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 アンリローズを送り出した食堂では、マックを筆頭に今後の方針を決めていく。

「彼女はいったい、どういった教育を受けて来たんだ? 俺が平民だと言っても様は付けて来るし、食事はあの通りだ。厨房に迷惑をかけたくないからと、終始『あまり物でいい』と言って聞かない。最初は演技なのかとも思ったが、どう見ても素だろう」

「あの王様のこった、政治の道具としか見ていないんだろうよ」

「食事だって、切れ端か食べ残しでも出されているんじゃないか?」

「ランサム様を婿入りさせるために連れて来たって噂、本当なのかねぇ」

「婿入りしたって、王位継承権などないんだろう。ていの良い人質じゃないか」

「結局は、コーレル家が邪魔なんだろう。息のかかった侯爵辺りを据えたいんだろうが、代わりが務まる者がいないって線が濃厚なんじゃないか」

「マックは姫さんをどうしたいんだ?」

「あの心優しさが演技でないなら、まともな環境で生活させてやりたいが」

「じゃ、連れて逃げちゃったら?」

「あのなぁ。十歳にも満たない子を、十六の俺にどうやって養えって言うんだよ。それに、そんなことすればすぐに戦争だ。とりあえず、ここに居る間だけでも羽を伸ばさせてやろう」


 屋敷の裏手はよく手入れされた森が広がり、その先には小さな湖と見晴らしの良い丘がある。初夏にかけてのこの時期は、丘は一面の花畑となり小鳥やリスなどを目にする事ができる。

 出来る限りアンリローズに自然と戯れてほしいマックとランサムは、天気がよほど悪くない限り丘へと連れだしていた。

 昼食はメイドが運んでくれる弁当を湖畔で食べ、時には食料調達の下男に混じって釣りも楽しんだ。

 アンリローズにとっては生まれて初めての体験ばかりで、新鮮でとても尊い時間だった。

 しかし国王にとっては、いろいろと誤算続きであった事は否めない。

 順応で人形のようであった王女が、心底嬉しそうに笑い、好ましくない知識を身につけていく。さらには屋敷で働く者から慕われ、愛情さえもかけられている。

 もっとも気に入らないのは、ランサムよりも平民であるマックとやらに懐いている事だった。これでは、ランサムを人質として王都に連れて行くには無理がある。

 そして、ある命令が国王より下された。


 明日には王都に戻ると言うので、少し森の奥まで散策することになりまた。

 森の奥と言っても馬車も通れるような道がありますし、迷ったりする事はなさそうです。

「今日は陛下の護衛だけのようですね。ランサム様はなにか聞いていますか?」

「いや。ただ陛下は屋敷から出たがらないし、小競り合いは相変わらずだからね。彼らも仕事をしたいのだろう」

「マック様とランサム様では、どちらがお強いのですか?」

「弱いと護衛にならないでしょ。僕よりはるかに強いですよ、マックは。だから分っているね?」

「承知していますが、それで良かったのですね?」

「お爺様には話してあるよ。どの道変わらない未来だ」

 二人は何お話をしているのでしょうか。

 急に立ち止まって話し込む二人の表情を窺うと、ランサム様は終始笑顔のままでしたが、マック様は少し顔をしかめたものの寂しそうな顔をなさいました。

 再び歩き始めようとして、ふと鳥の鳴き声が聞こえない事に気付きました。そしてランサム様に腕が私の動きを制します。

「あの。ランサム様?」

「マック! 姫を!」


 ランサムの叫びに呼応するかのように、マックはアンリローズを担ぎ上げて森の中に走り込む。抱え上げられた彼女は必至に顔を上げてランサムを見るが、ランサムは腿に矢を受けて膝を付いており、森から飛び出してきた男に切りつけられている。

 そこに兵が駆け付け賊を切り倒すが、ランサムを助け起こす素振りも無く、マックたちを追いかけるように森へと入ってきた。

 驚愕に目を見張るアンリローズを担いだままのマックは、それをハンデとも思わぬような勢いで森の中を逃げ回り、兵たちを罠に嵌めながらなんとか逃げおおせた。


 昨夜の打ち合わせ通りであり、覚悟はしていた事とはいえ、親友の死にやるせなさを感じる。この国の王は、配下の跡取りでさえ謀略によって亡き者としたのだ。

 やっと打合せの場所である洞窟にたどり着けたので、アンリローズを降ろして敷物の上に座らせた。

「姫様。お怪我は有りませんか?」

「私は大丈夫ですが、ランサム様が……」

「もう助からないでしょう。皆わかっていたのですよ、ランサム様が命を狙われている事を。そして、あわよくば姫も一緒に亡き者にして、その罪をラサル様に着せようとしている事を」

「では、なぜ私を見捨ててでもランサム様を助けなかったのです。私さえここに来なければ、この様な事にはならなかった。私さえいなければ……」

 泣き崩れてしまった姫をなんと言って慰めればよいか判らず、隣に座ってそっと抱きしめた。


 そろそろ約束の時間が迫っている。

 姫には生きていて貰わなくてはならない。その為の約束をしておく必要がある。

「ランサムの死を無駄にしない為に聞いてくれ。君はこの後、ラサル様の兵に保護される。シナリオはこうだ。隣国のスパイである俺は、今回の件をチャンスと見て君を連れ去った。しかし国境を越える際に見つかり、抵抗の末に殺される。君は目隠しをされていたので、何も見ていない。質問は?」

「なぜそこまでするのです」

「君は生きていなければならない。今の君のままでいれば、国民からの信頼と敬愛を得られるだろう。この国の体勢はもっと酷くなるだろうから、その時には君が王家の代表として道筋を立てないといけない。だから、誰にも気を許してはならないよ。順応な振りをし、己を表に出さず、その身を自ら守ってほしい」

「マック様は、この国を出るおつもりですか?」

「もともとこの国の人間ではないんだ。だから今は、守ってあげる事ができない。でも必ずもどって来るから。君を守るためにこの国に必ず」


 アンリローズはこの時、約束の報酬として初めてのキスを捧げる。

 それが見合うものではないと分ってはいたが、その行為があればこの先に待ち受けるどんな悲惨な事態もやり過ごせると、己に言い聞かせるために。

 そして手筈通りに保護されて屋敷へと戻ると、ランサムの亡骸と対面する事となるが、不思議と涙は流さなかった。まるで心が壊れてしまったかのように表情を無くしたまま、声を掛けられても棺のそばで祈り続けた。


 すでに棺のそばには、私とラサル様だけとなっていました。

「姫様。ランサムも心配いたしますので、そろそろお部屋へお戻りください」

 ラサル様がかたわらで膝を付き優しく声を掛けて下さいましたが、ひたすら祈りの言葉を繰り返します。

 そして祈りの言葉に紛れるように、マック様への言伝をお願いしました。

「迎えに来ると約束して下しましたが、無理はなさらないで下さいと。この身が穢れた時は、かまわずお見捨てくださいと」

 そう告げると髪を一房切り取り、ランサム様の棺に納めました。その死を無駄にしないとの決意を表すために。




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