(七) 還る~終わり~
最終回です。よろしくお願いします。
オレは屋根である。
といっても一戸建の立派なトタンや瓦というわけではなく、小さなバス停にある人が四人ほど横に並べる程度の屋根だがな。オレがいつもいる場所は、少し小高い山の中腹にあって、坂下の左手には住宅街があり、反対の右手に行くと学校がある。オレの身はほとんど木製で、いかにも簡易的に作られたものだが、骨組みはちゃんと鉄筋が入ってるから強いぞ。だから人を雨、風、雪から守ってきた。そうそう鳥の糞からもな。知っていたか?知らないだろう。でもいいんだ。みんながオレを頼りにことあるごとにオレの身の下へ入ってくるからな。懐の深さは負けないさ。何からでも守ってやる!
たがな人が決めたことをどうにかすることはさすがにオレにもできない。このバス停は田舎のせいもあって利用する客は少ない。オレは背丈があるからほんの少し先の眺めまで見えるが住宅地を見ると随分古い家々が見受けられる。だが、もっとその先を覗いて見てみると、真新しい家々があるのが分かる。まるでこの場所から遠ざかるように。
そしてとうとう『その日』がやってきた。
人もバスも来なくなってどのくらいたっただろうか。オレは強い、と思っていたのは数年だけで、手入れのされなくなったオレはどんどんその身が剥がされてきた。木製の屋根は朽ちるまま、鉄筋も錆びだらけで虫もはえずり回っている。オレは弱かったのか…
おいゴミ箱さんよ!あんたちゃんとオレの下に入んねぇと濡れちまうぞ?せっかく綺麗な姉ちゃんに綺麗なお花を生けてもらったってのに、そのままだと花が冷えちまってすぐ駄目になるぜ。朝冷えはお互い堪える身だろ。…ん?そうか、よくよく見たら、オレのせいだったか…。すまねぇな、朽ちた木の隙間から流れ出る雨漏りがあんたにかかってたんだな。オレはお前すらまともに守れねぇ身になってたのか。
眠りと目覚めを繰り返してるうちになんだか騒がしい。よくよく下を見ると…真っ赤だ!おぉ…ゴミ箱が燃えている!?火に負け今にもはち切れそうだ。頼むもってくれ!オレはどうしたらいい?なぁオレは何ができる?
火が徐々に上へと手を伸ばしてきた。オレへと燃え移る。なんだ、お前も寂しかったのか。そうかそうか。ならオレが手を握ろう。オレは人を見ていたからな。人は寂しいからと手を繋いでいた。愛しいしものを想い抱きしめていた。暖め合っていたんだ。それならオレにもできるさ。もう大丈夫だ。
お前たちの望みはオレが叶えるよ。
消防の検分によると、火元は花火の不始末だった。概ね若者が集って花火で遊んでいたのだろう。防犯カメラがあるはずもなく犯人探しは到底無理だった。一歩間違えば大惨事。だが運良く昨夜の雨で下がぬかるんでいたことと、燃え移ったバス停の屋根が朽ちて弱っていたために折れて火元へと覆い被さったのだ。それで一気に火が弱まった。焦げ臭さを感じた近くの住民が様子を見に来たお陰ですぐ消防に通報し、事なきを得た。誰も怪我人も死人も出なかった。
草むらと元バス停の屋根が燃えただけで済んだ、ささいな火事の出来事。
鉄の欠片は土に還った。数年ののち、そこには小さいながらも色の優しい花が咲き、人を和ませた。
そのうち公園になり家族や恋人が遊びにやってくる場所になった。
水飲み場の近くに一つのゴミ箱がある。
それはまた別のおはなし ───
【 ~終わり~ 】
最後まで読んで頂き本当にありがとうございました。いかがでしたでしょうか?私が創作するようになってから今までで一番長く続いた(字数も多い)お話です。短編構成で7部まで書き上げることができたのは、ゴミ箱さんのお話を面白いと言ってくれた人がいたからです。やはり読者がいて感想を頂くのは力になりますね。私は読者側でいることが圧倒的に多くそして読書歴も長いのでこういった形で創作側になるのもいい刺激になりました。新たな気持ちで本と物語に向き合うことができるようになりました。これからも続けていけたらいいなと思います。ご感想もお待ちしております。
最後に未熟な文章にお付き合い頂き重ねて感謝いたします。また機会がありましたら宜しくお願い致します。