
「あ、はい、なんか襲われて……その、ネコミミの人に助けてもいましたぁ、はぁはぁ……」
だが次の瞬間、ケイスケは異変に気づく。
目の前に垂れ下がる――長くて、青い髪。
「……は?」
なにかがおかしい。いや、すべてがおかしい。
声が違う、服が違う、靴が違う、髪が長い……そして、なにより――
「あの……鏡ってありますか?」
「小さいけど、これでいいか?」
手渡された手鏡をのぞき込む。
「なん……だこれ……?」
そこに映っていたのは、MHGのマスコットキャラクター――
『魔法少女ルルルンであった』
数ある作品の中から、この作品を選び読んでいただきありがとうございます。
面白い!続きが読んでみたいと思っていただけたなら幸せでございます。
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