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狂気に満ちた女

作者: 悠薔薇

風を切る音がかすかに聞こえ、その直後、ガツンという鈍い音が部屋に響いた。


目の前には、中央部分はへこんでしまったが、周りは無傷の美しい机があった。


いや、机だけではない。部屋全体に目を向けると、ずたずたに引き裂かれたブランドの服、座る部分と背もたれが無残に引き離された綺麗なピンクの椅子、羽毛が出てしまっている布団などが散らばっていた。


その光景を見て、もう後戻りはできないのだと改めて感じた。そして固く目を閉じ、手に持っているバッドを振り上げた。


ガツン。さっきと同じ、鈍い音が響いた。しかし、今度は一回きりではなく、何度も何度も聞こえた。


何回音が聞こえただろう、そしてどれくらいの時間がたったろう……。机は無残な形に変形していた。



思い出したように、私は呼吸を繰り返した。手の力が緩み、バットがするりと手をすり抜け、カランと音をたて、床に落ちた。


その音で私は正気に戻った。急に全身の力が抜け、ひざ、唇などが震えた。立っているのも辛くなり、その場にしゃがみこんでしまった。


はやく……はやく部屋を出なくちゃいけないのに……。そう思えば思うほど、体に力が入らないのだ。


涙が急にこみ上げた。どうして……悪いのは私じゃないのに……。


カチャリ、とドアノブが回る音がして、人物が入って、いや、その場に立ち尽くしているようだ。


恐る恐る後ろを振り向いた。立ち尽くしている人物は、この部屋の主だった。


「何やってるの……真実ちゃん……」


現場を押さえられた。もう言い逃れはできない。そう思うと、気持ちが軽くなった気がした。


「あなたがいけないのよ……真理ちゃん」


口が私のものではないようだった。思ってもみない言葉が出てきた。


「真理ちゃん……あなたが私より可愛がられている……私たちは双子でおんなじ顔をしているのに……おんなじ母から生まれたのに……私より可愛がられている」


「そんなの……私のせいじゃないよ」


もう頭では何も考えていなかった。ただ私じゃない人が、私の声帯を震わせ、私の唇を動かしているのだった。


「今日の喧嘩だって、真理ちゃんが私の大事な服を破ってしまったのに……私は泣いていただけなのに……私が怒られた。何故なのよ」


「ま……ママに聞いてよ」


「中学にあがってあなたには新品の机が与えられているのに私にはつぶれたクッションだけ!あなたの制服はクリーニングに出されるのに私のはずーっと汚いまま!あなたにはおいしいカレーが出るのに私にはカレーのジャガイモの皮!あなたは私を助けるのではなく見てみぬ振り!どうしてなのよ!」


涙が頬を伝う感触が会った。膝に落ちた涙は、穿いている薄汚れた、穴が二、三個開いたジーパンに染み込まれていった。


「そんな……真実ちゃんが悪いとは言わないけど……私が悪いわけでも無いじゃん?ママが悪いんだよ。あたしばっかりひいきするから……ママに言ってよ」


「それができたら苦労しないわ!」


真理ちゃんが、そりゃもっとも、と言った。あからさまにおちゃらけている顔だった。


「だよね、フフッ。どーでもいいけど、この部屋のこと、ママに言うよ?そしたら真実ちゃん、死んじゃうかもね。さっき何故って言ってたけど、あたしも知らないわよ。きっとあんた、運が悪かったのよ。あたし達が赤ちゃんのとき、ベビーベッドで寝ている赤ん坊を、ママが無造作にコッチって選んだほうが、いじめられてんのよ。それが、真実ちゃんなんだわ。フフ……あたしじゃなくて良かったわ。もう一度言うわ。あなたは運が悪かったのよ」


その言葉に、プチンと何かが切れた。気がつくと、私は部屋の真ん中で、机を叩いたときに使っていた、真理ちゃんのバットを握っていった。


どうして私はここにいるの……?


バットをギュッと抱くと、手にヌルッという不快な感覚を覚えた。


手を見ると、赤黒い、生温かい液体がたっぷりとついていた。その温度は、ついさっきまで生きていた人間に流れていたと思われる、生ぬるい温度だった。


自分がやったと思われることが、頭の中で周っていた。めまいに襲われ、さらにバットを握り締める。すると、赤黒い液体がさらに手に付着する。


「いやぁぁぁぁっ!」




扉が静かに閉まった。


真実……やっと殺してくれたのね……。今までごめんね。私が選んだ、ベビーベッドで寝ていた赤ん坊は、真実なのよ……。


真実……。あなたをバットで殴り、気絶させたときの真理の顔を見せたかったわ。真理の助けを求める目……。体を叩くあの感触……。真理の血のにおい……。真理の骨を砕く音……。今あなたは、自分が真理を殺したと思っているのね。私があなたに血のついたバットを握らせ、あなたの頭上で真理の心臓をつぶしたのよ……。


そう扉の外でつぶやきながら、真実を真理を生んだ女は、真理の生首を抱きしめ、静かに涙を流していた。

始めまして、悠薔薇と申します。

この掲示板に投稿するのは初めてなので、作者に優しい言葉をかけてもらえると嬉しいです。

評価、どうぞよろしくお願いします。

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