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11. ラストシンデレラ。



このお話で一章終わりです。


 俺は、イチャつくリア獣もどき共をかき分け、一直線に男の腕を払う。


「汚ねぇ手で触れてんじゃねぇ!!!」


 姉の手を取って、身を翻した。


「おい、なんやお前、なんでガキが入ってきとるんや!!!」

 

 男が怒声をあげる。

 怖いか怖くないかで言えば、当然ビビっていた。ゲームしかしてない、もやしっこな俺なんて腕っぷしじゃ誰にも敵わないだろう。

 けれど、今は勝つか負けるかかどうかなんてどうでもよかった。俺なら別に殴られてもいい。姉を騙すような罪を犯したのだから。でも、姉は守らなければ。

 結局、拳が飛んでくることはなかった。店を無事に脱出する。

 もし追ってこられたらたまらない。

走って店を離れて、たまたま駆け込んだ少し離れの公園で、


「こうくんっ! 心配したんだよ!」


早姫姉はぎゅっと俺を抱きしめた。

昔なら俺の顔が胸に埋もれていたところだが、今は反対に早姫姉が沈み込んできた。


「早姫姉、ここじゃまずいから!」


 それなりに開けた場所だった。もしかしたら生徒や学校関係者がいるかもしれない。

それに肌は至る所が柔らかいうえ、鼻先をくすぐる甘い匂いにもくらりとくる。

 でも、早姫姉は放してくれなかった。


 俺は諦めて、それから白状することにした。己の身勝手な計画について。

 洗いざらい吐き終わった時には、早姫姉の腕に力は篭っていなかった。

 するりと抜けて、頭を下げる。


「……ごめん、早姫姉。俺のせいで危険な目に」

「ううん、こうちゃんなりにお姉ちゃんのこと考えてくれたんだよね」

「…………一人暮らししたかっただけだったら?」

「違うよ。分かる、それくらい。だってもしそれだったら助けてくれないでしょ。

もしかして、お母さんたちにそそのかされた? お姉ちゃんに彼氏作らせたら一人暮らしできる〜とか」

「……どうして分かるの。まぁ似たようなことは」

「やっぱり。うちのお母さん最近会うたびに口開けば彼氏は、結婚は、だからさー。そんな搦め手使ってきてもおかしくないかなぁって思ったの。困っちゃうよね、ほんと。

でもまぁ言いたいことはわかるんだ。周りの友達もどんどん結婚していってるし、私だけだよ。彼氏もいないの」


 もう二十六だから仕方ないのかな、と早姫姉は少し物悲しそうに、ぽつりと空へ呟く。その姿があまりに美しくて、俺は息を呑んだ。

 

 まるでシンデレラ。


 でも、彼女は周りと比べて、ほんの少し靴を履くのが遅れてしまった。そうして取り残された、いわばラストシンデレラ。

 「早い姫」なんて名ばかりの。


「そりゃあね、たまに思うよ? そろそろ彼氏くらい、って。欲しくないわけじゃないんだよ。でも、さ」


 彼女を迎えにくる王子様はいまだやって来ない。

 じゃあ俺が立候補、ってほど俺の頭はめでたくなかった。なにせ親戚で、十以上も下の歳だ。そんなことは五年前から分かっている。

 ならば俺がなれるのは──、あるじゃないか。最適なのが一つだけ。


「早姫姉、足いい?」


 俺は彼女の足元にしゃがむと、走ったせいだろう、少しずれていたヒールを履かせ直す。


「こうくん、大丈夫だから! お、お姉ちゃん恥ずかしいからっ!」

「抱きしめられる方が恥ずかしいっつの」


 立ち上がって、そして決めた。魔法使いになろうと。といっても、三十歳童貞の話ではない。物語の中の、だ。

 俺は早姫姉に幸せになってほしい。ならば靴を履かせなければ。

 そうシンデレラに最初に靴を履かせたのは、王子様じゃない。

 魔法使いだ。

 だったら、俺がその役になればいい。そうすることで、自分の夢である一人暮らしにも手が届くのだ。一石二鳥というものである。

 今回みたく無理にでなく、ちゃんと素敵な王子様を捕まえてやらなければなるまい。


「なぁ早姫姉。俺、協力するよ、彼氏作りに、結婚相手探し。全力でやってやる」

「……いいよ、そんな」

「遠慮させないからな。なんせ俺の一人暮らしのためでもある」

「本気?」

「本気も本気だよ」


 俺は、こう自分の胸を叩く。そっかと笑った早姫姉と、はっきり目が合った。彼女は、ぷいっと目を逸らす。

 実に美しい横顔だった。見惚れかけていたら、まるで宝ものを隠すかのように、夜風が彼女の黒髪をなびかせる。


「私はこうちゃんがいいんだけどな」


 髪に覆われた向こうで、早姫姉は、小さな声で言った。

 聞こえたけれど、何のことだか分からない。


「えーっと……、なにが俺の方がいいの?」

「もう、ほんと大事な時だけ抜けてるんだから~。

 ……ま、いいけどね、今はそれで。こうくんが私のこと考えてくれてたってだけで十分! さーて、もう遅いし、どっか別のところでご飯食べて行こう〜? 人の少ないところで!」


 俺は、こくりと頷く。

 それから同居人と歩幅を合わせ、一歩二歩と歩き始めた。

 たぶん、いい人を見つけてやるまでは、俺が彼女の隣にいる。


「あ、こうくん! 前! 犬のう●こがーー」

「うおっ!!」


 前途は多難そうだけど。

 だって平気で、う●ことか言っちゃうんだもん、このシンデレラ。




お忙しい中、わたくしめの作品をご覧いただき、ありがとうございます!



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