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 それは八年前に遡る。

 当時から国王は、唯一の辺境伯であるラサルを疑っていた。

 小さな紛争があろうと、国境付近ではラグラプルとの交流が盛んであり、女性の地位はあちらよりと言われていた。

 国王は恐れたのだ。

 今は二国に別れたとはいえ、元はひとつの国。言葉も宗教も同じで、考え方だけがかけ離れている両国である。防衛の要であるべき地域が感化されることは、王侯貴族の危機と見えたのだろう。


 辺境の視察と称する父王の指示により、私も随行する事となって初めて城から出ました。

 ついた先で待っていたのはラサル様。そしてそのご子息であり防衛騎士隊長のライル様の唯一の子、十四歳のランサム様でした。

「よくお越しくださいました、陛下。これに控えるが孫のランサムです」

「国王陛下。ご拝謁を賜り、恐悦至極にございます。若輩なれど、国の楯となれるよう日々精進しております」

「うむ、よい心がけじゃ。どうだ、そろそろ王都で騎士見習いを初めても良いのではないか?」

「陛下。ランサムはあまり体が強くはございませんが、お許しいただけるのであればお連れ下さい」

「良いのか? 唯一の後継者であろう」

「はい。我らが忠義は常に王家にあり。後継ぎがいなければ、当地は王家にお返しするのみにございます」

「なら、同行を許そう。滞在中は姫の相手を任せてよいかな」

「ご期待に添えますよう、努めさせていただきます」

 私を置いて奥に向かう父王達は、私の方を一度も見る事はありませんでした。


 そこに残されたのは私とラサル様とランサム様の三人のみ。

 すると、奥から一人の男の子が現れました。

「ランサム様、姫をお部屋へご案内いたしませんと」

「あぁ。姫、これは護衛を兼ねた友人でマック。どうぞお見知りおきを」

「ランサム様、マック様、どうぞよろしくお願いいたします」

「姫様。私は平民ですので、様を付ける必要はございません。どうぞ、マックとお呼び下さい」

「いえ。私は国のためならば、どのような方へもこの身を捧げなければならない立場ですので」

 するとランサム様は驚いた顔をなされ、マック様は顔を歪めて舌打ちまでなさいました。なぜそのような顔をされるのかが分らず、ラサル様を仰ぎ見ます。

「アンリローズ様。ここでは皆平等の尊厳を与えられているのですよ。女だからと下に見られることを、この地方の誰もが好みません。隣国の影響を強く受けてしまったのでしょうが、私はそれで良いと感じております」

「そのような国があるのですね。知りませんでした。でも、とても素敵な事かもしれませんね」


 父王の先ほどの会話から推測すると、ランサム様を王都に連れて行くことが今回の目的のようです。伯爵様に枷を嵌めようとしているのかもしれません。

「それで、ランサム様を人質として王都に?」

「どうでしょうか。陛下が今の貴族社会、特に身分制度に固執しているのは承知していますが、民亡き国は成りたちもしないですから……」

「お爺様の講釈はそれくらいにして、まずはお部屋へ。お食事などは、こちらのマックが同席させていただきますが、よろしいでしょうか」

「えぇ、よろしくお願いします」

 城での食事は独りで取る事が多く、たとえ晩餐会が開かれたとしても、私がそこに呼ばれる事はありませんから、男性との食事など初めてのことです。


 一旦部屋に入り、待っていた唯一同行してきた侍女に手伝ってもらい、湯あみを済ませます。宿に泊まり馬車での移動とは言え、初めての経験ですから疲れが溜まっていて、ソファーに座るといつの間にか眠っていました。

 目が覚めるとベッドの上にいました。どなたかが運んでくれたようです。

 窓を見るとすでに暗い事から、随分な時間寝ていた様です。

「目が覚めましたか?」

 扉の辺りから声を掛けられて目を凝らしていると、こちらに歩み寄ってくる人影が見えます。

「マック様。申し訳ありません。いつの間にか眠ってしまっていて」

「こちらこそ護衛とは言え、淑女の寝室に長居をしていたこと、ご容赦ください。ところで、お食事はどうなさいますか」

「食事の時間は過ぎてしまっているのですよね。厨房にご迷惑はお掛けしたくはありませんので、何かあまり物でもございましたら、少し頂きたいのですが」

 すると、途端にマック様の機嫌が悪くなります。また余計な事を言ってしまった様です。そんな様子を侍女は黙って見ているだけでした。

「いえ、ご迷惑なら……」

「部屋にお持ちする訳にもまいりませんので、下働きのものが使う食堂ですが、ご案内させていただきます」


 案内された食堂には、メイドや下男、侍女などが思い思いの席で食事を取っていました。

 私が入ると、皆が慌てて礼を取ります。

「あ、お食事を続けてください。申し訳ありませんが、ここで食事を取る事をお許しください」

「姫様、こちらに座って待っていてください」

「あの、マック様。本当にあまり物で結構ですよ」

 周りの方々は座ってくれましたが、驚いた顔でこちらをじっと見てきます。式典などで人目にさらされることもありますが、この距離感では初めてでドキドキしてしまいます。

「お待たせしました。こんなもので申し訳ありませんが」

 戻って来たマック様が持っていたのは、パンとスープに生ハムの乗ったサラダです。

「本当にあまり物で良かったのですよ?」

「王族の方に食べさせるような物ではないですが、余分に作っていますから遠慮なさらずお食べ下さい。パンは千切ってスープに浸しても美味しいですから」

「……。は~、温まります。お城の食事より美味しいです。この固いパンは、スープを吸うとモチモチしますね」

「姫様は城で、どのような物を食べているのですか?」

「品数は豊富ですが少量で、大抵のものは冷めていますから」

 食事が済むと侍女を呼んでくださり、当てがわれた部屋に戻りました。特にする事も無いので、幾つか持ってきていた本を読んで、そのまま寝てしまいました。




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