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 時は戻り、艦隊の出航前夜。

 ロドニアル総司令は各艦隊司令と主だった部下を集め、今回の作戦について伝達していく。

「明朝、日の出とともに全艦を出港させる。作戦目標はラグラプルの主要三軍港である。第一艦隊がジュネブを、第二艦隊はシャームを、第三艦隊はパルザを制圧する。しかし本作戦は奇襲であるため、勘付かれない様に進路を一旦ネプロに向けて航行。二日後に転進して各目標へ向けて制圧作戦を開始する」

「早急に開戦するのではないのかな? 公爵からはそう聞いておるが?」

 ロドニアルの予想通り公爵から直接指示が入っている様で、デレンビッツ第一艦隊司令からの横槍が入るが、予定通りに第三艦隊に恥をかいてもらって、その場を切り抜ける。

「デレンビッツ侯爵がどの様に聞いているかは知らぬが、勅命は明日の出航と制圧目標だ。奇襲を成功させるためにも確実にしたい。なにぶん、第三艦隊は足こそ速いが火力が弱い。他の艦隊と比べ心配が尽きんでな」

「おや、総司令はコープ子爵と仲が良いと思ったが?」

「だからこそ、こ奴のせいで作戦自体が失敗する事が無いようにしたいのだよ。これが成功すれば、次はいよいよ大国ネプロとの戦いになるが、儂もそろそろ引退を考えておるのでな。次期艦隊総司令の足かけとして、ぜひ成功に寄与してはもらえぬか」

 これまで、『自分こそが艦隊総司令に相応しい』と常々公言していたデレンビッツにしてみれば渡りに船の発言に、これ以上は異を唱える事も無かった。

 そして出航の朝を迎え、哨戒に回っていた艦船とも合流して一路ネプロへの航路を突き進む。


 同じころ国境では、貴族の私兵と国軍の半数以上が集結していた。

 もっとも、国軍の指揮系統は国王派の貴族が占め、共にいる私兵と変わるものでは無かった。

 当然、ラグラプルへの侵攻を目的とした遠征部隊であるが、そこにライル・コレール率いる辺境軍は参加していない。

 なぜなら、辺境伯であるラサル自身は王都に呼びつけられていて不在であったからだ。そして、ライル辺境騎士隊長はこう言ってのけたのだ。

「我が部隊は国境を守る盾である以上、侵攻には参加は出来ない。国境が変わればそこに布陣するが、伯爵不在の今はその判断も行えない。加えて、これだけの精鋭がお集まりなのだから、我々が足手まといになるのは気が引ける。我らは補給に専念するゆえ、存分にご活躍成されよ」

「脆弱なラグラプルと、小競り合いしか出来ぬ腰抜けどもめ。騎士の戦いのなんたるかをその目に焼き付けるがよい」

 かくして、国軍を中心とした混合部隊はそんな捨て台詞を残すと、海軍出航翌日の敵国が混乱しているであろうタイミングを見計らって、国境を越えて侵攻を開始する。そこに罠があるとも知らずに。


 王都に呼びつけられたラサル・コレールは、国王に呼ばれて謁見の間にいた。

「此度の呼び出し、領地替えに関するものでしょうか?」

「相変わらず察しが良いな。そなたには話していなかったが、国境ははるか南のネプロとの境になる。今回の遠征の褒賞も与えなければならぬのでな、北のトームへ行ってもらう事となる」

「あそこは直轄地のはず。いかような地位をもってでしょうか」

「王家直轄地であるから解っておるのだろ。代官としてだ。血の絶えるコレール家だから、問題はなかろう」

 八年前の布石をこのように使われるのかと、憤慨する気持ちを抑えて頭を垂れ続ける。二呼吸ほどで気持ちを落ち着けたラサルは、感情のこもらぬ声で拝命する旨を告げる。

「謹んで拝命いたします。ところで、陛下にひとつ聞いていただきたいお願いがあるのですが、お聞き届けいただけますでしょうか」

「なんじゃ」

「アンリローズ王女殿下にお目通り願いたいのです」


 国王は予想外の申し入れに困惑する。

 王女はネプロへの貢物であり、その為に傷ひとつ付けずに囲っていた物だ。この期に及んで傷物にでもし、意趣返しをするのではと邪推したわけだ。

 黙ってしまった国王に、心の中に苦笑いを納めたラサルは言葉を続ける。

「我が家には家宝がふたつございます。そのひとつ、ダイヤのティアラを姫様の御輿入れの品として寄贈いたしたく、直接お渡ししたいのです」

「それならば許そう。輿入れまで日も無いゆえ、候の都合に合わせよう」

 国王の打算は物欲に傾く。

 家宝があるならすべて王家の物にしてしまえと。仮にアンリローズに傷がついたのなら、イライザで代用すれば良いと考えたわけだ。

「ありがたき幸せにございます。今日持参しておりますので、この後でお時間を頂戴したく。また合わせて持参したもう一つの家宝は、イライザ王女殿下の輿入れの品に加えて頂ければと」

 ラサルが後ろに控える従者に合図すると、従者は大きめの箱を開き拳大もあるダイヤの原石を、国王から見えるように掲げる。

 すぐさま侍従が受け取りに来て国王の傍まで運ぶと、国王はいやらしい表情を浮かべ、アンリローズの私室への案内を兵に指示した。


 輿入れに持参するドレスなどは既に採寸が終わっていて、久しく来客を受けていませんでしたが、ラサル様の突然の訪問を受けました。

 拝顔の機会は何度かありましたが、お話をするのは八年前のあの夜以来となります。

「ラサル様、ようこそお越しくださいました」

「アンリローズ様、お美しくなられましたな。城務めの者からも慕われているとか」

「あの方との約束ですから。その約束通り生きてきて、国のためにこの身を捧げるのです。それでも、あの方には怒られてしまうでしょうね」

 いつもの様に笑ったつもりでしたが、ラサル様に笑顔は有りませんでした。

「本日は、姫様に贈り物を持参しております。代々伝わるティアラにございます。ぜひ、ご婚礼の際にお使いください。そして、最後まで貴女らしく生を全うしてください」

 差し出された箱は侍女が受け取り、続き間へと運んでいきます。中身は見ない方が良いでしょう。陛下の一存でこの城に残るやもしれませんから。


「ありがとうございます。最後にひとつだけお願いをしても良いでしょうか」

「なんなりと」

「あの方に会う事がございましたら、これまで生きてこられた感謝と、他国に輿入れする謝罪をお伝えください」

「しかとお伝えいたします。それでは、これにて」

 ラサル様は最後まで、私を一人の人間として接してくださいました。

 それはこの数年で唯一だったものですから、おもわず涙が溢れてしまいました。

 叶うのならマック様に直接伝えたかったですが、そうなればあの方は無理をなさるでしょう。だからこれで良かったのです。

 あの方が最愛の伴侶を得て、お幸せに暮らせることを願うしか、私にはもうできないのですから。




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